第9話 商売人になる!(後編)
アリスを買ってきた翌日。
アリスには奴隷の証のアクセサリーとしてネックレスを与えた。
普通は首輪らしいのだがどうも日本にいた頃の良心が人と動物を一緒にすることを拒む。
せっかくなので、服も適当に見繕ってやる。
もとの顔立ちもよく、服も綺麗になったため貴族のお嬢様よりお嬢様に見える。
「私がこのような服を着ても宜しいのでしょうか?」
「別に構わん、それに俺はお前を奴隷扱いするつもりなどない」
「それはそれで私が困るのですが……」
「どうでもいいからさっさと、ギルドに言って登録してこい」
アリスに商人ギルドに登録に行くよう命令する。
アリスがギルドに言っている間にマルロに醤油の精製具合を聞きに行く。
「マルロ、醤油はどれくらい作っているんだ?」
「おう、プレか。使用人が頑張っているおかげで毎日50リットルは今のところ作れているな。
この醤油大好評だぜー、試しに近所の人らに配ってみたら売ってくれ売ってくれってうるさくてさ」
「それは良かった。ちなみに在庫はどれくらいある?」
「200リットルってとこだな。お前さん達の飯はもちろん使用人の賄いにも醤油を使ってるから1日に増える在庫はそんなに多くはない」
ならば1日に売れる醤油は30リットルほどだな。
ハンセン領は海に接していて塩の価格が1キロ銀貨2枚ほどだと考えると
醤油1リットルで銀貨4枚ほどでいいかな?
人件費の考慮なしで原価が小麦・大豆がほとんどだから銀貨1枚として儲けは銀貨3枚か。
毎日借りに売切れたとして銀貨90枚、つまり金貨9枚か。
(1店舗の純利益としては十分だろう。あとはお金を借りてきて事業の拡大だな。
いつまでも使用人に醤油を作らせるわけもいかない。そうなると人件費もかかってくるんだよなぁ……)
(今のところ赤字は出なさそうだし醤油で利益を出しつつ別の商品の販売も検討してみるか)
計算している間にアリスが帰ってきた。
「ただいま帰りました。無事に販売許可証も手に入れてきました」
「ありがとう、ご苦労だったな。ついでに今から屋台を買いに行くぞ。屋台がどこで売っているか知らないか?」
「屋台でしたら、木工職人を有する商会の所へ行けば販売していると思います」
「わかった。ありがとう。すぐ出かける準備をするから待っていてくれ」
街に出る準備をする。アリスを思った以上に安く買えたため資金は余っている。
街着に着替え資金を持ってアリスの所へもどる。
「待たせたな、悪いが金棒もっといてくれ。重くてかなわない」
「かしこまりました」
アリスと二人で街に出かける。レイがいるとどうしても目立ってしまうので留守番させている。
(しかしこうやって二人で歩いていると姉弟みたいだな。アリスも18歳にしては幼い顔をしているし)
傍から見たら貴族のお嬢様が弟を連れて歩いているように見えるだろう。
そしてそれは格好のカモのようにも見えたらしい。
この街は治安が良いと言ってもこの世界の基準でだ。
日本の治安がいいとは天と地ほどの差がある。
ドンッ!
「おい、ねーちゃん〜痛いじゃねえかよ!!」
これまたテンプレ展開がきた。
どうやらアリスの方が柄の悪そうな男3人組の1人の肩とぶつかったみたいだ。
恐らくこの場合はぶつけられた側だろうが。
「す、すいませんでした」
アリスは謝る。
「あ〜これは骨おれちまったかもなぁ〜どうしてくれるんだよ?」
「すいません、すいません」
アリスが必死に謝る。しかしここで許してくれるわけがないのがテンプレである。
「ちょっとあっちの路地裏行こうぜ、俺らといいことしたら許してあげるさ」
(あ〜面倒くさい奴らだなぁ。通って行く人も助けてくれる様子もないし、さてどうしたものか)
(あ、そうか。人目つかないから路地裏に連れて行くんだろ。それを利用してやればいいか)
「ご、ご主人様。ど、どうしますか?」
(あちゃー、ここでこれ言ったらダメだろ〜)
「ご主人様だぁ?このちっこいのがか?」
男の1人が威嚇しながらこちらを睨んでくる。
「そうだ、俺が主人だ。それが何か問題あるのか?」
男たちから笑い声が上がる。
「いったいどこの金持ちの坊っちゃんだ??羽振りはいいんだろ??」
ここまで騒ぎになったら周りに人垣ができてくる。
しかし誰も助けようとはしてくれない。
下手に手を出したら自分たちが怪我をするかもしれないからだ。
「痛い目にあいたく無かったら金をよこしな」
「よこさないといったら?」
「こうするだけだ!!!」
そう言って男は俺を掴もうと手を伸ばしてくる。
アリスが必死にそれを防ごうとするが遅い。
アリスには言う必要も無かったし俺が魔法を使えることを言ってないのだが
(仕方ない、身体強化!)
「やめなさい!!」
突如、人垣の向こう側から子供の声が聞こえた。
男もいきなりの事で手を止める。
「あなた達、小さい子に乱暴して恥ずかしいと思わないの?」
そう言って姿を見せたのは俺より2〜3歳年上の女の子だった。
(お前も十分小さいだろうよ・・・)
男は俺から距離をとる。
(ああ、なるほど)
女の子の周りには執事としか見えないご老人、そして二人の完全装備した騎士が立っていた。
(どこかの貴族の娘かな?俺もこんな街中で魔法を使わずにすんでよかった。)
男たちは一目散に散らばって逃げていく。
逃げ足が早いやつらだ。
女の子が近づいてくる。
まず驚いたのがめちゃくちゃ綺麗な子だった。
金髪でいて、それを強調するようにロールになっている髪型。
そして目は大きく絵本に出てくるようなお姫様だった。
「だいじょうぶ?怪我とか無い?」
俺に向かって優しく声をかけてくる。
完全に子供扱いだな、いや子供だけどさ。
(威嚇する時は大声で、子供を諭す時は優しい声で、この態度だけみてもかなり聡明そうな子だ。
サリも見習ってほしいものだ)
「ううん、だいじょうぶ!お姉ちゃん、助けてくれてありがとう!!」
精一杯子供スマイルで感謝の意を述べておく。
アリスは俺の急に変わった態度に動揺したのか少し固くなりながら
「あ、危ないところを助けていただきありがとうございました!」
女の子の隣の執事が答える。
「怪我がなくてなによりです」
「爺や、時間も無いし行きましょ!」
「かしこまりました」
そう言って俺らが名前を聞く前に女の子は馬車に乗り去っていった。
「ご主人様、さっきのはいったい誰だったんでしょうか?」
「さあな、お人好しか集まっていた人垣が邪魔だったんだろう。」
「それと先程はすいませんでした!私のせいでご主人様にまで危険な目を合わせてしまって……」
「別に気にするな、それに俺は魔法があるから俺を傷つけることは並の輩では無理だ」
「そうなんですか!?ご主人様はこんな若くして魔法まで使えるのですか?」
「まぁな」
それ以上俺は会話を続けなかった。あまり話し過ぎると要らぬ情報まで漏れてしまいそうだからだ。
気をとりなおして目的の商会へと向かう。
この間アリスとは無言であった。
「いらっしゃいませ!本日はどのようなご用件でしょうか!」
店に入ると元気な青年が出てきた。
「露店で使う屋台を買いたい」
俺は率直に述べる。
俺が喋るとは思わなかった青年は意を突かれたらしく
「え、あ、えーと。屋台ですか?それならこちらの地下にご案内いたします」
そう言って青年にこの店の地下へと案内された。
大商会らしくかなり大きい地下室があった。
「こちらが屋台でございます。小さいものから大きい物までとりそろえています」
そう言って青年が指差した先にはアリスを買いに行った時に見かけた形と同じような屋台があった。
(醤油を売るだけだった大きい馬車もいらないがせっかくだし醤油を使った料理も売れるぐらい大きいやつがいいな)
「この屋台はいくらだ?」
そう言って俺は中ぐらいの屋台を指差す。
「そちらの大きさでしたら金貨60枚です」
(屋台買っても他に調理器具とかも買わなければならないしな。無駄な出費は抑えたいとこだが)
そう思っていると、
「お兄さん?もうちょっと安くならない?」
アリスが色気づいた声で青年に話しかける。
「あ、いやでも、うーん、金貨55枚まででしたら」
「もうちょっと」
そう言って上目遣いで青年を見上げる。
(アリスにこんなテクニックがあったとは驚きだな。確かに性欲を持て余してそうな青年にはちょっと幼いが美人とも言えるアリスに上目遣いされたら落ちそうだ)
「ええい! 金貨50枚でどうですか!!」
(あ、落ちた。)
「ご主人様、金貨50枚ですがどうします?」
「お前が頑張ってくれたんだ、せっかくだし買おう」
買った屋台をこれまたアリスマジックによって
青年に手伝ってもらい販売許可証を得たエリアに運んでもらった。
「あとは調理器具類か、残金の金貨50枚をお前にあげるからこのお金の中から必要だと思うもの買ってこい」
「ええっ、金貨50枚分の買い物ですか!そんな大金持ち歩いておとしたら……」
「心配いらん、俺はいったん家に戻ってマルロに話を通してくるからそれまでに準備しとくんだ。
商売に必要なもの全部買ってくるんだ。皿や箸も忘れずにな」
「は、はい!かしこまりました」
そう言ってアリスに露店の準備を任せ俺は醤油を運ぶ準備をする。
「マルロ、明日からの営業に備えて今日中に醤油を運んでほしい。営業初日で宣伝の意味合いを込めて100リットルほどだ」
「そんなに運ぶのか!?今は特に仕事もないから使用人たちも暇しているから可能だが……俺達が使う分は残しといてくれよ?」
「わかってるよ、そこのとこはきちんと考えているから大丈夫だ。屋台の場所分からないと思うから俺が案内する。馬車でも準備して醤油を積み込んでいってくれ。ついでにあるだけの生魚も頼。」
(さて、と。あとは今日に試食会を行って明日から本格的に営業だな)
マルロが使用人たちを使って次々馬車にのせていく。
俺も馬車に乗り行き先を指示していく。
屋台の場所に近づくと人通りが多いため馬車から降りて手作業で運んでいく。
俺は見るだけなのだが。
屋台に戻ると
「ご主人様、おかえりなさいませ。」
アリスが元気よく出迎えてくれた。
屋台を見ると、薪を利用する小さな釜戸や看板が設置されていた。
魔法の道具である魔道具で火を出すのもあるが金貨50枚程度ではとても足らなかったらしい。
ハンセン家の調理場は魔道具だからそんな高いものだとは思わなかった。
「プレリュード商会??あれアリス商会じゃなかったのか?」
「奴隷の私の名前がつくなんてとんでもないです!ご主人様の名前であるべきです!」
(なかなか出来のいい看板だしまぁこのままでいいか。名前なんてどうでもいいし)
「ま、名前なんてどうでもいい。マルロたちが醤油を運んでくれたからこの裏に置いていくぞ」
使用人たちが次々と醤油の入った樽を運んでくる。
あっという間に屋台の裏は醤油でいっぱいになってしまった。
「今日はこれから軽く試してみて周りの人に配ってみようと思う。
今の予定では魚を醤油で煮たやつを販売し、ついでに醤油も販売する予定なんだが
アリス1人でも大丈夫か?」
「実際やってみないとわからないですね。販売だけならなんとかなると思いますが、調理まで、となると」
「それもそうだな。もし忙しくなりそうなら調理担当にマルロつけるか」
「っておい!勝手に決めていいのかよ!」
マルロが言う。
「多分大丈夫だ」
「じゃあ早速調理にかかっていくぞ〜、最初だしマルロ手順を見せながらアリスに教えてやってくれ」
マルロがアリスに教えながら調理をしていく。
するとたちまち周りに醤油の焼けた、独特の匂いが漂ってくる。
「「なんだ、なんだ、このいい匂いは?」」
料理が完成する頃には周りの屋台の店主がプレリュード商会の屋台を囲んでいた。
(仕事しなくていいのか?まぁついでだし食べてもらおう)
「マルロ、みんなに煮魚配ってあげて」
「ほいよ、へい!集まっているそこのおっちゃん!!良かったらこれを食べてくれないか!今日はプレリュード商会の試食会なんだ!」
マルロの太低い声が響き渡る。
指さされたおっちゃんが
「これは、魚を煮たやつかい?水で煮たらこんな色にはならないけど一体何で煮たんだい?」
「それはこれからのお楽しみさ! とりあえず今日はタダでいいから食べておくれ!」
そうマルロが急かすとおっちゃんは身を箸でつまみ口に運ぶと
「うまい!! こんなうまい魚食べたことない! 今まで焼いて食べるだけだと身もパサパサになって食べにくかったがこれならいくらでも食べれそうだ!!」
そう言うと周りの野次馬たちも
「俺にもくれ!」「俺にも!」「俺にも」
「押すな押すな!! 順番に作っているからちょっと待ちやがれ!!」
マルロが吠えた。
(これなら明日からの営業も大丈夫そうだな)
「アリス、明日からの営業よろしく頼むぞ?」
「は、はい!」




