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7.メル+ソレイユ



「そう簡単に、人を魔物に変えることはできません。よほどの方法を用いたのでしょう」

「……そうだ。人を魔物に変えるのはそう簡単なことではない」

 

「あなた方は何をしたのですか」

「うむ。答えてやろうか」


 褒美だと言わんばかりに、皇帝は哄笑する。


「憎悪と虚無。魔物が生まれる素となる瘴気を生きながら、人間に混ぜ合わせ、苦痛により、体を壊す。生と死の間を行き来することで、魔物となるのだ」

「……そんなことをして、何が得られたのですか」

「そのおかげで、聖魔法の使い方もより強化できた。より繁栄が約束されたのだ。このまま進めれば、古代の魔物たちも滅ぼせよう」

「わたくしたち、聖国を自由にさせすぎましたのね」

「そう怒るな。魔物を操れるようになる時も近いぞ」


 人を魔物に変えたから、なんだというのだ。魔物が生まれる仕組みを解明しただけではないか。それも悪用されれば、この世に害をもたらすものだ。

 魔物は複数の種がいる。中には、人を魔物に変える種もいるとされているが、それは伝説に過ぎない。瘴気から、魔物が生まれるのは誰でも知っていること。メルが実物を見た感想は、人と魔物を混ぜただけの紛い物。


「まだ、完全に魔物となるものは作り出せていないのだがな。利用する術は見つけたのだよ」

「利用?」

「古代の人間たちは知っておったのだろうな。だから、この国の地下に魔物たちの巣を作った。魔物たちは、瘴気さえなければ完全なエネルギー体だ。消費しきって、腹まで食らうてやろうよ」

「……あぁ」


 優しい主人が頭を抱えた。それは人間をエネルギーに変えて、利用するという意味か。自らの繁栄のために、民を消費しようと言っているのだ。この男が生きていれば、否応なしに人が死ぬ。

 

 ぎりっと唇を噛み締めた。

 これ以上、頭のおかしなことを言い出す前に、この男を殺す。


 メルはいつになく自分が感情的になっていたことに気付かなかった。

 人質にとる。弱味を握る。それが皇族の常套手段だと分かっているのに。


 後ろにいたルルが引き留める間もなく、メルは気配を絶って飛び出した。


 皇帝に狙いをつけて、背後から襲いかかる。


 ーー罠が張られていた。


 光が密集して、メルを集中放火する。体が焼かれる。

 魔術を得意としているメルだが、魔法は純粋なエネルギーの塊。木、水、火、風、土に、闇と光。そして、主人たちの根源の力は、生半可には避けられない。威力が段違いなのだ。


「……メル!」

「この者は?」


 ニヤニヤと笑う皇帝に、嵌められたと思った。感情がモヤがかかる。顔を見るだけで、憎しみのまま叫びだしそうになる。

 

 まだ、ルルがいる。必ず助けを呼んでくれるはずだ。時間を稼いで待てば、なんとかなる。


 メルの頭の中には、なぜかそのときソレイユの顔が思い浮かんだ。




 突然、皇帝に呼び出された。真夜中、ガウンを着て、天井を眺めながら、メルのことを考えていた時間に呼び出された。

 彼がソレイユを呼び出す時は、碌な用事ではない。わざわざ大宰相直々にやって来たため、どんな厄介なことを言い下されるのだろうと、ソレイユは思った。



 本宮。大広間の奥。床の模様に見せかけた魔術式が歯車のように円状に動き、あらかじめ込めてあった魔力によって作動する。ソレイユは魔法にも魔術にも詳しくないが、この強大な式は細かく細かく刻み込まれており、現在の技術がここまで発達しているのだろうかと疑問に思った。古代のものではないだろうか。


 ーーそこに足を踏み入れる。


 そうしてたどり着いた場所は、闇深く、光の届かない空間。


 こんな場所が皇城内にあったのか。光溢れるこの城には、夜でさえいくつも光が輝いているというのに、不自然なほどに光がない。



 壁を伝いながら、大宰相が歩いていく。手元には灯りがあるが、下に降りていく階段で足元が不自由であった。目的地は地下。最悪な予感だけが増す。


 階段を降り終えると、奇妙な呻き声が聞こえ、赤く淡い炎のような輝きが照らしている。巨大な檻。細い金属製の支柱がいくつも並び、何かを閉じ込めているように見える。


 檻の中を見るよりも先に、その前に倒れ臥している人がいた。


「……っ」


 そこに走りよろうとして、邪魔するもの。ソレイユをここに呼び出した張本人。皇帝だ。

 金銀財宝で作られた絢爛な衣装は、足元を引き摺るような長さ。毛量の多い金髪、薄い金眼。酷薄な印象と違和感がある気高さがない交ぜになった、欲望をソレイユに押し付ける男。どこまでも見栄を張り、他者を見下しては、人が犠牲になる不快な色の塊。


 それが、自由で美しい魂を汚す。


「……なぜ、そこに彼女がいるのですか」


 衰弱したメルが、倒れていた。鎖に繋がれている。


 しばらく、彼女の姿を見ていなかった。だから、ソレイユはずっと気になっていたのだ。マリー王女の婿探しに時間がかかっているのだろうと思っていたが、皇帝に囚われていたのか。


「ああ、知っておるのか。この者のことを」

「なぜと聞いております……!」


「……そんな男のこと、知りませんよ。近づかないで」


 掠れた声で、メルがソレイユを遮る。痛めつけられたのか、血が、生傷が、裂傷が彼女の体に残っていた。眼鏡は外され、衣服も鉤に傷つけられたあと。


 その中でも、彼女は自分を無関係だと言う。助けて欲しいとは言わない。


「生意気な娘よな。これは盛花国のものだ。我を殺そうとした」


 ーーなぜ。余程のことがなければ、メルはそんなことをしないはずだ。


 ギッと皇帝を睨みつける。彼女に何をした。


 聖国の皇帝に手を出すということが、何を意味するか理解していないはずがない。もし、彼女が皇帝を殺そうとするなら、間接的に手を回して、尻尾を掴ませることがないようにする。


「おまえの知り合いであろうと、どうでも良いが。このまま、コレは終わりよ」


 鎖を引っ張る皇帝に、なるべく声をあげまいとするメル。


 ソレイユは出来る限り足を、メルの近くに運ぶ。皇帝は剣の達人だ。傷つけることに長けた人間から、彼女をどうにか逃す隙を狙う。


「くくく、ソレイユよ。おまえも皇帝になるのであれば、実物を見ておかねばならない」


 周囲に並ぶ男たち。光魔法によって、奥の奥まで暗黒を照らす。


 眼と口をとっさに服で覆う。瘴気に塗れ、何も見えないと思ったが、目を凝らせば見えた。


 ーーこの世の地獄。


 照らされた先には、まさに地獄と呼ぶにふさわしい光景があった。多数の血。四肢。それでも、生きている、魔物?


「話は聞いておるだろう? ここには魔物がいるのだと」


 真ん中に、長髪の女性が座り込んでいた。天井を、壁を、蕾が、蔦が張っている。


 成長してはいるが、あの色はマリー王女。

 

「近づいては、なりません」


 ーー宙に手を組んで、祈っている。


 光が照らす。木漏れ日のような、葉の影を通して見える優しい明かり。王女の周囲だけが黄金の庭の幻に包まれる。


 魔物を浄化しているのか。王女に襲い掛かろうとするものが、次から次へと消えていく。


「人が入れる領域ではないの。災禍がやってくるわ」


 盛花国王族の力は話に聞いていたが、聖属性の浄化に似通っているように見えた。封印の力ではなかったのか。これではまるで教皇が力を振るったときと同じだ。


 全ての魔物が浄化され尽くしたと思った先に。


 ーー残っているナニカがいる。動いている。


 それが見えた途端、恐ろしさに後退りした。色が見えない。あまりにも巨大だ。


 イビツで穢れた忌避すべき光景。本能的に恐怖を感じる魔物たち。蠢く異形は、人間が嫌悪する見た目をして、檻の中で這いずっている。


 ーーコレが古代の魔物たちか。






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