第五話『二人目の押しかけ同居人』
「レオン。お前、あの子に何かしたのか?」
「なんだ急に。するわけないだろ」
「お前が心配ってのは無論あったんだろうが、泣いた理由はそれだけじゃなかったみたいだぜ。聞いても何も答えなかったから、ハッキリとは言えないけどな」
ふと思い返してみた。カレンの夢を見ていた気がするが。もしかして彼女の名前を口走ったか?有り得る事だが、その一事だけで泣くものかどうか。女心とやらが分からない朴念仁には全く分からない。
「まあ、それは置くとして。まさかお前が倒れるとはな。もしかして今までもこういう事があったのか?」
「あるんだろうな。自分では寝てるくらいの感覚だから、よく分からない」
「何だ、それ?意識が途切れるんだぜ。分かるだろ」
「分からないんだよ、それが。ちょっとした出血して、家に帰ってきてからの記憶がなかったりしても、翌朝には普通に目が覚めるし」
「目が覚めなかったらヤバいだろ。一般的に、そういうのを気を失うって言うんだよ」
「俺の場合は目が覚めたら元気になっているもんでね。死ぬわけじゃなし。どうでもいいよ」
「どうでもいいわけねえだろうが!いくら頑丈だからって、お前だって人間なんだ。そんなんじゃ、いつか取り返しのつかねえことになるぞ!」
「ならねえよ、俺は。何でお前がムキになるんだよ。俺はお前の先祖をとって食った化け物じゃなかったのか?」
「確証があって言ったんじゃねえし、何より、別にお前が憎いってんじゃねえ。ただ真実を知りたいだけだ」
「真実ね。知らない方がいい事もあるし、知ったとしても信じられなければ意味のない事もある。何でもかんでも首を突っ込みたがったら、そっちこそ取り返しのつかないことになるぞ」
この男は前からこうだ。二年半、密度の濃い付き合いをしていたにもかかわらず、一歩どころか三歩ほど距離を置いている。レティシアに対しても、はた目には恋人同士にも見えたのに、彼女に言わせれば
『多分、レオンは私の事を依頼人だとしか思ってないよ。仕事だからそばにいてくれるだけ』
だったらしい。そう思える壁があったのだろう。さりげなく自信家で皮肉屋で他人を寄せ付けず、弱味を見せない孤高の獣。そんなイメージがトーマにはある。ミラー家令嬢もレティシアと同じでその距離が辛いのか。だとすれば、つくづく罪作りな男である。
その後トーマはいつまでも横になっているのを嫌い、結局は起き出して仕事の話を始めたので、ゲイルは呆れつつも仕事の虫に付き合う事になった。
「てな感じで、今のところ全く手がかりがないらしい。裏ルートで抜かれた臓器が出回ってないか調べたが、それらしいものは見当たらなかったしな。除霊師とやらも殺されたし、打つ手なしってところだ」
「ふん。除霊師などというものが役に立つはずがないだろう。犯人は生きた人間なんだからな」
「そう言いきる根拠は?」
「全員が殺されるわけじゃないって言っても、グループ単位で行動している場合、生き残りはいないんだろう?学生しかり、工事関係者しかり。生き証人がいたらマズいからって気がするね。殺されなかった奴らが具体的な心霊現象に遭ったという証言は?写真とか」
「ラップ音がしたとか、人影を見たとかというのはあったが、具体的というのはないな。たいていビビッてるから、建物がきしむ音でもラップ音に聞こえたりするだろうし」
「ネットのアングラ(アンダーグラウンド)サイトは調べたか?」
「アングラサイトぉ?何でだ?」
「愉快犯なら犯行時の様子を録ってネットで流している可能性がある。害者の人数が人数だ。単独犯って事もないだろ。大昔のビデオで人体解体を扱ったものがあって、それがノンフィクションだと言われていた。そのビデオに関しては事実ではなかったが、いつの時代も、そういうイカレ野郎はいる。調べてみる価値はあると思うぜ」
「なるほどな。それは思いつかなかった。OK。当たってみよう」
二人とも、今までのどの時よりも生き生きと話しているように見える。根っからの仕事人間なのか‥‥‥男性というのは皆こういうものなのだろうか?まあ微笑ましく眺めるにしては内容がグロテスク過ぎるが。トーマの部屋に戻ったフェアリーは、話の邪魔をしてはいけないからと、『必勝!これであなたも行政書士』というタイトルの本に目を通しながら、男二人の会話を聞いていた。
「まあとりあえず話を聞いたら、一度現場に行ってみるか。うまい具合に俺が行った時にアクションを起こしてくれれば万々歳だけどな」
本を読みながら、つい聞き流してしまいそうになったが、トーマの言葉の意味を改めて考えて、フェアリーは思わず立ち上がってトーマに詰め寄った。
「トーマさん!現場って、その廃屋に行くつもりなの?」
「ああ。どのみち行かないとどうしようもないだろう」
「で、でも、万が一本当に呪いだったらどうするの?関わらない方がいいよ。やっぱりこの依頼、断ろう!」
「大丈夫だって。その場に強い思いが残っていて、そこに行った人間に災いをもたらすなら、何で被害に遭う者がこんなにランダムなんだ?まず、そこからしておかしいじゃないか」
「呪いなんかでも、そういう理屈って通用するの?」
「さあね。さっきも言った通り、とりあえず話を聞いてからの事だ。条件面で割に合わないなら受けない。それに行くとしてもお嬢ちゃんは連れて行くつもりはないから安心しろ」
「そういう事じゃなくて」
「分かってる。心配してくれているんだろ?でもな、これが俺の仕事なんだ。『よろず請負業』っていう看板を背負ってスペシャルライセンスを持っている以上、肩書きに見合った仕事はしないとな」
トーマの言うことはもっともだと思うが、呪いであろうとなかろうと、情報の少なすぎる仕事は、いつも以上に危険度が高いのではないだろうか?さっき倒れたところで無理はして欲しくないのに。
「なあ、レオン。お嬢さんの心配は当然だと思うぜ。直接現場に行くのは、もう少し情報を集めてからの方がいいんじゃねえの?」
フェアリーの気持ちを代弁するようにゲイルが言った。その表情は軽く苛ついているように見える。
「自分が平気だって思うのは勝手だけどな。お前が自信を持っているほどに、周りの人間は安心して待ってられねえんだって、前から何度も言ってるだろうが」
「じゃあ、この自信の根拠を言えば納得するか?」
「自信の根拠?」
「ああ。特に今回の件ではな。まず相手が人間だった場合。俺は今まで数え切れないほどの修羅場をくぐってきた。その経験上、いかなる事態にも冷静に対処できるし油断もしない。ましてや猟奇事件を演出して喜んでいるような低レベルの相手にやられていたんじゃ、これまでも、これからも生き延びられるはずがない。次に世間で言われている呪いの類だった場合。恨みや憎しみで人が殺せるなら、とっくに俺がやっている。死ななきゃそれが出来ないって言うんなら、それこそ笑止もいいところだ。人が誕生してから今まで、理不尽な事件に巻き込まれて、非業の死を遂げた人間がどれだけいると思う?その人たちは自分を殺した相手を恨まなかったのか?どんな残虐な事件の犯人でも、犯行当時、何らかの理由で正常な状況判断が出来ない状態だったと認められれば、無罪になっていずれ何食わぬ顔でその辺を歩いている。犯人が未成年の場合、犯行内容がどれほど悪質でも年齢だけが理由で大した罪に問われない。そんな事を殺された人間が納得するはずがないだろう。なのに現実には罪人たちは呪い殺されたらしい不審な死に方などしていないはずだ。これをどう説明する?」
一般論のように語ってはいるが、トーマが殺された仲間たちの事を思い浮かべながら話しているのだという事くらい、フェアリーにも分かる。トーマと同様に連れ去られ、人体実験の材料にされ、死んでしまったという百人近くの人たち。その人たちが研究所の人間たちを恨んでいなかったはずがない。確かに恨みや呪いで人を殺せるなら、その仲間たちが研究所の人間を殺していただろう。生き残りがトーマとカレンの二人になるまで黙って見ているわけがないのだ。フェアリーも最初は、トーマが人間を憎んでいるという話を聞いて「自分の方が憎しみの根が深い」などと、根拠がない上に無意味な比較をした。無意味と知りつつその理屈で言うなら、人体実験をされた人たちの恨みは、人を呪い殺せるだけの力があるだろう。お遊び半分の無茶な遺伝子操作‥‥‥その結果、どれほど苦しんで死んでいったか。想像すらつかないが、軽く見積もっても非業の死を遂げたどの人より悲惨さで劣るという事はないはずだ。
トーマは自信があるから言っているのではない。いや、それもあるとしても、まず何よりも恐れないのだ。人を。呪いを。銃弾を六発、しかもその内の一発は頭部に撃ち込まれても死なない(死ねない?)体を持っているから。想いの強さが死した後も形になって現れるのなら、仲間たちが出てこないはずがない。故に呪いなどありえないと、あったとしても心の強さで負けないと思っているから。まだ人としての自覚しかないフェアリーには、とても持てない感覚だが、そういう事だろう。
前にも聞いた同じようなセリフ。やはりトーマは変わっていない。恐怖だの不可能といった言葉は、はなからこの男の頭にない。フェアリーのようには事情を知らないなりに、ゲイルはトーマの根底にあるものを分かっていた。
「それはへ理屈ってもんじゃねえの?」
と、とりあえずひとこと言っておいてから、肩をすくめて苦笑いを浮かべた。ゲイルが知っているレオンは、元々他人の意見など聞く男ではなかったし、何を言おうと好き勝手やる。つまり「何を言っても無駄」なのだ。
「それで市長の話を聞いてきた後、いつ内容を話しに来ればいいんだ?」
「今日の仕事はオールキャンセルって事になっちまったからな。今日中なら都合がいいが。ゲイルは?」
「ああ、分かった。んじゃ、話を聞いたらまた来るわ。荷物を持ってな」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥荷物?」
「さしあたりここにいる間は、俺もこの家に居座らせてもらう。お前と話したい事は山ほどあるのに、仕事でロクに時間も取れねえだろう。空いたほんの少しの時間で、いちいちここに来るのも面倒だし、またお前が倒れねえか心配でもあるしな」
「はあ?何を言ってる」
「それに情報屋が家にいると便利だぜ。今まで情報収集のために割いていた時間が必要なくなる。これはおいしい話だろう」
「何がおいしい話だ!勝手に決めるな!ここにはお嬢ちゃんも一緒に住んでいるんだぞ?何でみすみす危険な独身男を家に招き入れなきゃならない」
「おいおい。そう言うレオンだって独身男だろうが。ま、お前らが恋人同士ってんなら話は別だけどな」
「恋人かどうかはともかく、大事な家族みたいなものに変わりはない」
「だったら尚更だ。お前の留守中は俺がお嬢さんを守ってやれる。レティシアの時の事を思い出してみろ。お前の留守中に何があった?またあんな事があったらと思うと、肝が冷えるんじゃないか?」
トーマはその時の事を思い出したらしく、一瞬言葉をつまらせた。何があったんだろう?フェアリーは思ったが、聞く前にトーマが再び口を開いた。
「そんな事を言っていたらキリがない。一生お前と一緒に暮らすワケじゃなし。どうしてもお嬢ちゃんが一人になる瞬間は出来てしまうだろ。一般家庭だってそうだ。いつ、どこで子供が危険に巻き込まれるか分からないからと言って、ずっと付きまとって縛りつけるわけにはいかない」
「あの」
突然フェアリーが口を挟んできた。手を挙げて、まるで発言をする学生である。
「トーマさん。ゲイルさんがいちゃダメ?私はその‥‥‥ゲイルさんがいると助かるかなって」
「え?」
この「え?」は、トーマとゲイルの双方から発せられたものである。トーマが意外に思うのはもちろん、ゲイルも、まさかフェアリーからの後押しがあるとは思っていなかったから。フェアリーは何故か気まずそうにトーマから視線をそらし、下を向いてもじもじと指を遊ばせている。
「今日思い知ったの。私だけだと緊急事態に対応できないんだなって。今回は特に怪しい依頼だし、もしトーマさんが受けるって言うなら、ゲイルさんに協力してもらうっていうのを条件にしたいの。でもトーマさんの事情も知っているつもりだから、そうそう簡単に他人を家に入れたくないって言うなら、その時はこの依頼を断って。お願い」
「お嬢ちゃん‥‥‥」
トーマは困ったように頭をかいた。まるで娘に恋人を紹介された父親みたいだなと、ゲイルは見ていて思った。どうやらトーマは本当にフェアリーには弱いらしい。こんな事はレティシアの時にはなかった。他人の意見に耳を貸すなど、ゲイルの知っているトーマではありえない事だ。
やがてトーマは、はあーっと大きく溜息をついて、フェアリーの頭をクシャクシャと撫でた。
「分かったよ。お嬢ちゃんがその方が安心だって言うんなら、ゲイルに来てもらってもいい。ただしゲイル。俺の方にも色々都合がある。いくつかの約束事を守れるなら、という条件付きだ。それでどうだ?」
「あ?ああ。それはもちろん構わねえよ。っつーか、マジでいいのか?」
「良くないに決まっている。が、お嬢ちゃんが一人じゃ不安だって言うんだから仕方ないだろ」
「ごめんなさい、トーマさん」
「いいって。俺はこんな事くらいしかしてやれないからな。お嬢ちゃんにはいつも辛い思いをさせているし」
フェアリーは少し淋しそうな笑顔を浮かべ、「大丈夫だよ」と言った。この『辛い思い』とやらが、どうやらトーマがフェアリーに甘い理由らしい。他人と極力関わらないようにしてるこの男が、依頼人でもない女の子と同居しているかと思えば、その女の子に何やら負い目を抱えているし、何がどうなってこうなったやら。
(何にしたって、レティシアにこんな所は見せられねえよな。恋人同士じゃないにしても、レオンが依頼なしで女の子に優しくしている姿なんか見た日にゃ、おかしくなっちまいかねない)
それほどに、レティシアはトーマに恋焦がれているのである。
トーマが去った後、レティシアはほとんど口を開かなくなった。あまり食べない、飲まない、喋らない。仕事にも行かず、トーマがいつも座っていたソファーに腰掛け、泣き暮らしていた。トーマが特別レティシアに思わせぶりな態度をとっていたわけではない。依頼通りに守り、励ましていただけだ。金の分の仕事をして、仕事が終わったから去った。ただそれだけの事。最初からそう宣言していたし、レティシアにもそれは分かっていたはず。でも好きになってしまったのだ。どうしようもない。
彼女の後悔は、想いを何も告げられないまま会えなくなってしまった事だ。想いが届かないのは確実だったので、拒絶の言葉が怖くて言えなかったのだが、いっそキッパリと振られていたら、最初は辛くても、まだ諦めがついたかもしれないと。
そこでゲイルに言ったのだ。
「もう一度だけでいいからレオンに会いたい。気持ちを伝えてハッキリと振られたら、吹っ切れると思うから。お願い、ゲイル。レオンを探して」
ゲイルは分かったと答えた。待っている間、生活のリズムを元に戻して、元気でいることを条件に。
勢いで言ったものの、宇宙都市とて人口は10億人ほどもいて、その中からたった一人の人間を捜し出すというのだ。情報屋とはいえ、どれだけの時間がかかるか。スペシャルライセンスを持つ人間など、そうそういるものではないので、そこから辿れるものならすぐに分かるのだが、特殊な技能と職業を持つ人間ゆえに、人物の特定ができないよう情報は厳重にロックされている。トーマの動きは派手で、入ってくる情報だけでも目星をつけやすいという条件を考慮しても、三年半で見つけられたのは奇跡に近い。せっかく見つけたのだから、何としてもレティシアに会ってもらえるよう頼むしかない。ないのだが、果たしてこの二人の様子を見て平静でいられるものか。
(まあ、しばらく居座るつもりだし、その間に何とか上手い具合に運ぶ方法を考えるしかねえな。ご先祖さんの話やらSWORDの事についても、まだ聞いていないしな)
正直に言えば、同居を認めてもらえる可能性は無いに等しいと思っていた。それでも、とりあえず言うだけ言ってみようと試してみたのが、まさかこんな形で成功するとは。言ってみるものである。
「それで?約束事っていうのは?」
「まず、お前に客室を一室提供する。そことリビング、バスルーム等の共用スペース以外の部屋は、俺の許可がない限り立ち入り禁止だ。例外は認めない。特にお嬢ちゃんの部屋に入ったら、間違いなく一年は病院から出られない体にするぞ」
「お嬢さんが招き入れてくれたらどうするんだよ」
「万一そういう事があったとしてもダメだ。お前たちが両想いになったら話は別だが、まあ、ないだろ」
「言い切ってくれるねえ。それにしてもレオンは過保護だな」
「当然だ。この子はお嬢様育ちで、世間の常識と少しズレた感性を持っているところがある。中でも男の事に関しては、何も知らないに等しいからな。俺が用心していないと」
「何て言うか、お前マジで親父みたいだな」
「似たようなもんだ。とにかく、この条件は分かったな」
「りょーかい!それで、他には?」
「部屋の賃貸料・光熱費・食事代等、ここに滞在している間にかかる経費と、お前に提供してもらう情報の料金は、それぞれ相殺せずに、ちゃんと精算する。そうだな。一週間に一度の割合で」
「おいおい!細かいな!宿泊費とるのかよ?」
「それも当然だろ。安心しろ。ホテルに滞在して外食するよりは安くしてやる」
「あー。はいはい。ありがとうよ。礼に情報料も安くしてやるよ」
「それは助かる。次に、これが最重要ポイントだ。俺がいない所で、俺について詮索しようとするな。この家で好奇心のままに何か探ろうとしたら、お前を殺す。お前に関わった人間、レティシアも含めて片っ端からな」
「‥‥‥!な、何だよ、それは!」
「お前は情報屋だ。何か知ったら、その時点で誰かに漏れることを想定する。お前に近しい人間は特に、俺にとっては危険な存在になる。そう考えるのは当然だろう」
「俺がやたらめったら情報を漏らすような人間かどうかは‥‥‥考慮しないんだろうな」
「するはずがない。俺は、他人にある一定の線を越えて、期待も信用もしていない」
これだ。異常なまでの冷たさと憎しみの色を宿した瞳。人としての情を排した、人ではない生き物に見える瞬間。レティシアですら殺すと言い切った言葉が本気であることを、その瞳が物語っている。仕事であまりにも人間の汚い面を見すぎたせいか?いや、それだけなら情報屋である自分だって、散々見てきたつもりだ。だが、ここまで徹底した人間不信ではない。何がトーマにここまで言わせるのか。
「どうしたんだ?約束できないなら、この家に入り込むのを諦めろ。それだけの事だ。俺と関わりを持とうとさえしなければ、何を調べようと勝手にすればいい。俺も今後お前と関わるつもりはない。それがイヤなら、この程度の条件は呑め。簡単な話だろ」
「なあ、一つ聞いていいか」
「何だ?」
「お前がいない所でという事は、お前に直接聞けば話してくれるのか?」
「さあな。場合と内容によっては話す可能性も皆無じゃないが、確約はできない」
食えない男だ。話さないと言い切ってしまえば、情報屋の性から何かと調べようとするのが分かるから、逆に「話す可能性もある」と言っておいて、余計な詮索を避けようという魂胆だろう。
まあいい。ここでトーマとの関係を絶つわけにはいかないのだから。しばらくは大人しくしておこう。ずっと張り付いてさえいれば、いずれトーマの秘密についても何か分かることもあるはずだ。ゲイルはそう判断した。
「分かったよ。しかしなあ、レオン。そんな事を言ったら、自分には他人に知られてはならない秘密があって、この家にその鍵が隠されていますと、大声で言ってるようなもんだぜ」
「今さら。どうせお前には元々怪しまれているんだ。それなら釘を刺しておく方が、まだいい」
「なるほど」
こうしてまた一人、期せずして同居人が増えることになってしまった。何かと面倒だが仕方がない。フェアリーの願いも勿論あるが、トーマとしてもゲイルと話したい事があったから。それが現実に話せるのかどうかは別として。