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日曜、夜9時の童話シリーズ

御行の名に傷が付く花咲か爺さん

作者: しいたけ

身内の悪事ほど裁きにくい物はない

 あえぐ大不況の最中、東京中央村の良識爺さんは、犬のポチと共に今日も営業に精を出しておりました。


 帰社間際、ポチが不意にその足を止め、地面を指しました。


「ここ掘れワンワン!」


 爺さんは地面の中に営業先があるとは思えなかったが、とりあえず掘ってみる事に。


 すると、地面の中から小判が現れました!


 爺さんは喜び、帰って妻にその話をすると、隣に住んでいた上司の意地悪爺さんが、たまたまその話を盗み聞きしておりました。


「ほほう……」


 そして良識爺さんが寝静まった後、意地悪爺さんは庭に保管されているポチを盗み出し、出掛けました。


「貴様に残された選択肢は二つ! ここ掘れワンワンかジジイの出向を指を咥えて見ているかだ!」


 ポチに選択権はありませんでした。仕方なくポチは「ここ掘れワンワン……」と悲しげな声で鳴くと、意地悪爺さんは喜び勇んで地面を掘り返しました。


 しかし幾ら掘っても何も出て来ない爺さん。三メートル掘った辺りで上を見上げてポチに激昂しました。


「貴様ぁぁ! 私を謀ったなぁ!?」


「貴方のような欲に塗れ、私腹を肥やすだけの卑しい人間に、誰が小判なんかをやるものか!!」


 ポチは穴の中に向かってオシッコをかけました。そして上から土を掛けて、穴を埋めてしまいました。


「地下への出向だ!! 存分に苦しむが良い!!」


 満足したポチが家へと帰ろうとすると、その頭を後ろから捕まれました。


「この私をあの世へ出向させるだと……? 1000年早いわー!!!!」


 土に塗れた意地悪爺さんが、仕返しにポチを天国への出向を命じました。ポチは蝦夷の最果てに飛ばされました。栄転です。




 次の日、ポチの天国へ出向を人伝に聞いた良識爺さんは、酷く悲しみ、ポチの家の前に種を植えました。


 種は瞬く間に芽を出し、大木へと成長を遂げました。


 良識爺さんは、ポチへの手向けを贈ろうと、その大木から臼と杵を作りました。そしてそれでお餅をついたとき、中から小判が大量に溢れ出しました!


 外から小判の音が聞こえた意地悪爺さんが、慌てて出て来ました。


「これは!! 今すぐに私にそれを寄こしなさい!!」


 意地悪爺さんが杵を奪い餅をつくと、臼の中から意地悪爺さんが不正を働く声が聞こえてきました。


「ですから、書類に判さえ頂ければ、後はこちらで……」

「その件につきましては、抜かりなく地下の金庫に隠しておりますので……」

「将軍様の大好きな山吹色のお菓子で御座いますぞぉ?」


 意地悪爺さんは顔を真っ赤に染めて怒りました。そして臼と杵を全て焼却してしまいました。


 良識爺さんは悲しみました。ポチへの手向けが出来なかった事もそうですが、上司である意地悪爺さんが信頼していた将軍様と手を組んで悪事に手を染めていた事が何よりも許せなかったのであります。


「許さない……絶対にこの悪事を暴いてみせる!」


 良識爺さんは、臼と杵が燃えて出来た灰をザルへと入れ、家へと帰りました。




 将軍様が遠征に出掛けた日の事です。人々は将軍様に向かい頭を下げ、将軍様の御威光に平伏しました。


 意地悪爺さんを見掛けた将軍様は、ニヤリと微笑むと、意地悪爺さんの頭を下げながらニヤリと微笑みました。


「む、あれは何ぞ?」


 将軍様が指差した先には、枯れ木に上る良識爺さんが居りました。


「将軍様! この度は、将軍様への労いと致しまして、この老いぼれが枯れ木に花を咲かせてみせましょうぞ!!」


「ほう、面白い。やってみせよ。無論、出来なければ貴殿には土下座をして貰う……宜しいな?」


「何なりと……」


 良識爺さんが臼と杵から出来た灰を振り撒くと、瞬く間に枯れ木に花が咲きました。人々は驚き枯れ木の周りへと集まります。


「ほほう、これは素晴らしい。これ、貴殿は何が望みだ。言うてみよ」


「それでは恐れながら申し上げます! 天下太平のこの世におきましては、先の将軍様の御功績は広く、末代まで語り継がれる物でありましょう。しかし、次期将軍……つまり貴方様は如何で御座いましょうか?」


「なに?」


 それまで笑顔だった将軍様の顔が曇りました。


「将軍とは天に昇る太陽の如く! 天下万民の灯火となるべく! 導きとなるべく! 豊みとなるべく! 決して曇ってはなりませぬ!!」


「何が言いたい?」


「私が次に咲かせる花は、将軍様には何色に見えますでしょうか?」


 良識爺さんが灰を掴みました。何かを察した意地悪爺さんが、慌てて駆け出し、良識爺さんを止めようと木によじ登り始めました。


「止めろ! 止めろ……!! 止め──」


「ご覧下さい!!」


「止めろジジイーー!!!!」


 良識爺さんが灰を振り撒くと、枯れ木に帳簿の花が咲きました。人々は不思議に思い中を覗きます。するとそこには将軍様へ献上する裏金の詳細が記載されておりました。


「大黒屋銀行より将軍様へ金1000両!! そして受け取りの将軍様の印がしかと捺されている!! 言い逃れは不要!!」


 裏帳簿の花が咲いた木の下には、将軍を冷ややかな目で見つめる人々が居りました。


「知らぬ!! 私は何も知らぬぞ!!」


「まだそのような事を……ならばこれでどうです!!」


 良識爺さんは木から降りると、小屋の影に隠して置いた臼と杵を取り出しました。


「あれは……!! 燃やした筈では!!」


「臼と杵は二つ作っておいたんだ! お前が燃やしたのは一つだけだ!!」


 良識爺さんは将軍に杵を持たせ、臼にふかした餅米を入れました。


「存分について下さい。……皆の衆! 将軍様が直々に餅を振る舞ってくれるそうだぞ!!」


 将軍は裏帳簿の事で頭が回りません。仕方なく言われた通りに杵をつくと──


「大黒屋よ、我もそろそろ山吹色の菓子が恋しくて……のぅ?」

「ククク……! いつ見ても大黒屋の山吹色の菓子は美味じゃのぅ!」

「最近周りが煩くなってきた。如何なる些細な証拠も残すなよ? この裏金……誰にも知られてはならぬぞ?」


 臼から将軍の不正を働く声が聞こえてきました……。


「な、なんと…………」


 将軍が杵を手放しました。


「将軍が大黒屋と手を組み悪事を働くなんぞ前代未聞!! 先の将軍様も草葉の陰でさぞかし嘆いている事でしょう!!」


「クッ……くぅぅぅぅ…………」


 将軍は項垂れ、不正が明るみに出た将軍様は、職を辞して寺へと入りました。意地悪爺さんはシベリアへと出向を命じられ、ポチは良識爺さんの元へと帰ってきました。


 良識爺さんとポチは末永く幸せに暮らしましたとさ。

私は色仕掛けに弱いです。誰か試してみませんか?

(*´д`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前書きで思い至りましたが、物の縛りかたが弛いことを、義母が『親戚の泥棒』と言ってましたね。 グーグル検索では引っ掛りませんでしたが。 あと、こんな後書き初めてみました! 新手のクレクレ?…
[一言] ポチ生きてたwwww あと東京の中央にあるのに村なんだwwww
[一言] 色仕掛けに引っかかったことがあるんですか?
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