ドロシー、4人目を探す
「なるほど。案山子を作るのは人間だけだと聞いていたが、確かに実物を目にしたのは初めてだ。勉強になったよ。」
人間以外の鳥人や獣人などの人種は案山子など作らないという事なのだろう。そしてヘンリーは不安そうにブラウンを見た。
「オイラの顔に何か着いてるかい? 」
「なにね。ドロシーには命を狙われる事になっているから強そうな仲間を見つける事をお奨めしたんだけどなと思ってね。」
藁と木で出来たブラウンが戦力になるとは、ヘンリーにはどうしても思えなかった。この時点ではドロシーもブラウンは頭数としか思っていなかった。アリスは頼りになりそうだが、やはり4人目は戦力になってくれた方がいいと思っていた。
「でも、そう簡単に見つかりそうもないわよね。何しろ私がいつ、ドラゴンになるか分からないんだし。」
それを聞いてヘンリーも大きく頷いた。
「そうなんだよね。それだけにイドムを預かる身としては早く出発して欲しいんだ。そこでコーディネーターを用意させて貰った。」
ヘンリーが一歩下がると、その後からエメラルドカラーのスーツを着た女性が現れ、ドロシーたちに会釈をした。
「こちらが、御依頼のあったドロシー様御一行ですね? わたくし、エメラルディア聖旅行社、通称E.S.T.A.のモニカと申します。街の間を移動される方々に食糧、生活必需品から人員の紹介など幅広く御世話させていただきます。」
するとドロシーは訝しげにモニカの顔を見た。
「一応、言っとくけど、この世界の通貨が何だか知らないけど1$も持って無いからね? カードも持って無いわよ。」
大型ハリケーンに飛ばされて来たのだ。財布もスマホもありはしない。スマホはあっても圏外だろうし充電するにもアダプターも無い。ドロシーはまさに、着の身着のままなのである。
「あぁ、お支払いの事でしたら御心配なく。当社は偉大なる王オズ様直属の聖クラウス様が運営されている事業ですので、当社に関する経費は規約をお守りいただいている限り無料となっております。」
にこやかにモニカは答えたがドロシーは不服そうだった。
「つまり、監視役って事? 」
「はい、そうとも申します。ただ、ご利用いただかなくとも監視はつきますので、ご利用いただいた方がお得かと… 」
「しっ! 」
突然、ドロシーは口元に指を当てたかと思うと走り出した。その様子に仕方ないと言わんばかりにヘンリーが視線を送ると、モニカは黙って頷きドロシーの後を追っていった。
「トトっ! 」
そこではドロシーと一緒に飛ばされて来た犬のトトが1人の獣人に向かって吠え掛かっていた。トトがドロシーの声に気づいて離れると獣人はヘナヘナと座り込んでしまった。
「犬はちゃんと繋いでおいて貰えませんかねぇ。」
トトに怯えていた獣人は、やっと声を絞り出した。
「レオンさん? また、貴方ですか。小動物相手に毎回、騒がないでいただけますか? それでも獅子心王と呼ばれた偉大なる獣の王の末裔ですか。」
モニカは少々、呆れていた。獅子心王と聞いてよく見ればボサボサではあるが確かに鬣を貯えていた。それにモニカは獣の王の末裔と言った。トトに怯えていたとは言え演技かもしれない。何しろドロシーには獣人に命を狙われる覚えがある。少し後退りをすると入れ替わるようにアリスが前に出た。
「レオン、何の目的でここへ? 返答によっては排除します。」
だが答えたのはモニカだった。
「不用意な市中戦闘は避けてください。御心配なさらずともレオンさんは筋金入りの臆病者です。」
「筋金入りは酷いなぁ。」
レオンは頭を掻きながら立ち上がった。ドロシーの腕の中でトトが唸るとレオンは驚いて尻餅をついた。モニカの言う筋金入りの臆病者というのも、あながち演技ではないのかもしれない。
「ねぇ、レオン。私と一緒にエメラルディアに行ってくれない? 」
「おいおい、本気かい? 」
遅れてやって来たヘンリーが呆れたように言った。
「ヘンリーだって早いとこ厄介払いがしたいんでしょ? こっちだって少しでも早く出発したいの、分かるでしょっ! 」
するとヘンリーとモニカは顔を見合わせて頷いた。
「では承知いたしました。ドロシーさん、アリスさん、ブラウンさん、レオンさん及びペット枠にトトさんを登録いたします。」
モニカは手元の用紙に記載を始めた。
「ちょっ、ちょっと俺の意見は… 」
と声を挙げたところでアリスとトトがレオンを睨み付けると、それ以上先は言えなかった。モニカは記載を終えると、あらためて頭を下げた。
「この度はエメラルディア聖旅行社をご利用いただき、誠にありがとうございます。あらためまして、わたくしドロシーさん御一行を担当させていただきます聖モニカと申します。当社では街の間を移動される方々に食糧、生活必需品から人員の紹介など幅広く… 」
「ストップ、ストーップッ! 」
突然、ドロシーが大声でモニカの言葉を遮った。
「それ、さっき聞いたぁ。取り敢えず、もう街を出てもいいんでしょ? 」
「え!? あ、はい。何かお困りの事がございましたら、お呼びいただければ直ぐに駆けつけますので何なりとお申し付けください。」
通信機のような物がある訳ではないが監視を兼ねていると言うのだから目の届く範囲に居るという事なのだろう。ともかく、ようやくドロシーたちはイドムから出発する事が出来た。