第1話 とある異世界の冬のお話
とある異世界の、とある場所。
この異世界の季節を司る塔、シーズン・タワー。
その最上階にある季節の間には、季節毎にそれぞれ春・夏・秋・冬の季節を司る女王様が住んでいる。
夏の女王様が塔に住んでいる時は、女王様の膨大な魔力が季節の間により増幅され、世界は夏の日差しに包まれる。
秋の女王様が住んでいる時は、塔から溢れる魔力が世界中の木々を紅葉させ、美味しい果実で世界が満たされる。
平たく言うと、「四季」は季節の女王様の持ち回り制の元で成り立っている。
そんな塔の季節の間には、今現在、冬の女王様が住んでいる。
それぞれの季節の女王様は一年の内、三ヶ月を塔で暮らし、次の季節の女王様に交代するのが、昔からの習わしだ。
ところが今年、冬の女王様が四ヶ月経っても五ヶ月経っても、塔から一向に出てこない。
冬の三ヶ月、いつもの年だったら人も動物も果ては魔物に至るまで、休養の三ヶ月として次の年の準備のため、ゆっくり休む期間だ。
その冬が今年はいつもより長く続いている。初めはその内に春が来るさと楽観していた人々も段々とおかしいことに気づいてきた。
そして、ついには貯めてた食べ物が減ってきて、困る人々が出てきてしまった。
『どうして春が来ないの? 冬の女王様はどうして塔から出てこないの? 春の女王様はどうしているの?』
人々の不安と不満は、世界中に今も降る雪のように積もるばかりとなってきた――――。
困った王様は世界中にお触れを出した。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。季節を廻らせることを妨げてはならない』
このお触れの効果はテキメンだった。少なくとも最初だけは……。
褒美を目当てに世界中の冒険者がこれに挑戦した。
しかし、塔は魔法のバリアに覆われていて、季節の女王以外は近づくことができない。
塔の下から大声で呼びかけても、冬の女王が季節の間から顔を出してくれないばかりか、全く反応が返ってこない。
春の女王を探しても、何処に居るかが全く分からない。
最初はあの手この手で挑戦していた冒険者達も、一人諦め、二人諦め、一ヶ月経つ頃には誰も挑戦しなくなっていった。
冬の女王は、塔の中で死んでしまったのではないかと噂する人も出てきた。
このまま永遠に冬が続くのではないかと、世界中の人々は悲しみに沈んでいった――――。
◇◇◇
「この世界は、どこに行っても何ヶ月経っても、寒いままだな……」
辺り一面の銀世界、まるで雪でできた砂漠のような道なき道を進む一人の青年。
白いローブに身を包んだその姿は、完全に周囲の白色に溶け込んでいる。
そんな過酷な環境の中でも、青年は特に辛そうな様子もなく黙々と歩みを進めている。
「ホントだニャー、寒いしお腹空いたし、ひもじいニャー」
青年の胸元からヒョイっと、猫が顔を出した。
見た目完全に猫だが、人語を喋っている。黒い縞模様が入っていて、全体的にはグレー基調の毛色の猫だ。
「アメショ、お前はずっと俺の胸元でヌクヌクしてただけだろ。非常食も勝手に食べてるしさ……」
青年はジト目を猫に向けている。
「ハクマはお得意の回復魔法があるからいいじゃん。寒さも回復し続ければ平気だニャー」
アメショと呼ばれた猫が、耳をピコピコさせながら青年に話しかけている。
「お前なー、回復させ続けるのも結構疲れるんだぞ。寒いことは寒いしさ」
ハクマと呼ばれた青年のジト目が止まらない。
「こんな寒い時は、鍋にかぎるニャ。なっべ! なっべ! ハクマは早く人が住んでる家を探すんだニャ」
「お前、猫鍋って知ってるか……。この寒さでどこも食材が不足してるだろうしな」
ハクマは服の上からギューっと猫を圧迫した。
「ウニャー、暴力反対だニャ! 猫鍋って、可愛いアレだよね? 煮たりしないアレだよね??」
なんだかんだで、仲良さそうに雪道を進む、青年ハクマと猫アメショであった――――。