( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノ( ´ ▽ ` )ノのお話
憎い妹。でも愛しい妹。わたくしは妹の為にひと肌脱ぎますわ。
お姉様、見て見て。綺麗なお花。
まぁ、本当に綺麗ね。花冠を作ってあげるわ。
わぁ、嬉しい。有難う。
クラウディアは自分の部屋の椅子で転寝をしていた。
そして、遠い日の夢を見ていた。
自分の後をついて回る可愛い妹マリーディア。
いつの頃からだろう。
妹に憎しみを覚えるようになったのは。
今では憎くて憎くてたまらない。
クラウディアは夢を忘れるように、首を振って立ち上がった。
クラウディアがハレリス公爵家に母と共に来たのが、5歳の時。
ハレリス公爵に見初められた母が、後妻に望まれたのである。
何でも、結婚してすぐに亡くなった公爵の前妻に母が似ているとか。
母は平民だった。毎日苦労して酒場で働いていた。
どこの誰とも知らぬ男性との間に、クラウディアを身ごもってしまい、仕方なくクラウディアを産んだと聞いた。
クラウディアは生まれてから、毎日、食べる物にも事欠く位の貧乏に育った。
お腹がすくと近所の教会へ行き、神父さんに食べ物を恵んで貰った。
着ている服もボロボロで、生きるのがやっとの生活だったのだ。
だから、ハレリス公爵家に来て、あまりの屋敷の豪華さに驚いた。
食べ物も味わった事のない美味しい食べ物。用意された服も、いい生地を使って作られていて。クラウディアの部屋もとても可愛い部屋で、置いてあった熊のぬいぐるみのあまりの可愛さに歓声をあげたほどだ。
クラウディアはあまりの幸せに神様に感謝した位である。
そう、ハレリス公爵と母の間にマリーディアが生まれるまでは、夫妻に可愛がられて幸せだったのだ。
それがマリーディアが生れてから、扱いが変わった。
ハレリス公爵の血を引くマリーディア。
与えられる服も部屋も何もかも、クラウディアより上質な物を与えられる。
着ているドレスもアクセサリーも、教育をする家庭教師も、傍で世話をするメイドも何もかも、クラウディアより、マリーディアは一段上の物が与えられた。
クラウディアは銀髪にエメラルド色の瞳で、容姿には自信があったが、
マリーディアも同じ色合いの銀の髪にエメラルド色の瞳の美人である。
クラウディアが冷たい印象を与える美人なのに対し、マリーディアは何よりも可愛らしかった。
父母だけでなく、使用人も含め、屋敷の皆に、マリーディアは可愛がられたのだ。
ああ…小説で流行りの、ずるいずるいと言って妹の物を取り上げる事が出来ればどんなにか、気分が良いでしょうに…
腹違いの妹がよく姉の物を取り上げるとか、信じられないわ。
わたくしは父違いの姉。妹の物を取り上げたいけれども、妹はハレリス公爵家の正当な跡継ぎ。わたくしが強く出る事が出来ると思って?本当に小説の世界はよく出来ている事。
わたくしは我慢しなければならないのよ。平民の父から生まれたばかりに…
年頃になったクラウディアはいつの間にかマリーディアに憎しみの心を持つようになっていた。
「わたくし、森で精霊王を見ましたの。」
夜会で貴族達に言い触らす。
「精霊王?それは本当かい?」
「精霊王は伝説だろう?実在するとは思えないが。」
面白がって貴族令息達がクラウディアの話を聞いてくる。
クラウディアは自慢する。
「それはもう、長い銀の髪で、この世のものと思えない程の美しさでしたわ。わたくしの事を美しいと褒めて下さいましたのよ。」
嘘である。
だが、注目されたい。
クラウディアは社交界で妹より注目されたかった。
「わたくしは聖女なのですから。敬うべきですわ。」
だなんて言った事もある。
「どのような力が使えるというのです?クラウディア嬢。」
「是非ともその聖女の力を見せて欲しいですな。」
クラウディアはオホホホと扇を手に笑って、
「皆様の心を癒す力ですわ。神はわたくしに皆様の心を癒す聖女になれと仰せになったのです。」
貴族令息達は口々にクラウディアの周りで
「ああ、今宵、褥で癒されたい物だ。」
「私もクラウディアと褥を共にしたい。」
クラウディアには、元々、まともな縁談は望めなかった。
公爵家の血を引いていないのだ。平民である。
だから、淫らなに色々な男性と遊んで、好き勝手に生きて来た。
もしかしたら、その男性の中に、自分を妻に望んでくれる人がいるかもしれない。
ちょっとは期待したけれども、貴族令息達は遊びは遊びと割り切っているようで、
クラウディアが褥で、
「ねぇ。わたくし、貴方の奥様になってもよくってよ。」
すると相手の貴族令息は、
「冗談だろう?誰が好んで、平民でかつ、淫らで問題のある君を妻にするわけないだろう?愛人にだってお断りだね。私が他の皆に、物好きだって言われるに決まっている。」
クラウディアは悲しかった。
口々にもてはやしてくれるけれども、貴族令息の本心なんてこんな物なのだ。
本当はわたくしだって幸せになりたいのよ。
あああ…妹が憎い。
でも、いい気味ね。
わたくしの悪い噂のせいで、マリーディアにまで影響して、縁談が来ないわ。
本当にいい気味だわ。
そう、妹のマリーディアにまで、クラウディアの悪評のせいで縁談が来なかった。
妹はそんな自分の事を呆れているだろう。
そんな妹も恋をしているようだった。
相手はテディウス王太子殿下。とても美男で有名である。
彼にはエレーナ・カルドイン公爵令嬢と言う5年前に婚約を結んだ高位貴族の婚約者がいる。
だから、報われない恋なのだが。
テディウス王太子が剣技を披露する国の行事がある。
テディウス王太子だけでなく、腕自慢の貴族達や騎士達が剣技を披露し、
王族や貴族達がこぞって楽しみにしている行事であった。
そこへマリーディアと共に見物に行くと、頬を染めながら、マリーディアが真剣にテディウス王太子を応援しているのだ。
ふーん。報われない恋だって言うのに、マリーディアも気の毒だわ。
内心では馬鹿にする。
しかし、自分も、適当に黄色い声を上げて、テディウス王太子を応援した。
まぁ、こういうくだらない行事は嫌いではない。
行事が終わり、二人で公爵家の馬車に乗る。
マリーディアが珍しく興奮したように、
「お姉様。なんて王太子殿下は素敵なのでしょう。わたくし、こうして拝見出来て、とても幸せですわ。」
「まったく、マリーディアは、ああいうのが好みな訳?」
「お姉様だって応援していたじゃない。それに、褥を共にしたいって言っていたわ。」
「そりゃ、周りが応援していたら、応援するのがマナーってものでしょう。王太子殿下でなくても、イイ男なら褥を共にしたいわ。」
「そういえば、お姉様と久しぶりにまともに会話をしたわ。」
マリーディアが嬉しそうに、こちらを見つめて来る。
わたくしは貴方を憎んでいるの。わたくしのせいで貴方は結婚出来ないのよ。
心の中でクラウディアは叫んだ。
知ってか知らずかマリーディアは、
「お姉様には困らされます。本当に。でも…わたくしが公爵家を継いでも、お姉様には生活に困らないように、公爵家で責任持ちますから。だって、わたくしの大事なたった一人のお姉様ですもの。」
「煩いわね。たかが公爵家の血を引いているからって…生意気だわ。」
「お姉様。」
「どれだけ、わたくしが貴方のせいで、苦しんで来たというの?
わたくしだってお義父様の血を引きたかったわ。公爵家を継ぎたかった。本当の貴族になりたかった。何よりも可愛がられたかった。わたくしだって貴方と同じ娘なのだもの。」
涙がこぼれる。
そして、マリーディアに向かって叫んだ。
「二度とわたくしに話しかけないでっ。」
マリーディアが悲しそうな顔をした。
何とも胸が痛む。
これでいいのよ。これで…
お姉様、見て見て。綺麗なお花。
まぁ、本当に綺麗ね。花冠を作ってあげるわ。
わぁ、嬉しい。有難う。
それでも幼い頃、庭で一緒に花冠を作ったわ。
マリーディアが生まれた時、自分の立場を何も考えなかったわたくしは素直に嬉しかった。
可愛い妹が出来て嬉しかったの…
マリーディア。マリーディア…マリーディア。
ごめんなさい。本当にこんな姉で、ごめんなさい。
クラウディアは決意した。
冷たい態度を取ってしまったけれども、ここは妹の為にひと肌脱ぐべきだと。
クラウディアの遊び相手の一人にチャーリーと言う男がいる。
チャーリー・ゼルダス公爵子息。公爵家の跡継ぎの青年だが、この男は色々な貴族令嬢と遊びまくる遊び人だった。
褥でクラウディアはチャーリーに向かって、
「ねぇ。貴方は落とせない女はいないと豪語しているわよね。」
チャーリーは、クラウディアの銀の髪を優しく撫でながら、
「勿論、私の魅力に落ちない女性はいない。」
「それなら、エレーナ・カルドイン公爵令嬢なんてどうかしら。」
「よせよ。テディウス王太子殿下の婚約者の令嬢だろう?王太子殿下に知れたら。」
「まぁ。自信ないのね。」
「自信?馬鹿にするな。私の手にかかったら、どんな令嬢だって夢中にさせる自信はある。」
「それなら見せて頂戴よ。エレーナを見事落として見せたら、貴方がいかに魅力的か認めてあげる。」
「よし、見てろよ。」
チャーリーは口が上手い。
そして、女性を夢中にさせるテクニックは右に出る物がいない位の男性だ。
クラウディアは内心ニンマリ笑う。
後は、エレーナがチャーリーに夢中になってくれるのを待つだけだ。
それから2月程時が過ぎた。
チャーリーはエレーナを見事落としたようである。それは、一週間前に確認済だ。
時は熟した。今こそ、エレーナを追い落とす時が来た。
夜会で声高々に、クラウディアは他の貴族令息達に言ったのだ。
「ちょっと聞いて頂戴。この間、ゼルダス公爵令息チャーリー様とお会いする約束をしていたのに、先客がいたのよ。それが、エレーナ・カルドイン様。信じられる?」
皆、驚く。
テディウス王太子殿下の婚約者なのだ。エレーナは。
それが、チャーリーと???
他の令嬢と話をしていたチャーリー・ゼルダス公爵令息は慌てて、こちらへやって来て。
「クラウディア。このことは言ってはいけないと言っただろう?」
「だって、チャーリー。わたくし、悲しかったんですもの。貴方、エレーナが本命だったの?わたくしとの約束は?」
皆、何事かとこちらへやって来る。
テディウス王太子と共に話をしていたエレーナ・カルドイン公爵令嬢。
皆が騒ぎ出したので、騒ぎの話を聞き出し、真っ青になる。
チャーリーに近づいて行き、思いっきり頬を引っ張だいて、
「どういうこと?チャーリー。このことは秘密にしてって言ったじゃない?」
チャーリーは慌てたように、
「俺が言ったんじゃない。クラウディアがっ。」
クラウディアは平然と、
「事実なんですもの。貴方がチャーリーとあの夜寝たのは事実でしょう。許せないわ。わたくしがチャーリーと褥を共にする夜だったのですから。」
夜会に来ていたマリーディアや他の貴族達はそっとさりげなくテディウス王太子の方へ視線を向ける。
テディウス王太子は爽やかな笑顔で、
「エレーナ。浮気をしていたんだな…この婚約、継続するべきか、考え直した方がよさそうだ。」
エレーナは青くなってテディウス王太子の足元に縋り、
「魔が差したのですわ。わたくしには貴方しか…遊びです。チャーリーとは遊びなのよ。」
「遊びだと?王家は血筋を大事にする。俺の子でない子が先々、王家を継ぐことになったらどうする?尻軽な女は必要ない。婚約は破棄されるだろう。覚悟するんだな。」
貴族達は皆、思った。
婚約破棄となれば、近隣諸国で流行っているのは卒業パーティ。
しかし、テディウス王太子は王立学園は卒業している。エレーナは去年卒業した。
それならば、王宮の夜会で堂々と宣言するだろう。
婚約破棄すると…
クラウディアはホホホと笑って、マリーディアの耳元で囁いて来た。
「これで王太子殿下はフリーになったわ。マリーディア。頑張って射止めなさいな。」
「お姉様?」
「わたくしは公爵家を欲しい訳じゃないわ。わたくしは公爵家の血を引いていなくて、継ぐ資格はないのですから。まぁ、貴方の想いを叶えてあげたくて。わたくしらしくないわね。でも、迷惑ばかりかけてきたから。さぁ、チャンスの神様は後ろ髪が禿げているというわ。頑張って王太子殿下に接近しなさい。」
そう、お膳立てをしたのだから、後はマリーディア。貴方の腕次第。
クラウディアの心はすっきりとした。
ああ…これでやっと心の苦しみが取れた気がするわ。
憎んでいたマリーディア。でも、やはり愛しい妹マリーディア。
今までごめんなさい。でも、これでマリーディア次第で、幸せになれるはず。
そして、わたくしは…公爵家を出るわ。
クラウディアは、ハレリス公爵家を出る決意をしたのだった。
マリーディアはテディウス王太子に熱烈なラブレターを送ったようだ。
そして、今日、テディウス王太子殿下に招待されて、二人でお茶を楽しんでいる。
マリーディアの事だ。上手くやるだろう。
- わたくしはわたくしを愛する人の元へ参ります。今までご迷惑をおかけしてごめんなさい。さようなら。-
置手紙を置いて、クラウディアはハレリス公爵家を出る。
愛する人なんているはずはない。
でも、こんな姉が傍にいては先々王太子妃になるマリーディアの汚点になるだろう。
クラウディアの心は秋の空のように晴れ渡っていた。
乗合馬車を待ちながら、
「さて、どこにいこうかしら。生まれ故郷の街に行ってもいいわね。」
幼い頃に、お世話になった教会がある。
そこへ行って今までの事を神様に懺悔しよう。
そして、人生出直すのだ。
クラウディアは、教会で孤児たちに美味しいパンを焼いて届けていた優しい人生の伴侶に出会うのだが、それは別の話である。
新たなる人生に希望に胸を膨らませて、クラウディアは馬車に乗り込むのであった。