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5.


 それからの日々は、割とゆっくりと進んでいったようで、早かった。


 彼女たちが言ったように、第一皇子は自滅した。メルたちを潰すために、盛花国に流通をしている商人の家を潰そうとして、別の派閥の有力な皇族と敵対し、皇帝お気に入りの愛妾と密会していたという事実が公表されてしまう。そこから愛妾を通じて、皇帝の財産に手をつけていたことが芋づる式にばれ、貴族や商人たちの悪評も買ったうえで、皇帝に潰された。

 バカな権力者には権力者をぶつけるか、法で殺すか、民衆の敵にすることが効果的だと、メルが自滅した第一皇子を見て言っていた。やけになって、全部を巻き込む可能性があるので、一気に叩き潰す必要がありますとも話していた。

 しかし、それには情報操作が必要だ。彼女たちは『記事』という噂や情報を広めるための組織を作り、民間に広げているようだった。独自の情報網の重要さを知る。


 そんな中でもメルとルルは、なんとかある程度の仕事を終わらせては自国へと戻り、聖国へやって来るを繰り返す。

 彼女たちは有能ではあったが、聖国の皇室系統、中でも後宮、内務と仲が悪く、何度か問題を起こしていた。『雪華の姫』という名称が定着して、その噂で彼女たちに興味を持った男たちを切り捨てることも繰り返していた。

 また盛花国から、数人の部下を連れて来ることにも成功したようで、仕事の効率が上がったようである。


 一方で、メルとソレイユの関係は、ほぼなんの進捗もない状態で停滞していた。その間、なんと3年。


 ソレイユ自身が、メルの側に居ることができれば満足で、彼女とどうありたいのかを意識していないこと。メルも態度を変えるわけでもなく、マイペースに彼と関わっていることがその原因だった。つかず離れず、一定の距離を保って、相手を助けたり、罵ったり罵ったり罵ったり(※メル)。


「お茶をどうぞ、皇太子殿下」

「……ご苦労」


 静かに、透明なガラス製のカップが置かれた。赤く透明な珍しい飲み物を差し出される。


「なんだ、これは?」

「ローズヒップティーです。お茶を飲まれたことはまだありませんでしたか? 美容に良いとされるものでして、貴婦人の方々に人気のある品でございますわ。見た目も美しく、評判が良いのですよ。酸味が少々強いため、ハチミツも適量入れますね」

「女性の飲み物ではないか」

「そのお美しい見目をお保ちになるためにも、どうぞ」


 ソレイユに対して、憧れでも執着でもない瞳を向ける遠慮のないメイド。慣れた手つきでハチミツを少量加えて混ぜ、ソーサーにティースプーンを添える。


 差し出されたため、仕方なく飲む。独特な味ではあるが、さっぱりしていた。


「女性のものでも、悪くはないでしょう? 殿下」

「……そうだな」


 メイドはそのままお茶を下げ、出て行こうとした。ソレイユはそれを呼びかけて止める。


「……メル。時間が短い」

「メルリエッタでございます。わざわざ来てるのに、注文つけるのやめてもらえますか。忙しいので、早く帰りたいのですけどー。ルルに怒られるんですよー」


 メルはメイドとして扮装して、ソレイユの元に会いに来ていた。

 皇太子付きメイドである。ソレイユの夢が叶ったかたちだ。皇太子付きという身分であれば、何があってもソレイユがメルを庇えるので、その肩書きを利用したのだ。


 彼女は文句を言いながら戻って来て、横で自分の分の茶も入れ始めた。ソレイユの横にどんと無理やり座って、「ふむ、配合が甘いですね」などと言っている。


 関係はそこまで変化していないが、彼女の方から近づいて来てくれることもあり、ソレイユは幸せだった。


「その眼鏡を外してくれないか」

「嫌ですよ、やっと調節できたのに」


 マリー王女に、魂の色が見える理由を推測してもらって、ソレイユに見分けられないために調節したという眼鏡。近くにいる時は色が見えない、つまりメルかルルであるということがわかるが、彼女たちが遠くに離れると認識できなくなるという、彼にとっては迷惑なシロモノ。眼鏡をかけると顔の印象も変わるので、使い勝手がいいとメルは言うけれど、ソレイユはそれを外してもらいたくてたまらなかった。


「メルの顔が見れない」

「色が見れないの間違いですよねー。顔は、変えてますから、分からない」

「素顔を見せてはくれないのか?」

「ははは、見せませんー」


 見せていいことなんてないので、絶対見せないです。


 頑な姿勢だった。メルにとっては、顔を見せることは自分の心を見せることにつながるため、見せる気は一切なかった。


 彼女が自分から見せてくれるようになるまで、待とうとソレイユは決心する。


「顔と言えば……社交界に婚約者のいない、好条件の男性の情報はでているのですかね」

「ん? 好条件の男性の情報と言ったか?」


 なにか、急に話が飛ばなかったか? ソレイユが疑問に思う中で、メルの中の何かがヒートアップして来たらしい。


 そして突然立ち上がり、「ああ、まとめなきゃいけないことが多い!」と叫ぶ。


 姫様にお似合いの、性格が良くて、頭が良くて、それでいて従順で、品が良くて、お金もあって、顔も良くて、背格好も良くて、それでいて皇族の血筋を引いていないリストを作らねば。借金のブラックリストに載ってる輩から排除して、花街に通ってる浮気性の男も排除して、プライドの高い男も排除して、姫様だけを見てくれる男を探す。たとえ、婚約破棄をさせてでも、良い男性を姫様に捧げます!!


 恐ろしく早口で捲し立てるメル。落ち着かない。

 

「どうした?」

「……もうすぐ姫様が来るんです。一気にいろんなことが動きすぎて、混乱してるんですよ」

「初耳だな」


 マリー王女が来るとは聞いていなかった。皇太子に情報が回って来ないとは、宰相たちの怠慢も甚だしい。盛花国の情報は特に気をつけてソレイユにまわすように告げているので、苦情を出そうと思った。


「知ってたら、困ります。情報が漏れてるので」

「マリー王女は何をしに来るんだ?」

「婿探しです……」


  ーー婿探し?


 ソレイユの中にまた疑問が浮かぶ。メルは経緯を説明する。


「同僚が妊娠して結婚したんですよ。私たちに何の予告もなしに、ほんと突然」

「……それでどうして、婿探しになるんだ」

「姫様ももうご結婚なされないといけない年齢なので、この機会に結婚相手を探そうと意気揚々とされて。お祝いの流れに乗ろうとしてるんですよね」


 もう、適齢期なのか⁈ マリー王女は今年で、幾つだ。20歳前か、本当に適齢期だな。


 いやそれよりも話の展開が、確実に良くない方向に向かっていないか?


「姫様が結婚なされると思うと、私も子どもが欲しいですね。どこかにいませんかね、ちょうどいいくらいの」

「子ども? …………⁈⁈⁈」


 ソレイユは絶句した。子どもが欲しい? ちょうどいいくらい? つまり、どういうことだ。


 話の展開が掴めない。好条件の男性の情報。同僚が結婚して、マリー王女が結婚相手を探していて、メルが? メルが……子ども。

 いまは結婚の話題が出ている。つまり。彼女も結婚しようと考えているのか。


 彼女を手に入れる男がいるということか。わざわざ、ソレイユの目の前で言うくらいである。完全に彼はメルの眼中にも入っていない。大して好かれてもいないという自己認知からは、当たり前と言えば当たり前かと納得しかけたが、それ以上に信じられないほど、その言葉が衝撃だった。


 思わず、彼女の体を掴んでしまったほどだ。


「いたいいたい。何で掴むんですか!」

「わ、悪い」


 つい力加減を忘れてしまった。あとから治癒士でも派遣させよう。掴んでしまった彼女の腕を優しくさする。


「でも、け、け、結婚するということか?」


 メルは、おうむ返しで「けっこん?」と繰り返す。こてんと首を倒す様が可愛いのだが、答えを待ってソレイユの息が止まった。


「あははは! あはははは!!! 言い方が悪かったですねー。親戚から、子どもを養子に取るってことですよ。……結婚はしません、姫様が1番ですもん。まずは姫様のことです」

「……そうか」

 

 ソレイユは一安心した。それはもう、一瞬息を止めてしまっていたので、深呼吸をするくらいには安心した。


「ま、でも姫様が望まれるなら結婚しますけどね!!」

「まてまてまて! 自分のことを考えないのは、良くないぞ」



 そして、マリー王女の婿探しが始まる。しかし、それは簡単にはいかないものであった。



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