14.魔術と大麻
「両親ともに摂取させてみたら、また違う変化を起こしたんだよねー。
いや、不思議と言うほどでもないか。奇形児と優良児が産まれたの。
で、ここが肝なんだけど。子どもが産まれたら、両親ともに大麻を摂取した時の影響がほとんど無くなった。時間の影響じゃなくて、子どもが産まれたらってことが一番の問題ね? 栄養を媒介してる母親だけなら分かるんだけど、父親もそうなの。びっくり。まるで、その薬の役目を終えたから、その薬効が消えてしまったみたいだった。
どうやったら、こんな植物を作れるかまったくわかんない。外的要因なのに、父親まで影響を受けるんだもん。
ネズミの実験じゃ、それ以上分からなかった。接種していた皇族たちの様子が気になってしょうがなくなったから、ここに来たの」
ルルはメルの膝から起き上がって、顔を見た。何か頼みたいときの顔だった。
「それで、魔術を学んでいらっしゃるメルさんの私見をお聞きしたいわけなんですけどー」
普通の自然で起きるわけがないその状況が、どのようにして作られたか。それは考えずとも分かる。ルルも予想が付いたからここまで来たのだ。
自然法則に逆らうのは魔法、あるいは魔術だ。現象をねじ曲げる不可解な因子は、大体がそう。
「……条件式で作られた魔術かもしれない。私たちが約束をするとき、誓約を交わすでしょ?」
「うん、破ったら代償があるからね。大事な契約は誓約を結ぶのが安全だもん」
「誓約は条件を満たしてしまえば、解除できる。あるいは、破らない限りは発動しないようにできる魔術なの。
前提条件を定義しておいて、それに反した場合発動するようにする。でも、特定の個人同士でもなく、全体に作用する条件付けをしようとなると……私にも理解できない。性別で区別している可能性が高いけど、子どもが産まれた場合の条件式を構成するには、そもそも大麻に付与している時点で、その種自体を改変しているわけだから」
「じゃー、やっぱり魔術ってことだね。私は専門外だー」
「条件が分かっているなら、解除は出来るけど」
子どもが産まれると言う条件が正しいなら、だが。
解除条件が簡単なものではなく、相手の同意を得ないものだとすると、何らかの目的がこの魔術には存在するはずなのだ。……いや、子どもの誕生こそが狙いなのだろうか?
「うーん、人間では確認できてないから、実験的に進めていくしかなさそう。あとは実際に摂取してしまった人の経過観察だね」
時間のかかる戦いになりそうだ。人死にが出ないうちに、素早く実験を進めていくべきだろう。
「大麻の依存性の方はどうにかなりそう?」
「徐々に依存性が軽いものに代用していく予定だよ。それと、わざと現存種の大麻を市場に乗せて、薬害を引き起こそうと思ってる。地下街に流通網を牛耳られる前に、本物を隠蔽しとかないと。
あとはー、身体が覚えちゃった快楽の記憶はそう簡単には消えないから、刺激を求めてまた手を出したり、もっとやばいものに手を出さないように、現存種の大麻に一手間加えるつもり。交雑ができるかは実験次第だけど」
「もうそこまで進めたんだ、さすがルル! 価値を感じていた対象をぼやかしてくかんじ?」
「そうそう。好きだったものが、改良が加えられて自分が好きだった物とは違う違和感を持つ。言語化は難しいんだけど、何か違うっていう違和感を利用するの。人って冷める時は急なんだよ。こっちが規制するんじゃなくて、自分から手を出さないようにするのが一番だと思う」
どう細工する? ちょっとずつ苦くしていこうかな? それとも辛くしていこうかな? とニヤニヤつぶやいている。
ルルは昔、私たちに嫌がらせをしてきた奴らの畑に細工をして、作物を酷い味にしたことがある。毒に変えたというわけでもなく、純粋に不味くしたのだ。
ちょうど引き取られる直前の出来事で、メルたちが自分たちで耕して一から作った作物を大人たちが土地から自分たちのものにして、一月ほどまともな食事にありつけなくなったころだ。自分たちの権利を主張しようにも、子どもの言うことだとまともに認められることはなかった。大人の言う権利は、自分たちの都合を押しつけるものなのではないかと思った。泣き寝入りしてしまいそうだったところで、ルルが復讐すると言って、作物自体をいじったのだ。
食べられないほどではないので、我慢して食べることは出来るが、けして食べたくない代物に変えたと言っていた。少しの食糧も無駄に出来ない場所だからこそのやり方だった。微妙なラインを攻めるのがうまいのだ。作物自体を盗んだら、メルたちの仕業にされるのは分かっていたので、やり返すにはあれが一番だと考えたらしい。スカッとした。
ルルは嫌がらせを企んでいるときが一番楽しそうだ。メルも嫌な奴らの歪む顔を考えるだけで、ワクワクしてくる。
普段は、マリー女王が欲求をうまく管理してくれているのだが、どうにも最近は不満が溜まるような出来事が多かったため、この機会に暴れ散らかしたいのだ。
メルとルルが組み合わされば、事態はより激化するだろうが、そこは悪人に対してなら許されるはず。……うん。
「しばらくはこっちにいれるんだよね」
「メルに協力するように女王様から頼まれたから、解決するまでは居られる」
「さすが、陛下」
ーーじゃあ、悪者退治に勤しむとしましょ。
そこからの動きは早かった。
そもそも、メルはありとあらゆる準備をしていた。いつでも、皇城に反抗できるだけの体制は取っていたのだ。
メルたちは皇城内で働いていた間は、上に言われるがままに仕事をしていたわけではなく、自分たちから仕事を提案し関係を形成し、内部を掌握している。
広い広い皇城内の地図を作成し、秘密通路なども全てチェック済みだ。動こうと思えばいつでもこの国の内部には入り込めた。
しかし、それは時期ではなかったから、無理に皇帝の元に訪ねていったりはしなかった。こんなものを作っているのがばれた時点で、メルの首は斬られる。最後の最後の切り札だった。
ーーが、今回は使うべき時だった。隠れた黒幕のしっぽを捕まえるために。
メルたちはわざと、牢屋に幽閉されていたエドガーたちを外に出した。看守を気絶させ、牢獄から彼らを開け放した。首都内の地図も作成していたので、それを渡して、協力者であるユダのもとに行くよう進めた。
ユダがエドガーの口から、協力者の名を聞き出してくれるはずだ。
さらに、皇城内で次の大宰相が誰になるかのうわさを流した。
その相手は自分達の部下の一人であったコンダである(上から干されていた男だ)。彼は何を間違えたのかメル達の下で働くこととなったが、本来であれば次の宰相になってもおかしくない身分の名門貴族だったのである。
メルとルルの調教によって、真人間となった彼はその後メキメキと力を発揮し始め、皇帝の側近の椅子はもう目の前というところだった。彼女たちが離れたことで、またもとに戻りつつあったらしいが、無くはないレベル。
だから、わざとその噂を流させた。もし、この予想が正しいのであれば、彼は確実に動き出す。その決定的な罠をつくりあげる必要があったのだ。
その作戦を実行した後、突然メルは教会の審問官に誘拐されてしまった。本当に突然だった。




