ヤドカリだったころの悲しい思い出(童話)
冬童話2021のお題を見て思い出した、昔書いた話。
昔々僕がヤドカリだったころの悲しい話。
僕はそのころ海に住んでいた。
ヤドカリだったからね。
僕の住んでいた海は、岩場の海で色々な魚や海藻がいてにぎやかだった。
貝も豊富だったので、ヤドカリとしては引っ越しもしやすくて、良い海だったよ。
ヤドカリの生活はのんびりしている。
お腹がすいたら海草を食べ、窮屈になったら新しい貝を探し、気が向けば岩に上がって日に当たる。
ある日僕は友人(いや友ヤドカリか?)と日に当たっていた。
二匹で並んで日にあたる。
のんびりと幸せな時だった。
波の音が聞こえる。
たまに当たるシブキは暑くなった貝を適度に冷し心地よい。
その時、人の子が友人をつかみあげた。
「なんだーヤドカリだ」
子どもはそう言うと友人を海へ投げた。
僕は慌てて手足を貝にしまい、海へ転げこむ。
水面に落ちた僕は、波に流されながら静かに海底に沈んでゆく。
しばらくするとカツンと小さな音と衝撃があり、僕は海底の岩にたどり着いたことを知る。
海底を歩き、友人を探したけれど、結局友人には二度と会えなかった。
これが僕がヤドカリだったころの一番悲しい思い出。