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10.聖国の歪み


はじめは現状の復習みたいなものです。

ここから最終話に向けて頑張ります!


 聖国教会。大陸の中央部にある大国ーー聖国を中心に活動している教会である。


 聖国教会には多数の信徒がいる。そもそもこの国自体が教会を主に生まれたため、信徒の数は膨大だ。それに、その数は今もなお増大している。魔物が存在し続け、人を脅かし続ける限り、人々はこの教会の力を求め続けるだろう。

 そして、大国の信頼を築き、その多数の信徒を束ねる頂点が教皇だ。


 一方で、俗に皇城と呼ばれるこの国を治める機関がある。光を名に冠し、神の血を引き継いでいるとされる皇族が中心にあり、政治を動かす。

 その一族を支配し、頂点として国を治める者が皇帝である。


 聖国では二つの権力層が互いに影響し合い、政治を行ってきた。


 ーーそして、教皇は皇帝よりも力を持っている。


 現教皇は齢35歳にしてその地位に就き、その強大な力で40年以上もの間、国の平穏を保ってきた。()()皇帝がいたにも関わらずである。

 それは教会が皇城の行動の責を取る形で、政治を動かしていたことによる功績だった。

 しかし、それを庇う羽目になった教会側の皇城への不信、対立感情はひどく大きかった。

 反対に、教会の権威に押され、自由に権力を動かすことの出来なかった皇城側も教会側に対し大きな不満を持っていた。

 全面的に悪いのは、皇帝による無分別な政策であり、国庫も気にしない豪遊三昧を繰り返していたことだったが。


 その愚帝アルベール、現在の皇帝であるソレイユの父親は、その死まで周囲に多大なる迷惑を及ぼした。

 盛花国国王マリーを害そうとした事実も問題だったが、「何者」に殺害されたかが問題であった。

 聖国の地下に強大な力を持つ魔物が封印されており、それに手を出そうとして殺されたなどと、真実を語れば国民が混乱に陥るどころの話ではない。

 そこで、聖国はすべての責任を盛花国に押しつけようとしていた。


 その行動の中心にいたのは、教会側だった。教会は自分たちに犠牲の少ない方法で、後始末をつけようとしていたのだ。彼らがもっとも恐れたのは、地下の存在が明らかになることだった。

 新たに皇帝となったソレイユが、アルベールの死を不慮の事故と言う形で始末をつけていなければ、盛花国と聖国の対立は避けられなかっただろう。


 また、皇城(国内外の政治を行う側)では、皇帝の交代に伴い、大宰相以下の殆どが不在となった。内部不和が見られ、政治の統治不良における国内の混乱も起きていた。


 そんな中、教会と皇城が協力して、政治の混乱に苦しむ貧困層の支援に乗り出すことになった。……が、皇城側が教会の権利を侵したことで、その協力関係は露と消えた。


 今はそんな状況だったはずだった。


 メルは自分の命を狙っていた組織の頂点である教皇と対面していた。

 自分が何者かもこの人物は理解している。だが、その表情は柔和なまま。


「盛花国のお嬢さん、遠慮はいらないよ。こちらへ来なさい」

「……メル、お前は来なくて良い」


 ルシエル。ソレイユ。そして、教皇がそこにいた。


 知りたくもない事実を知らされることになると分かっていながら、メルは足を一歩先に進めた。

 


 ルシエルは敬愛する兄に似合わない動き、全く予想していなかった行動に動揺していた。

 こんなことをするのは自分か、あの盛花国の女だと思っていたのだ。


 けれど、教会に対する反意を示したのは皇城側からであり、人に害意を向けたことなどない兄だった。


「……忙しくしていらしたのは、こんなことを計画されていたからだったのですか」


 ここにいない兄に向けて、呟いた。

 予定されていたのなら、教えて欲しかった。全てを万全に整えて、協力したのに。


 貧困層への支援策も、予定通りのものだったのか?

 ……いや、提案したのはルシエルからだった。メルが漏らしたのでもなければ、あの状況を利用されたと考えるべきだった。

 こんなことを自分で思いつくような人では決してない。誰かの入れ知恵があったに違いなかった。



「聖下、ルシエル卿がいらっしゃいました」


 ルシエルは、教皇に呼び出されていた。

 先日の騒ぎの責任を取れとでも言われるのだろうと思っていた。覚悟よりも諦めが強く、もうどうにでもなってしまえという感情で教皇の元に向かった。


「あぁ、いらっしゃい」


 そこは窓際に位置する小さな部屋だった。教会内の権勢を示すような華美な調度品も見られず、木製の椅子とティーセットが用意されている。


 ルシエルを歓迎したのは教皇だったが、まるで別人のように思えた。……例えるなら、田舎からやってくる助祭のように好好爺然としていた。

 一国を代表する人物には到底見えなかった。


「ご無沙汰しております、聖下」

「久しぶりだねえ。こうして言葉を直接交わしたのも何年前になるかね」

「3年ほど前になるかと」


 顔を合わせることはあったが、直接話をすることはほぼなかった。


 教皇は、ルシエルに色んなことを尋ねた。最近興味のあることは何か。問題を感じる司教はいないか。

 大して身のある話だとも思えなかった。ルシエルに世間話は向いていない。空気を凍りつかせるのは得意だが、和気藹々と会話をするタイプではなかった。


 のらりくらりと会話を誤魔化されているような気がして、なんとなく手をつけていなかったティーカップを眺める。

 

 ーーそれは気味が悪いほど真っ赤だった。


「……これは、あの茶ですか?」

「気付いたかね。そう、これはあのお茶だ」


 規制を敷かれ、紛れ込むことのないようにされたはずのもの(大麻)がどうしてここに?


「まあ、私たちが飲んだところでどうにもならないよ」

「一体どういうことです?」


 教皇は一口その茶を含み、大したこともなさそうに首を振った。


「答えとするなら、この茶ーーこの中身は、皇族用だから安全だと言えばいいかね。さらに言えば、力のある皇族に意味がないというべきか。

 君が考えていたように、これは南から仕入れていたものだ。私達の身体専用に作られた特別な、ね」

「……仕入れていたということは」

「そう。どこかから運び込まれていたわけじゃない。そもそもが私たち専用の薬なのだよ」


 どういうことか、君なら考えれば分かるはずだ。


 問われたルシエルは、数秒考えて答えた。

 驚きのあまり、唇が震えそうになった。


「皇族には、常態化した病でもあるのですか?」


 教皇は肯定するように微笑んだ。

 その微笑みが更なる驚愕を予想させた。


 皇族だけがこの薬を飲まなくてはならない理由を考えるならば、これしかなかった。

 しかし、当人(皇族)である私たちがその事実を知らないとは何事だろうか。


「皇族には薬が効きづらい。強い薬が必要だったんだ」

「一体、何の病ですか」


 皇族にそのような病があるなど、はじめて知った。

 兄には敵わないが、私は健康な体を持っている。こんな薬が必要だとは一切思えなかった。


 手の中のティーカップの赤みをひたすら見つめ続けた。

 

 教皇は、「そうだなぁ、何から話そうかなあ」と迷うように眼を瞑り、「君が調べていたことから話そうか!」と言った。


 ルシエルが調べていたこととはなんだ。次々と、教皇の発する言葉に衝撃を受ける。


混ざり物(ミックス)と呼ばれる子たちを知っているね。皇城の僻地で、隔離されるように暮らしている。彼らがどれだけいるか知っているかい?」

「知りません。ですが、そこまで多数ではないのでは」

「じゃあ、聖属性を持つ私たちの同胞の数は?」

「皇族だけに絞れば、100にも満たないかと」

「ほほほ、そうだね。そして、混ざり物の子たちは教会の子どもたちと同じくらいなんだ」


 ーー体が健康な子が皇城にはいっぱいいるにも関わらず、にね。

 あそこには500人くらい居たかなぁ。無駄飯食いが多くて困るよねえ。


 外に放り出してやりたかったんだけど、そうもいかなくてと、笑いながら毒を吐いた。


「考えてみれば、同胞たちも少なくなったなあ。でも、まあ、そう言うことだよ」

「は……」 

 

 ルシエルは、頭の中が混乱していて、まともな返事を返せなかった。知ってはいけない事実を知らされようとしている。

 本来であれば、ルシエルの立場では知ることも許されないようなことを。


 理解が追いつかないまま、教皇はマイペースに話を続けた。


混ざり者(ミックス)は、神の色を持たない者のことを示している。言い換えれば、神の力を持たない者とも言えるんだ。定義の入れ替えだね。

 元々、混ざり者は本来色ではなく、属性にて判別された。神の眼を持つ神官によって区別が行われていたんだ。力を持っているか、いないかが判別の基準だった。

 しかし、皇族たちのある特徴が分かって混ざり者の意味は変わった」 


 ーー『混ざり物』は神の色を持たず、神の力も持たないものとするという定義に変化したーー


 「混ざり者」の中でも、髪と目に神の色を持つものは皇族に認められることとなった。

 一方でーー例えば髪に神の色、瞳にアイスブルーの容姿は、神の容姿の基準からは反しているので【混ざり者】となる。


 時代が進み、聖属性を持つ子たちが減ったからこそ、分かったことだったと教皇は続けた。

 ここで『混ざり者』の定義を変更したのは、力も色すらも持たない純粋な劣等者を『混ざり者』という区分に変更することが、子どもの出生率を伸ばすのに必要なやり方だったからだ。


「びっくりすることにね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と分かった。ーーここでの混ざり者の意味は、神の力も色も持たない人間のことーーつまり、なんの力もない子どもが生まれれば、後に力の強い子どもが生まれやすくなっていったのだ。

 混ざり者が子供を持てば、皇族(力を持つ者)が生まれる可能性さえもあった。

 でも、混ざり物と呼ばれる子たちは体が弱かったんだ。子どもは作れなかった」


 ーーここからが本題だよ。

 

「子どもが産めるのは混ざり物以外の健常者たちか、教会の者たち。

 でも、教会の者たちは子が生まれにくかった。聖力が強いほど、人との間に子どもは作れなかった。生まれても、半数が混ざり者になってしまう。

 しかし、絶対に聖属性を持つ聖職者はこの国に必要だった。

 なら、子供を増やすためにはどう行動すればいいのか?」


 ーーそう。


 より健常な子を作り、その子にある薬を飲ませることで、混ざり者をわざと作らせたんだ。

 その方が確実だからね。


 





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