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⑭「八雲、取材を受ける」



 世間の評価なんて、どう変わるかなんて全く判らないものだ。


 事の成り行きを時系列順に並べると、俺と八雲がマユミさんとオフ会をした直後、入賞した各パーティーに大会運営から簡単なインタビューが来たらしい。それで外交的な性格の【まぐまぐ】ことマユミさんはバラエティー豊かなメンバーについて、面白おかしく話したそうだ。


 と、ここまではすんなりと理解出来る。しかし、【YAGU-ふりる】として八雲がクローズアップされる経緯については、俺の理解の範疇を超えていた。



 《 色々と聞かれちゃいましたけど、頑張ってお答えしました!! 》


 職場で休憩中に確認したメールからは、八雲のリアルとは全く違う()()()らしい明るさ全開のキャラが溢れていた。



 ……まあ、本人が良けりゃ構わないんだが、あんまり無理はしない方が……と思った俺は、その次に送られてきた添付画像を見た瞬間、文字通り凍り付いたように硬直した。


 《 そんな訳で~、()()()のままインタビュー動画に出演する事が決まりました!! 》



 お、おう……そうなのか。それは良かったなぁ……と、他人事じみた感想を飲み込んだ俺は、まさかと思いながら【 ALL KILL ONLINE 】の関連動画をスマホで検索してみた。すると……



 【 AKO大会公式 入賞チームインタビュー 】

 【 AKO インタビュー動画 】

 【 AKO かわいいアバター 】

 【 AKO 入賞パーティー 】

 【 AKO YAGU-ふりる 】


 と、終了したばかりの大会リザルト欄を遥か後方に押しやる程、インタビューを受けた八雲のアバターが溢れ返っていた。ゲーム内で同じアバター(ゲーム配信開始初期の上位ランカーのみ限定だったらしい)が少ないせいもあるが、その可憐な見た目とイメージがピッタリの八雲の声に閲覧者の大半が、


 《 いやマジで受肉レベル! 》

 《 ボイスチェンジャー無しかよ!? 》

 《 天使の声帯をお持ちで 》

 《 生声のおはようございます、は保存必須 》


 と、興奮冷めやらぬ様子でコメントを残している。その数……に、二万っ!? いやいやいやいや、瞬発力が命の動画配信者だって、こんなえげつない数のコメントは残されねーだろ!? ゲームの登録ダウンロード数が一千万超えだからとは言え、信じられん……。


 そう思いながら目に付いた【切り抜き・()()()インタビュー】のサムネ画像を設定で音声を絞って再生してみると、現代のリアルタイム編集ソフトの飛躍的な進化を目の当たりに出来た。


 『はい! みんなスゴく息の合ったプレイもそうなんですが、その合間に誰かが上手く結果を残せた時は一斉にウェエエーイッ!! て感じです!!』


 そう語る()()()は自然に表情を変えながらニコリと笑う。リモートカメラを介した八雲の表情をソフトウェアが検知し、アバターの画像をリアルタイムで編集して被せる。たったそれだけにも関わらず、動画として観られるのは八雲の面影とは全く違う、金髪ロングを左右に束ねた()()()に姿を変える訳だ。



 俺は、そんな姿の八雲を見ながら複雑な思いになる。自ら望んで我が身を隠し、アバターの姿を借りてまで彼女は取材を受けている。きっと、八雲なりの自己表現の一環なのかもしれないが、動画を観ている視聴者は彼女の本当の姿を知らぬまま、ゲームの中のキャラとして八雲を観ているのだろう。これは、歓迎すべき変化なのだと受け入れた方が良いのか? それとも症状を悪化しかねないからと止めさせた方が良いのか。


 『……これからも()()()と【まぐまぐと愉快な仲間達】を応援してくださいね!』


 キラリと光るような笑顔と共に、カメラに向かって手を振る八雲がアバターの姿を纏ってインタビューを締めた。



 仕事の最中と言う事もあり、乗り気になっている八雲がガッカリしないよう気を遣いながら返信し、その話は終わったつもりでいたが……




 【 同時接続・1284人 】

 【 リアルタイム・LIVE 】


 俺と八雲が所属する【まぐまぐと愉快な仲間達】のプレイを一目見ようと、パーティーメンバー以外が閲覧出来る応援席(と呼ばれる接続用アカウント)の利用人数を見て、ツーッと結構な冷や汗をかいた。一時的なモノとはいえ、有名なゲーム実況者並みの盛況振りじゃないか!?


 『クロクマさんカワイー!!』

 『頑張ってー! クロクマさーん!!』


 (……俺までキャラ扱いかよ!?)


操作用のタブレットを握り締めつつ、どうしても気になって用意した同接確認用のパソコン画面には、大量の()()()ファンコメントに混じり、俺の使う【クロクマ】にまで応援コメントが表示される。


 そんなお祭り騒ぎを横目で眺めつつ、パーティー待機用ルームに集まっている他のメンバーの様子を見ると……


 《 ()()()バブルよ!! マジで!! 》


 【まぐまぐ】ことリーダーのマユミさんが、万歳しながらボイスチャットで叫ぶと、


 《 ホントそう! 野良パーティーに行くと直ぐに身バレしちゃうし! 》

 《 だから結局、ここでプレイする方が楽なんだよなぁ~ 》


 【ひら】の二人がメッセージで回答する。流石にまだ二人は実像をカミングアウトしていないが、それ自体は全員変わらない。声だけ公表している【ふりる】と【まぐまぐ】、声も公表していない【クロクマ】こと俺と【ひら】の二人。その違いは何かと言われたら、余り無いとは思うが。


 それにしてもバブルとは言い様だが、実際に同接人数分の広告料がパーティーに支払われる仕組みだし、個人向けの応援アイテム贈与は、形を変えた投げ銭システムだ。その気になれば一月当たりで計算しても、かなりの額の収入源にもなるが……八雲はどう考えているんだろう。まさか、ゲーム実況者になるつもりか?






 ……ピピッ、というメールの着信音で眠りから覚めた俺は、ベッドから身を起こすと目を擦りながら確認する。


 《 妹がショージさんと会いたいって言ってますが、どうしますか 》


 休みの前の夜はゲームに参加して、生活リズムが乱れがちな俺を気遣ってか、昼過ぎに八雲からメールが届いたが……大学生の八雲の妹が、俺に何の用なんだ?




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