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1.メル

 

 ――メルはうんざりしていた。


 周囲を見回す。人っ子一人見当たらない。見えるのは、孤独な白亜の城。色とりどりのステンドグラスがそこかしこに存在し、数多の鏡に、窓、ランプがある。光は煌々と城を照らすけれど、映し出すのはメルの影だけ。嫌になってしまう。


「ルル、どこー?」


 広い広い皇城は人を探すのも一苦労だ。自分の姉である双子の片割れを探し回ろうにも、ここまで広くては自分も迷子になってしまうだろう。

 自分たちの国の城も入り組んだ作りをしているが、ここまでではない。まるで人を迷わせるためだけに作られたモノではないか。

 

 ほんと、悪趣味。


 心の中でつけるだけ悪態をついて、周りを見回す。やはり誰もいないようだ。


 メルのいる回廊の下部、真ん中に噴水が設置されている場所をのぞき込む。結構な高さがあったが、問題はない。

 目立つ真似はしたくなかったが、こうも人が見つからないとイライラした。短気なのは自分の弱点でもある。こんな行動をしていることが主人に見つかったら怒られてしまう。


 だが、今主人は近くにいない。


 任についたばかりのメルは、城の散策をごまかすためのほうきを放り出して、念のための言い訳作りに階下に靴を放り投げる。


 ――いいや。見つかってもごまかせるでしょ。


 そして一息に、メイド服のスカートをめくりあげ、かなりの高さがあるそこから飛び降りようとして。


「おい!!」


 大声と共に、片手を取られ、腰をさらわれる。


「……は?」


 手を握られた。誰もいないと思ったのに。

 そのままぐいっとまるで玩具のように、持ち上げられた。


 どれだけ力があるんだ。成人済みの女性一人を、子どものように軽々とその手に抱えるって。


 メルは、失礼な真似をした男の顔を見てやろうと顔を上げる。


「なんなんですかー」

「何しようとしてた」


 金眼、金髪の美麗な男が自分を見つめていた。


 なにこの男。キンキラすぎて髪が光って眩しいんだけど。


 髪に太陽の光が反射して、周りまで輝いて見えた。……目の錯覚なのか。


 眩しさに顔を覆おうとして……。金眼金髪?


 そして、自分がとんでもないやらかしを起こしたことに気がついた。



♦︎

 メルがその場所に行くことになったのは、自分の主人が成人を迎えるからだ。彼女はいわば、主人の影武者なのである。主人は花溢れる国のお姫様で、超絶可憐だ。可愛さに溢れてる。


「えー。姫様、聖国に行くんですかー」

「どうしてですかー」


 双子の姉と合わせて文句を言った。2人とも聖国が嫌いなのだ。


「何言ってるの。わたくしだけでなく、あなたたちも行くの」

「げ」


 自分たちの国ーー盛花国の宗主国、聖国。この世界の浄化を司る聖国教会が本部を構えるその国は、メルにとってはいいものではなかった。先代たちが虐げられているのを見てきたのもあるが、とにかくあの国はメルの性に合わない。


 何から何まで差別主義。その国では、能力以前に血筋がすべてだ。皇族、貴族(神官)、商人、一般市民、農民、奴隷、その他。身分ですべてが左右された。自分たちの国も王族を最優先に考えるが、あとははっきり言って能力で決まる。貴族なんていない。ま、そもそも王族以上の能力の持ち主がいないので、実力主義と言っても過言ではないかもしれない。


 甘やかされた聖国の皇族なんて、大嫌い。


 メルはそう思いながら、口をへの字に曲げる。


「わたくしが成人するのだもの、あなたたちの仕事は増えるわよ?」

「うえぇぇー、めでたいようでめでたくないですねー」

「仕事は完璧にこなすのに、始めるまでが長いのがあなたたちのよくないところね」


 メルの優しくて可愛い主人は、長い若緑色の髪をなびかせ、黄金の瞳を輝かせてそう言った。背を伸ばして、メルとルルの金髪を優しくなでてくる。自分たちより主人は年下だが、2歳しか年が離れていないため、大人びた主人は時々こうして甘やかしてくれた。


「姫様ー、頑張りますからもっと撫でてください」

「撫でてくださいー」


 メルとルル。双子の彼女たちは主人の影である。けして表舞台には立たない我が国の王族が、どうしても顔を出さなければいけない場面に駆り出される影武者。決して命を失えない王族の、保険の保険。彼らが動けないとき、不在の時は、代理として彼らの代わりに采配を任されることもある重要な役目だった。


「わたくしの代わりを公式の場で務めるのだから、気合を入れて頑張りましょうね! どうせなら、皇族の誰かを射落とすくらいの魅力を振りまいた、気高いわたくしを演出してくれてもいいのよ」

「姫様ー、面白がらないでください。目立つのは禁止なんですから」


 うふふ、高見の見物にいそしむとするわ。


 そんな風に微笑んだ姫様に連れられ、やってきた聖国。


 成人の儀は教会の本堂で行われるが、属国の責務として形だけでも皇帝に挨拶をしなくてはならない。それは主人が直接行ってくれるので、メルとルルはメイドに扮装して聖国内を散策していた。散策と言うよりは偵察の一環だが。

 これから本格的に主人の代わりを務めることになる。戦場を制するには、まず現場の様子からという影武者の掟に従って、聖国の皇城の現在の様子を把握する。


 幼い時以来の皇城。いい思い出は全然ない。それどころか、トラウマを生んだ場所でもあった。


混ざり物(ミックス)


 主人をそんな蔑称で呼んだ金髪金眼(皇族)は敵である。なにが正統な神の血を引く血筋だ。悪魔の血でも入ってるんじゃないか。だいっきらい。

 

 そんなことを考えていたら、見事に迷った。

 こんな時はルルを探すのだ。ルルさえいれば、大体のことはなんとかなる。そして、歩き回っていたらこの男に会った。


 

 ーー金髪金眼(皇族)!! しまった。


 メルは偏見満載の思考を心の中で叫びながら、やってしまったことを後悔した。


「あ、私の靴が落ちてしまって」


 なるべく下を見て、目線を合わせないようにする。


 心の中で、どうごまかそうか計算する。

 どうして、よりにもよって皇族と出くわしてしまうのか。


 皇族の特徴は、金髪金眼でかなりわかりやすいが、かなりの数がいる。皇帝が複数の妃を持ち、その上大量の愛妾をこしらえているという性質からたどっていけばきりがない。宮を与えられる皇族もいれば、そこらに放っておかれている皇族も山ほどいた。そこもメルの嫌いなところだった。


 この皇族は一体何者かと頭を巡らせる。


 顔は目立つ。造形が整っていて姫様と並べたら、同じくらいーーいや姫様の方が格上だが。

 服装は、その顔と同じくらい派手だが品の良いものだ。


「おまえ、ここから落ちようとしていなかったか? ここから落ちては危ないぞ」


 その一言で、大して高位の皇族ではないと推測した。かなり失礼だが、メルはそう思った。


 神の血筋を引くことが何でも行って良い免罪符と勘違いしているのが皇族たちの特徴だ。位が上に上がれば上がるほどその傾向は増す。

 わざわざメイドが下に落ちようとしたから、心配で止めたなんてありえない。止めるどころか、着地に失敗したのを笑うような人間性である。


 皇太子が決定していないことだけが気がかりだが、こんなお人好しが皇帝になんてなるはずもないとその考えをかき消した。なったら、下が死ぬほど苦労する。


「あー、申し訳ありません。ここに配属されたのが初日なもので迷ってしまってですね。それで焦ってー」


 男はジロジロこちらを見てきた。怪しんでいるのか?


「ふむ。あなたの名前を教えてもらっても良いかな」

「……え、いやです」


 ーーなに、急に。おまえからあなたに呼び方が変わった。


 はっきり言うが、メルの顔立ちははっきりいって目立たない。特徴を出さないように化粧もして、目立つ髪も隠している真面目なメイドだ。


 それなのになぜ、名前を聞くのだ。報告されたりするのか。


 ーーまずい。これは怒られる。


「…………」

「えと、もう会うこともないと思うので」

「いや、また会いたい。迷っているのなら、案内してあげよう。この城には詳しい」


 途方にくれた顔で男を見るが、相手も真剣な顔をしている。


 ーー何なの、一体。

 

 ちょうどその時、ルルが見つかった。上からギリギリ見える城の端っこ。


「あ、知り合いが見つかったので、大丈夫です。さようなら!!!」


 ーーありがとうございました。絶対ついてこないでくださいー!!


 全力で謝って、気配を消して全力で走った。影の能力全力を使ったのはちなみに初めてだった。

 これが攻防劇という名の実質逃亡劇の始まりである。


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