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4.


 彼女たち、メルとルルの1日は朝から夜まで忙しいようだった。新しく作られた盛花国との連絡役。そのような役割はこれまでなかったため、一から全てをはじめる必要がある。

 盛花国から部下を連れて来ることは許可されず、聖国の人間が彼女たちの下についた。わざわざ彼女たちの下に集まるものはおらず、曲者揃いで、他人の言うことを聞かない、各部署の人格破綻者が選ばれてしまう事態になった。彼らをまとめるのは、難しいに違いない。さらに役人たちは男ばかりである。

 手を貸したいが、人事権はこちらにはなかった。

 どうにか手助けできないか、彼女たちに割り当てられた部屋に向かう。


「メル」

「邪魔です、お帰り下さい」


 ルルにピシャリとドアを閉められる。

 チラリと見えた部屋の中では、男たちが正座で蹲っていた。耳を塞いでいるのは、何か恐ろしいことが起こっている。知りたいような、知りたくないような。


 何度も彼女の元に向かうが、ルルの鉄壁の壁がソレイユを阻む。遠くから眺めようにも、なぜか魂の色がぼやけてしまって、メルが感じられない。

 日々はどんどん過ぎていくのに、彼女が隣にはいなかった。



 メイドとして、彼女を近くに置けたら幸せだと思う。にっこり笑って、おかえりなさいと部屋に帰ったら言って欲しい。ご主人様と呼ばれたい、いや、やっぱりソレイユと呼ばれたい。


「……メル、会いたい」


 ソレイユはメルに会いたくてたまらなくて、空想に耽るようになった。性格がいよいよ変化するほどに、彼はおかしくなっていた。遠くにいた頃より、近くにいて会えない方がどうにかなりそうだ。


 メルが聞いていたら、メイドの仕事をバカにしてるんですかー? といいそうな想像力である。


「……バカなんですね、皇太子殿下って」


 今回協力してもらった宰相ーー聖国には大宰相、その下に宰相5人が存在するーーが、認可の書類を貰いにやってきた。本来は宰相が来るような仕事ではないが、世間話も兼ねてやって来る。

 皇太子らしい仕事はほぼハンコ押しだけ。しかし、ソレイユは自ら作った仕事もあり、少し忙しいのだが、宰相は気にせずに書類をチェックする。


「バカではないぞ」

「1人の女を呼び寄せるためだけに、努力して、そのように上の空。権力で押さえつけてしまえばよかったのに。皇太子という立場でしたら、囲い込むのも簡単でしょう」

「そんなことをしたら、彼女は私を殺してでも逃げるだろうな」

「おおげさな。属国に過ぎない盛花国の女に何ができるって言うんですか」

「会ってみればわかる」



 後日、宰相は彼女たちに会ったようで、真っ先にソレイユに報告しにきた。わざわざ補佐も下がらせて、ソワソワしている。


「あの方々、怖すぎませんか。見目は素晴らしいですが、賢しらな女はタチが悪い。女の趣味を疑います」


 怖い? 怒らせた時以外、彼女たちを怖いと思ったことがなかったソレイユは不思議だった。

 見た目の問題だろうか。今彼女たちは仕事に合わせて、丸メガネをかけ、シックな黒のドレスを着るか、ブラウスと胸元に大きなボタンのついたベストの男のような格好をしている。気が高く見えるが、とても美しいと思うのだが。


「……メルはとても自由で強い人だからな。何があった」

「他部署の者が雑務をさせたんでしょう、ありとあらゆる不正を暴かれて失職させられてました」


 来て早々、事件を起こしたのか。不正を暴いて、失職させるとは小気味良いが、彼女たちが心配だった。


「どんな方法を使ったと思う?」

「経理と取引したか、雑務経由でバレたか。未熟な話ですが、私には分かりません。失職した者は重度の横領者だったので、どのみち捕まっていたはずですが、あれでは再起不能ですね。刑罰で済まないでしょう」



 ーーまた、後日。


「今、雪華の姫って呼ばれてますよ」

「綺麗な呼び方だ。だが、紅霞の姫の方がメルは似合うな」

「……。あまりにも人を寄せ付けない氷のような女性たちなので、そう呼ばれてます。かなり言い寄られている中で、誰にも靡かないと」

「氷とは良い表現だな。雪華の姫覚えておこう」


 ーーさらに後日。


「また、雪華の姫たちがやりましたよ。今回はですね、皇太子殿下の弟君と激しくぶつかり合ったと」

「……弟? どの、弟だ?」

「末のルシエル様ですね」

「盛花国の教会のやり方に口を出して、逆鱗に触れたみたいで、司教が来られたのですが、言い負かされてしまい。それについてきていたルシエル様が、ありとあらゆる解釈を引っ張り出して、激論を繰り広げられてましたよ。古典のたった一文から、背景を絞り込んで、切り込む様はさすが天才と名高いルシエル様でしたが、雪華の姫たちも負けませんでした。人に節度をもたらし、秩序を保つ教会が、平等性を放棄して、差別するとは何事だと一般論を持ち出しました」

「楽しかっただろうな……」


 日々、宰相が報告してくるので、会うことを拒否されているソレイユも彼女たちの近況を知ることが出来た。野次馬根性、ここに極まれり。

 ソレイユがメルのことを口々に話しているからなのか、宰相自体も興味を持ったのか、しっかり情報を集めてきて、中々に話題がつきない。


「いやぁ、雪華の姫たち、皇族たちに目をつけられてますよ。それも厄介な貴族の血筋の」

「なんだと⁈」



 聞き捨てならないことを聞いたソレイユは、またメル達の元へ向かう。ここに来るのは何度目だろうか。

 ーードアを開けたのは、ルル。


「……また、来ましたね。よく飽きないものですー」

「皇族たちに目をつけられていると聞いたが」

「……仕方ないですね、中にお入り下さい」


 入った部屋は思ったよりも狭かった。机や椅子が窓際に工夫して置かれており、動ける広さは充分だが、彼女たちを置くには……。


「質素というか、ただ余った机を置いているだけの部屋でしょう? 各所の連絡も雑過ぎて呆れましたよ」


 ある程度の扱いは覚悟していましたが、流石にこれでは仕事になりませんとルルは語る。


「国の代表として来てるんですよー。それなのに、この扱い。これで抗議しなければ、姫様に顔が立たないので、少し荒らしましたが、心配しなくて良いです」

「それでどうして、皇族に目をつけられる。なるべく接触しないように配慮していたつもりだったのだ。彼らに手を出されれば、タダでは済まないぞ」


 皇城での皇族の権力は、伊達ではない。彼らの望み通りにあらゆることが動くのだ。皇族である自分こそが、それをよく理解していた。


「邪魔をして来たのが、第1皇子周辺だったということですー。第1皇子が思ったよりも邪魔をして来ているので、私たちがある程度動けるように手を出したら、逆ギレされてー。色々と罪をなすりつけられそうになったり、襲われそうになったりー」


 ソレイユの顔色がどんどん悪くなっていく。皇族の中にはどんな惨たらしいことでも、自分の利益のためなら平気で行う者たちがいる。第1皇子はその筆頭だろう。


 皇太子としての立場を悪用してでも、彼女たちを守る必要があると思った。圧力を掛けよう。拳を握りしめる。


 パチパチと手を叩く音が隣からした。


「いやー、顔色悪くしちゃっていい気味ですねー。ストレス発散もできたし、キリがないからもう許してあげよう、ルル」

「そうだねー、メルと会いたくてしばらく会えなかった地獄にいたみたいだし。メルがそう言うなら、許してあげよう」


 知らぬうちに、メルが隣に座っていた。全く気配がなかった。嫌がらせが成功したと、ニコニコ子どものように笑っている。

 可愛いが、少し憎らしい。


「皇太子殿下、本当に心配ご無用ですよー。彼のことはもう解決済みです。勝手に自滅します」


 ルルは安心するように、ソレイユに告げる。

 だが、そう楽観視はできなかった。皇族は実際に他国に干渉することもあったからだ。彼女たちだけの問題で済まなくなれば。


「盛花国に圧力がかけられたらどうする」

「いや、あははは。姫様がいるのに、盛花国に手を出せると思いますか」


 メルが疑問に答えた。しかし、それ以上に疑問が生じる。マリー王女がいるから、手を出せない?


「あの国の仕事は姫様が1人でほぼ仕切られてるので、隙はありませんよ。工作員も入れません。ほぼ自国で自立してるから、経済制裁も意味ないので」


 マリー王女が1人で。小国だからと言って、そんなことが出来るのか?


 到底信じられない。人の手が、頭脳が複数なければ、国の仕事は進められないはずだ。あの姫が、全てを行っている。

 魔術を使っているということで、無理やりソレイユは納得した。


「武力行使に移られたら」

「それはありえません。盛花国は利用されてますが、ある意味では特権があるんです。絶対に、聖国は盛花国を見捨てられない。初代と契約した聖国は、異分子に盛花国を侵略させないと誓った。姫様たち王族の血を絶えさせないために。自ら戦争を仕掛けるような真似出来ませんよ」


 姫様から、魔物の封印の話をお聞きになったのでしょう? 

 考えてみて下さい。王族が消えて、地下の魔物がもし地上に甦ったら? 昔の英雄はおりません。まず、聖国に厄災が降りかかり、世界はさようならです。

 

「…………」

「皇族よりも、我が国の王族は必要なのです。殺せるわけがないでしょう。だから、手を出せない。皇帝はそれを許可しない。そして、姫様たちを隠す隠れ蓑になる聖国に、私たちが大きく干渉することもない」


 わざわざ邪魔をされなければ、ですけどね。


「皇族が出来るのは、あの方達を貶め、その慈悲を利用して、姫様たちから貪ること」

「……そうか」

 

 姫様たちだけが犠牲になる。悲しそうに告げるメルだった。



「これからの急務をまとめました。これが終わりましたら、帰りますので、よろしくお願いしますー」


 隣の別部屋も手に入れていたのか。扉が開いて、ルルがどさどさと書類を、机の上に積み上げた。

 こき使われたのだろう屍たちーー彼女たちの部下としてあてがわれた者達が、床に沈み込んでいる様が見えた。


 ちなみに、メルとルルに嫌がらせをしようと企み、実行した彼らだったがーー資料を処分したり、言うことを無視して一切聞かないなどーー、まず彼女たちは、どこから見つけたのか彼らのトラウマに、四六時中対峙させることをした。

 さらには論破を繰り返し、プライドを粉々にした。他部署にも嫌われていることを掴んだのか、彼らが部署で行った悪事を数倍返しで行い、叫び訴えるも、聞き届ける者はいないと言う始末。因果応報である。

 逆恨みをしているようだが、失敗をする毎に、体力を伴う、文系たる彼らには、何も考える隙を与えないほどの厳しい体罰が与えられる。笑えるほどの阿鼻叫喚の図が夜になると見れるのだと。


 性格の悪さでは負けませんよー、とはルル談だ。時々飴も与えていると語っていた。こういうやつら、思考が腐ってて、ほぼ更生しないんですけど、根を折ると違うものが混ざっていたりするので、完全に見捨てるのもねー、と言うことらしい。それに、性格悪い人間の方が酷使しやすいとも。


「これは……」

「はっはっは!! 私たちが苦労して仕上げたものですよ。盛花国との連携に必要な連絡網と地図作成計画と……」

「無理だ、出来ない」


「は? 出来ない」


「これだけの処理は数年かかるだろう」

「……くっそ、聖国の、使えない、×××××」


 聞くに耐えない罵詈雑言が、彼女たちの口から出た。すぐに国に帰る予定だったのだろう。心底嫌そうに溜息を吐いて、肩を落としている。


 そんなこんなで、ソレイユはまた彼女たちと話ができるようになった。彼の粘り勝ちである。


「あと、仕事の邪魔で仕方ないので、良い加減ここに来ないでください。皇太子と密通してるとか噂になるとほんと最悪なのでー」

「ここ以外にメルはいない」

「……時々なら会いますから」


 そして、ソレイユはメルの譲歩を引き出すことにも成功した。


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