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第十六話『思わぬ報せ』

 午後、トーマはフェアリーとゲイルを伴ってウエスト・コーストの警察本部を訪れた。

「というわけで例の薬品の成分分析には三〜五日程かかります。あと、生き残りの少年ですが……」


 警察官の話によるとトーマが現場を去った後、リーダー格の少年の家を、説得の結果ようやく家人の許可を得て立ち入り捜査したところ、やはり部屋にいたのは一人の少年だけだったという。そこで改めて廃屋内で起きた事を話すと、母親は半狂乱になって生き残りの少年に掴みかかり、息子の所在を問い詰めた。が、少年は「やっぱり呪われているんだ」「俺も殺される」と恐怖に怯えて、未だ話にならない状態だそうだ。


「で、その生き残りのガキは今どこにいる?」

「興奮状態で過呼吸も起こすもので現在は病院です」

「現在進行形の事件について、そいつに聞きたい事がある。病院に警察官は詰めているな?」

「はい。逃亡の恐れがあるのでそれは勿論。ですが」

「興奮したら鎮静剤でも何でも打って落ち着かせてやる。こっちはミラー家から依頼を受けているんだ。多少強引にでも聞き取りさせてもらうぞ」

 ミラー家の依頼を受けていると言われてしまえば、警察官ごときに口出しはできない。ウエスト・コーストはミラー家から膨大な寄付を受けているし、そもそも、この宇宙都市で絶大な権力を持つ一族に逆らえるものではないのだ。


 そうして病院へ行き、『ミラー家の依頼』を御紋に面会謝絶という門前払いを物ともせず、トーマとフェアリーは少年との面会を果たした。ちなみにフェアリーは護衛が必要なミラー家令嬢という事でトーマとの同行を許可されたが、ゲイルは当然廊下で待機となった。


「ぎ……銀髪野郎とミラー家の女…………」

 トーマとフェアリーを見た少年の第一声がそれである。

 少年は布団にくるまり、ベッドの端で小さくなって震えている。

「俺の事はともかく、この子の顔を知っているとなると、やっぱり狙っていたのはお前らだったのか」

「お、お前だって大勢殺してきたんだろ!調べて知っているぞ!何でお前は生きていて俺は呪い殺されるんだよ!あり得ないだろ!不公平だ!」

「俺は許可を得て、一応は合法的に殺しをやっている。お前らみたいに無差別殺人者じゃねえよ」

「殺される側にそんな事は関係あるもんか!お前も呪われるんだよ!人殺しは呪い殺されるんだよ!」

「お前の言い分通りだとすると、警察官も呪い殺されて然るべきだな。凶悪犯だろうが人は人だからな。ふん、バカバカしい。どっちみちお前は呪い殺されなくても終身刑だよ。未来などあると思うな」

 冷酷なまでに現実を突きつけてくるトーマの言葉に、逆に少年は少々落ち着いたらしく、うなだれて膝を抱え込んだ。

「ひとつ教えてやる。お前の仲間達が死んだのは呪いではなく殺しだ。その調査の為に話を聞きに来た」

「………………え?」

「現場の映像は改めて確認するが、間違いない。つまりお前は呪いなどというオカルトではなく、現実的に命の危険がある。連中を殺した奴が、一人生き残ったお前を見逃してくれるという保証はないからな。連中の殺され方は残酷だったぞ。覚悟しておけ」

 トーマはわざと脅すように言った。呪いに怯えられるより、命を狙われる危機感を覚えてもらった方が、まだまともに話が出来ると思った為だ。

 その狙いは当たったようで、少年は周囲、特に窓の辺りをジッと見た後、救いを求めるようにトーマを見た。

「まさか、ここにいても狙撃されたりとか……」

「ここにいる間は大丈夫だ。この病室の窓は特殊ガラスが使われているからな。が、病院を出て警察署に移動する際は分からないぞ。まあ、お前が知っている事を全部話してくれたら、署に行くまでは俺が報酬なしで守ってやってもいい」

「お前……トーマさんが?」

 守ってやるの言葉に、態度を改める気になったらしい。こんな奴に何と呼ばれようが気にならないのだが、フェアリーの件を詳しく聞きたかったので、それは腹に収めた。

「ああ。お前からの正確な情報が報酬だ。内容の重要性によっては、捜査協力の見返りとして密かに減刑するよう俺から一言添える可能性もある。どうだ?話してみないか?」

 トーマの甘言につられ、少年は素直に知っている事を話し出した。その際トーマは「警察による取り調べの長期化を防ぐ為」と称し、録音する旨を告げて会話内容を録音した。

 そもそもが人気者の同級生達を脅かして、惨めな写真を撮って恥をかかせてやろうという軽い気持ちだったのが、思わぬ惨事になり動揺した。が、あまりに惨めに命乞いをするもので、面白くなって蹴っているうちに殺してしまった事。普段から加害者少年達が被害者少年達を良く思っていないのは知られていた事から軽く疑われ、このままではヤバいと次の殺人を犯した事、警察が入ってもバレなかった上に呪いの館という噂まで立って、世の中をなめるようになり、殺しが娯楽になっていった事。それにリーダー格の少年の家にあるパソコンと周辺機器を調べると証拠は集まるので、家人がそれに気付く前に押収した方がいい事など、話すことで罪が軽くなるとでも思っているかのようにペラペラと話した。

「ミラー家令嬢を狙った件については?」

 トーマにそう聞かれると、さすがに本人を前に話すのは気が咎めたのか、気まずそうにフェアリーをチラッと見たが、『護衛』『減刑』の言葉が頭にあったので、これも話した。トーマとフェアリーが恋人同士だと思い込んでいるので、「輪姦して殺して庭にでも放り込んでやろう」と話していた事までは言えなかったが。

 自分を殺そうとしていた人間達の話を、フェアリーは無表情に、一切の口を挟まずに聞いていた。

「これで全部話したぞ。な、さっきの約束は……」

「心配するな。今の会話は録音してあるんだ。証拠が残っちまった以上、約束は守るさ」

 トーマの言葉に少年はあからさまにホッとした表情を見せた。あれほど多くの人を殺しておきながら少しの罪悪感もないのかと、内心フェアリーはおぞましくも感じながら、最後まで決して内心を表情には出さなかった。

 

 そうして病室の中で事情聴取が行われている間に、廊下で待っていたゲイルのI.Bに一本の連絡が入っていた。


「何なの、あいつ!何十人もの人を遊び半分で殺して自分は死にたくないって?しかも友達が死んだのよ?それを……!」

 全ての用事を済ませ、帰りのビームスハイウエイの車の中で、フェアリーはようやく内心を吐露した。怒りのあまり肩を震わせている。トーマはフェアリーの肩を抱き寄せ、自分の方へと寄りかからせた。

「それだけ怒っているのに、よく我慢したな」

「……だって、私が怒っている様子を見せたら、あいつ怯えて何も話さなくなるかもしれなかったから。トーマさんの邪魔はしたくないもの」

「お嬢ちゃんが嫌な思いをするのは分かっていたんだけどな。すまなかった」

 フェアリーは黙って首を横に振った。トーマは懸念があってフェアリーを同行させたのだ。その懸念は少年の証言により、当たっていたと判明したわけだが……。

「ねえ、トーマさん。あいつとの約束、どうするの?」

「どうするも何も守るさ」

「あんな奴、トーマさんが体を張って守ってやる価値なんてないのに。ましてや減刑の口添えなんて」

「俺が約束したのは、病院から警察署までの護衛と減刑の口添えだけだ。殺った人数が人数だからな。多少減刑されたところで終身刑は免れないだろ。もし万が一未成年者という事で出られたとしても、殺された人間の遺族か、一人生き残った事を恨む加害者のガキ共の家族に狙われる事はあり得る。それに殺した人間の中には警察関係者もいる。恨みに思っている仲間もいるかもしれないし、遺族に『配慮』して面会を許すかもしれない。そうなっても、それに関しては俺の知ったことじゃないさ」

 つまりトーマは生き残りの少年から話を引き出す為に好条件を提示したと思わせたわけだ。実際のところ無制限に護衛をするとは言っていないし、軽い刑で済むようにするとは約束していない。少年が勝手に勘違いして話しただけだ。

「でも、少なくとも病院を出てから警察署までは危険があるもの。あんな奴の為にトーマさんが少しでもケガをするのはイヤだわ」

 証言を引き出す為にあの程度の条件提示は必要と判断しての事で、更に言えばさほど危険も感じていないが故の事だと分かっているのだが、それでも不満に思わずにいられない。そんなフェアリーの頭を撫で、トーマはゲイルの方を見た。

「で、俺らが病室を出てから今まで一言も喋っていないわけだが、どうした?」

「……レティシアが……死んだと」

「死んだ?いつだ?」

「死後十日だそうだ。リブリーの大家の所にベンジャミン・シティの警察から今日連絡があったらしい」

「ベンジャミン?ウエスト・コーストの隣の街だな。なんでそこの警察から」

「俺も詳しい事はまだ分からん。大家も、レティシアと思われる遺体が発見されたので、確認をしてもらいたいのだが、家族の連絡先は分かるかと聞かれただけで、それ以上の事は何も聞いていないらしい」

 その話にトーマは激しい違和感を覚えた。この時代、公的機関からの連絡は必ず発信元の所在地がリアルタイムで映像表示されるので、騙りは出来ない。なので連絡自体は事実、ベンジャミン・シティの警察署からのものだったのだろう。でなければ大家が嘘をついている可能性もある。しかしトーマもその大家とは面識があるが、お人好しで面倒見のいい女性で、そんな悪質な嘘をつくタイプではなかった。では本当にレティシアは死んだのか?

(このタイミングで?しかもウエスト・コーストの隣の街で。いくらなんでも不自然だろう)

 少年達が殺された翌日に遺体が発見され、しかも死後十日という事は、今回の件にレティシアは関わっていないことになる。生き残りの少年からの証言を聞いている、正にその間に連絡が入ったりと、何かと不自然だ。

「何だってベンジャミンで……レオンを探して近くまで来ていたのか?なのに会えずに……何で」

 ゲイルは顔を覆って肩を震わせている。呼び名が『レオン』に戻っているが気付かないフリをして、トーマはシートにもたれかかって目を閉じた。

 この時代、生体情報はかなり正確に記録されており、その照合の結果レティシアと判断されたのであれば間違いはないのだろう。身元確認を遺族にさせるのは、その死を納得させる為という意味合いが強い。ただレティシアと「思われる」という曖昧な言葉が引っかかってはいるが。


 レティシアが一連の事件に関わっていると怪しんではいるし、実際にフェアリーを狙っているのなら絶対に許さないとは思っている。しかし本当に自分を探して辿り着く前に死んだというなら……トーマとてしばらくは一緒に暮らした仲だ。無心ではいられない。有り体に言えば気の毒に思う。ましてやゲイルからすると昔なじみだ。妹のようにも思っていたのかもしれない。そんな存在が突然死んだと知らされたら、すぐには冷静になれないのも当然だろう。実際にゲイルはこの後、家に着くまで一切口を開かなかった。

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