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⑪「ゲーム準決勝戦」



 【ALL KILL ONLINE】の大会は、予選期間中にチーム人数やランキング毎に決められたクラス分けをされ、そのクラス内で勝率や生存率の高い順に順位が決定される。


 俺と八雲が所属しているパーティー【まぐまぐと愉快な仲間達】は、五人編成チームのクラスCで三位に入賞し、決勝本戦へと進んだのだが……その日が土日だったので、俺は問題無く参戦出来る事になった。


 とは言え、ゲーム自体に何も変わりは無く、いつもと同じ環境で対戦チームと同時に狭い島の上空からパラシュートで降下し、点在する建物や施設の中で武器や装備を物色しながら戦うルールは変わらない。しかし、本来は五十人のプレイヤーが同時接続して始まるが、大会時は対戦チーム以外はコンピューターが操るNPCが他の敵役として登場する。


 但し、その状況はネット内で配信され、プレイヤー以外から送信されるコメントが画面枠外にリアルタイムで表示される……まあ、俺は見られないんだが。




 ……ピッ、という電子音と共に俺のアバターのクマが形成されると同時に、(なび)く強風が渦巻く大気中へとダイブしていく。


 バタバタと衣服(クマだが服は着ているのだ)を叩きながら身体の周りを空気が流れ、上空800メートルでパラシュートが強制的に開かれる。


 パーティーの四人と共に絶海の孤島の南西部に着陸し、目当ての工場跡地に飛び込んだ俺は手近に転がる様々な銃器を拾い、とにかく突発的に始まる銃撃戦に備えて装備を整える。


 《 倍率スコープとライフルあった!》


 八雲の操るアバター、()()()がメッセージと共に俺の傍に来ると、工場の床に開始初期で良く見つかる単発ライフルと四倍率スコープを落としてくれる。


 《 じゃあ こっちをあげよう 》


 俺の方は多弾数を誇る半面、威力は若干劣る短機関銃とドラムマガジン(渦巻き状に弾丸を詰める多弾倉マガジン)を落とし、彼女に譲る。


 そうして出来る限り互いの装備を向上させながら、付近で起きている銃撃戦の音を頼りに対戦相手の場所を探し、移動を開始する。


 《 車あった! 先ずは北の方向に行こう 》


 クラクションを鳴らしながら【まぐまぐ】が装甲ワゴン車を敷地の中に乗り付け、乗り込むように促すと、【ひら☆彼氏】と【ひら☆彼女】も工場から出て、車内へと乗り込んでポジションに付いた。


 そのまま島の南西部から海岸線に沿って北上し、途中の集落で武器を交換しながらNPC(敵としては弱くプレイヤーから()()()()されている)と戦いながら、狭まる安全地帯の中心目指して車で移動していった。



 《 あー、これはマズイねぇ 》


 五人が乗り込んだワゴンを停め、【まぐまぐ】がメッセージを表示する。


 直ぐに俺も一人称画面から地図画面へと切り替えて、その意味を理解した。


 地図の半分以上は安全地帯以外を表す赤い色で塗り潰され、真円状に表示された安全地帯の端に自分達が居るのだが、どうやら残された安全地帯のど真ん中に廃教会が存在し、その周りは一切の遮蔽物が存在しない。


 つまり、このまま安全地帯が狭まり俺達が廃教会に向かって移動したとしても、その姿は敵チームから丸見えになる。もし、敵チームが既に廃教会に立て籠っていたら良い標的になるし、逆に敵チームが周辺の森に身を潜めていたら、俺達の動きが簡単にバレてしまう。


 《 ちょっと初動が遅れちゃったからね 》

 《 まあ、仕方ないよ! 》

 《 突撃します!!》


 うーん、【まぐまぐ】以外は超脳筋系ゲーマーだから当たり前か? もはやテンプレと化したメッセージが表示されると同時に、俺と【まぐまぐ】以外が銃を構えながらワゴンの各所から身を乗り出し、イケイケ状態で促すから俺は思わず笑っちまった。


 《 りょーかい! 悩むより撃て!! 》


 ……ああ、そうだなリーダーも脳筋系ゲーマーだったよ!!


 俺は仕方ないかと諦めながら狙撃用ライフルから短機関銃に持ち替え、フル加速で平原の中を突っ走る車内から外へと身体を突き出した。




 出迎える銃弾の嵐を抜け、外壁に激突して蜂の巣になったワゴン車から飛び出すと同時に、煙幕手榴弾(スモークグレネード)を廃教会の前に投げる。これで少しは相手から自分達の姿が見え難くなればいいが、手持ちの煙幕は終わりになった。


 アバターの周囲に降り注ぐ弾丸の雨から墓石の陰に身を隠し、廃教会の二階から猛烈な射撃を繰り返す相手の位置を確認する。


 《 回復終わった! 直ぐいけます! 》

 《 死にそう! 回復なう! 》

 《 死にそう! 回復なう! 》


 支援位置を確保した【まぐまぐ】以外の三人が、傷付きながら何とか廃教会の外壁に取り付いたけれど、まだ突入は無理そうだ。なら、俺と【まぐまぐ】の二人で敵プレイヤーを一人でも削らないと、勝ち目は薄いか。


 わざと自分の位置を教えるように身を乗り出すと、タイミングを合わせたように廃教会から狙撃用ライフルの銃弾が墓石に当たり、その一発がアバターの被るヘルメットを撃ち抜いた。


 《 ヘルメット無くなった! 》


 カンッ! という有り難くない効果音と共に防弾メットが消滅する。次の一発を食らえば俺のアバターは確実に仮死状態になるだろう。まあ、助けに来られても二の舞になるのがオチだろうが。


 なら、せいぜい悪あがきをしよう。そう思いながら残された装備から投擲武器を選ぶと、遮蔽物越しに片っ端から廃教会目掛けて次々と投げ込む。


 バンッ、という炸裂音と共に手榴弾が続けて破裂し、多少は牽制になったのか飛んで来る銃弾が止んだ。そして最後に残された手榴弾を投げ込むと同時に、俺のアバターは頭を撃ち抜かれ、画面が真っ赤に染まった。




 ……と、同時に廃教会の一角が閃光に包まれて、階下に身を潜めていた三人が一気に駆け上がって行く。その模様はリタイアした俺には仲間の見ている視点へと切り替わったお陰で、今の状況がどうなっているのか見えるようになる。


 どうやら最後の手榴弾は利用する機会に乏しい閃光手榴弾(スタングレネード)だったらしく、殺傷力は皆無だが破裂と同時に音と光により、周辺に居る全てのアバターは聴力と視界が一時的に麻痺する。それが立て籠っていた敵プレイヤーの真ん中で炸裂し、突入した仲間達に絶好の機会を与えたようだ。


 二階に上がると同時にバラララララッ、と三人の持つ短機関銃が唸りを上げて大量の弾丸を放ち、五人居た敵プレイヤーのアバターを次々と赤い煙へと変えていく。


 そして、最後の敵プレイヤーのアバターが消滅の赤い煙と化したその瞬間、視点が仲間から自分に切り替わると同時に起き上がり、喜びを表すブレイクダンスを舞い始めた。



 【 ALL KILL WIN!! 】


 画面に結果発表のメッセージが大きく表示されると同時に、【まぐまぐと愉快な仲間達】の勝利が決まった。あー、良かったなぁ……凄く眠いが……もう、深夜一時半だし。





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