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13.ルルと話し合い

 

 メルは、久しぶりに自分の双子の姉のルルと会っていた。


 メルがルルに会ったのは、前皇帝による凶行以来のこと。ルルは毒の専門家としてあの植物を調べることに時間を割いていたし、メルはメルでやるべきことをこなしていたので、会う余裕がなかったのだ。

 二人とも仕事がないときは暇だが、一つ仕事があると多忙になるのはいつものことだった。しかし、ここまで会わない時間が長かったことはなかったので、心配していた。


「メル~、顔色悪いよ。ちゃんとご飯食べてるの? 痩せたんじゃない」

「最低限は食べてたよ。ルルこそちゃんと寝てる? 目の下にクマがある」


 自分の片割れは心配性だ。

 メルは苦笑しながら、ルルの頬を撫でた。

 ――自分そっくりの顔。

 人のことを気にしている場合ではないだろうと思うほど、クマが濃い。女王の手を借りたとしても、あの植物の解析に時間がかかっていたに違いない。苦労しただろう。しかもこうやって、メルの元まで駆けつけてくれた。

 間に合わせだが、目立ちにくくなるよう化粧をしてやろうと懐の化粧道具を取り出した。その前に顔の血色が悪いので、軽くマッサージをすることにする。


「ルル、来てくれてありがとう」

「べーつに、メルのためじゃないし」


 入国が難しくなっているこの国に来なくとも連絡を取る手段はあるのに、わざわざ来てくれたのだ。メルのために違いなかった。しかし、そんな事はおくびにもださない姉の優しさに、メルは甘えることにした。

 

「それより、ルーファからさっさと帰ってこいって言伝があるよ。もう我慢ならないって」

「うわぁ……もうダメ? まだ、時間かかるんだけど、今回は一体何するつもりかな」

「さあ? 昔からルーファの考えてることはわかんない。

 外圧かけて、他国に国民を流出させるとか全然あり得るよね。聖国内に軍勢を送ったりは流石にしないだろうけど、聖国内の地図を流したりはしそう。悪ければ、戦争が起きるかも」


 ルーファがキレると、人が死ぬ。


 それは昔から変わらない。タブーを犯した相手に容赦をしないのが討ち手だ。その歴史の中でも、苛烈な断罪者がルーファだった。

 以前彼女を怒らせた相手は、一族郎党磔になった。マリー女王への危害を企てていた(実行に移してはいない)相手にその報復なのだから、王族への迫害を長年続けてきた聖国に対してはどんな報復をしようとしているか。恨みつらみは積もっている。責任の対象が聖国の住民にまで及ぶ可能性もあった。


 考えうる限りの最悪な事態を想定しておかなければ。ルーファは身内にも容赦はない。優先するのは、王族だけだ。その点だけは安心して任せられるが、それ以外は油断しないに超したことはなかった。


「メルの進捗はどんな感じ? 皇帝陛下を振り回してるの?」

「全然。振り回すどころか、会えてもない」

「ほー? メルでも会えないくらいなんだ。ユダに無理やり皇城内に入れてもらったから、また直談判にでも行くかと思ったのに」

「皇帝周辺は、流石に警戒が厚くて無理だった。だから、今は『枢機卿』殿下にお願いしてる」

「『枢機卿』『殿下』? あー、はい、分かった。正論ばっかりの、頭カチカチ男。現実が見えてないのに、説教ばっかり得意な」


 珍しく姉の口が悪いと思ったら、ルシエルと面と向かって討論したのはルルだったか。

 以前話したときに聞いたが、理想論ばかりが先に来て、現状を受け入れきれていない男は嫌いらしい。そのせいでまわりが破滅しかねないと。自分たちの父親が似たような男だったので、受け入れがたいようだ。メルの記憶では、純粋培養の抜けないお坊ちゃまだった記憶しか無いのだが、姉の認識ではそうだった。


「いまは教会と皇城間の対立が広がって、困惑中。ソレイユの意思でやってるらしいけど、何か裏があるなと思って、どう動くべきが探ってる」

「私もあの陛下が思い切ったことしたなって思ったよ。本来なら皇帝になることも嫌がっていたような人なのに、そんな強行策に出るとは思えないし。あの人の人柄を知ってる人なら、まずそれを疑うよね」

「だよねー、おかしいんだよ。あと今の皇室の体制では、まだ大宰相や大臣は決まってないの。周辺国からの外圧やら、南島連合国からの貿易問題もあるから、何より役職を早く決定すべきなのに、決める様子がないのも引っかかってて」

「まじかー、それは絶対抗議が起こるでしょ。上が決まらないと下の動きようもないのに」


 抗議は実際、起きた。が、それはいつものように圧力でもみ消されている。所詮、聖国だ。そう簡単にかわるわけがない。

 だが、この行動にはソレイユの意図が隠されていると見るべきだった。彼が本当に主導したのか、したのであればどのような考えでそれを行ったのか。

 それを知ることが事件の謎を解く鍵だとメルは考えていた。

 

「じゃあ、とりあえず潜入は続けるのね」

「いや、今は教皇と接触できないか試みてる。マリー女王陛下は教会側の仕業ではないはずと仰ったんだけど、今のところ手がかりがさっぱりで。一番事情を理解してそうな人に、話を聞こうと思って」

「情報を絞るための情報が必要ってことか。今分かってる情報はどんな感じ?」


 これまで集めてきた聖国の内情を、ルルに説明した。

 貧民街で行った政策が原因で、教会との対立が広がっていることも説明する。


「じゃあ、仕掛けたのは上流階級の人間には間違いなさそうだね。他国からの入国を縛った状況で、手出しがあったなら、他国の人間でもない可能性が高く、皇帝の動きをよく知れる立場の人間かな?」

「多分、情報源は宰相だと思う。貧民街で騒ぎを起こしたのは、エドガー・モンドっていう男だったんだけど、その男、宰相と同時期に官僚として採用されてた」

「宰相ねー、どの宰相だろ。私たちが皇城内で働いてたとき、見たことある?」

「……ないよ。よほど奥にいたのか、私たちに会わないようにしていたのかは知らないけど、見たこともないはず」


 聖国の各府を統括する人物が宰相。

 宰相は合計7人いて、その上に大宰相が存在する。

 大宰相はいわば貴族の頂点に位置し、宰相はこれまで皇帝を輩出してきた大貴族の代表者が着くのが慣例だ。宰相は第一宰相から第七宰相まであり、その数が小さいほど皇帝に近い。


「たぶん、後者だろうね。生き残ったのは第七宰相だったし」

「そっか、じゃあ情報が取れないのも仕方ないね。私たちのことを最初から警戒してるってことだもん」

「第七なら、よほどのことがなければ会う機会はあったはずだからね」


 相手側がこちらを意識しているなら、無理に接触しない方が良い。証拠は確実に掴んでから、トドメを刺さないと逃げられる。


「ルルの調査はどうなったの?」


 メルはルルの顔を揉みながら、気になっていた話を聞いた。ルルが調べていた大麻は、今後のこの国の行く末を決める可能性があった。


「あー、うんとね」


 軽い力で円を描くようにマッサージしていく。血色が大分良くなったことを確認して、瓶に入った蜂蜜水を取り出し、軽く塗りこむ。


「はー、疲れた体にメルのマッサージやばい……。ねむくなってきたぁ」


 目を瞑ったまま、メルの膝に転がっているルルは今にも眠ってしまいそうだった。

 それほど疲れているのだ。普段、長時間の眠りを必要としないように訓練しているルルが。


「大麻かー、あれやばい薬だったんだぁ」

「やばい薬?」


 ルルがやばい薬と言うなんてよほどではないか。

 子どもの頃から二人で生きてきたメルたちは、身を守るために極端な行為もたくさん行ってきた。特に幼いときはルルの毒が頼りだった。


「あの大麻をネズミに食べさせて経過観察したんだけどさー」

「どうしたの?」

「興奮状態になっただけじゃなくて……その経緯で出来た子どもに問題があってさ。良く作用すれば、接種したネズミの本体は身体能力強化したり、必要の無い痛みに鈍くなったりするんだけど」

「だけど?」

「子どもに異常が出るみたい」


 ルルは起き上がり、塗り込んだ蜂蜜水を近くに用意した薬酒で落とす。ハーブを漬け込んだルルお手製のものだ。


「片方の親に大麻を摂取させた場合と、両親に大麻を接種させた場合を検証したの。

 まず、接種させた片方の親がメスの場合、子どもが奇形児になった。それは薬による中毒症状で、胎児に影響が出たからだと思う。でも確率としてはまちまちだったので、再現性は低いかも。毒性が強いから、薬効が出やすいネズミは極端な反応が出たりするんだよね。

 次に片親がオスの場合。

 メスと接触させる前に大麻を摂取したこのオスは、この薬の効果で身体能力が飛躍的に伸びたの。それはもうびっくりするほど、危険なネズミになったからすぐ処分したんだけど。

 片親のネズミがオスの場合、子どもに何らかの影響があったのは身体能力が飛躍して高い能力を示した場合だったんだよね。つまり、身体能力と引き換えに、身体の中の何かが変質化してると考えて良いと思う」


 で、両親に接種させた場合なんだけど……


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