第1話 始まりの物語
俺はトラックに跳ねられた。
別に女の子を助けようとしたわけでもない。
ただ、俺が部活帰りに疲れてボーッと歩いていたら、赤信号を渡っていたのである。
注意力散漫になっていた、と言われたらそれまでである。
トラックに跳ねられた衝撃で体が宙を舞う。
(あー、俺の人生ここまでかー。せめてもう少し生きたかったな)
地面が近づく。そこで意識は途切れた。
(体が痛い)
……ん?
なんで思考ができるんだろう?
死んでいるならば思考すら出来ないはずだ。
そう思って恐る恐る目を開けてみる。
そこには、知らない木でできた温もりのある天井があった。
「あー俺、トラックに跳ねられてそのまま意識とんで病院にでも入院したのかな?。生きててよかったわ」
と考える。
とりあえず周りに誰もいないようだしここはナースコールかけて目覚めたことを伝えるべきだろうか、
と考えているうちにあることに気がつく。
自分の周りのものが異常にでかいのである。
明らかに現代ではない、古風な西洋風の部屋。
そもそも病室ではなく生活感が溢れる部屋にしか見えない。
あれだけの衝突をしたのだ。
集中治療室に入ってもおかしくないレベルだったと思う。
そして気づく、自分の手が赤子の用な小さい手であるということを。
「なんじゃこりゃあああ」
と叫んだ、というかそのはずであった。
しかし実際に口から発せられた音声は
「おぎゃあああああ」
としか発音できていなかった。普段自分がどのように声に出しているか無自覚であるぶん驚いた。
思ったように発音できない。
着ている服もおかしい。
もっとも、元に着ていた服はトラックとの衝突でボロボロになっているはずだろうが、、、
しかし今、着ている服はどう見てもベビー服である。
下半身に何か分厚いものを履いている感覚もある……
全てが謎である。
そしてその謎を矛盾なく解き明かすことができるとすれば
「異世界転生」
それは決して現実世界では起こりえないこと。
ファンタジーの本は何冊か読んだことあるがそれは空想上の話である。
俺の頭にはこの言葉が思い浮かんだ。
裏付けもなにもない。
ただ、自分が幼児化していることは確かである。
そしてここが現代でもないことも感覚として分かる。
地球でやり残してきたことだっていっぱいある。
親が悲しんでいないのか?
俺はこの先どうなる?
自分に対する答えの出ない質問しか思い浮かんでこない。
どうやったこの質問の答えを見つけだせばいいのか分からない。
そして急に悲しくなった。
どうやら赤ん坊である俺は感情の制御もできないらしく
感情のままに泣いた。
そして20秒ほどなき続けた頃、女の人が部屋に入ってきた。
「◎☓△△□◎○△」
何か言うと女の人は俺を抱き上げ、優しく包み込んだ。
不思議と今までの悲しい感情は無くなった。
人肌による温かさが久しぶりだったことだろうか。
いや、これは本能である、というのが理解できた。
子供が母の温もりに触れた時の安心感である、と。
しばらく母にあやされ続けた俺は泣き止み、またベッドに戻され思考を始めた。
そして決意した。
「今の現状を受け入れるしか無い」と。
どう考えても答えがでないならこの状況を生きるしかない。
(それなら、2度目の人生精一杯生きてやる! )
まず、大事なのは情報である。
これがなければどういう風に行動したらいいのかわからない。
□
昨日、俺が大泣きした時に駆けつけてくれた女の人とは別の女の子が部屋に入ってきた。
年齢はかなり若い風に見える。
恐らく高校生だった俺と同じぐらいの年齢ではないのだろうか。
まだ首が据わってないらしい俺は女の子のなすがままに抱き上げられ
寝ていたベッドのシーツを変えられていく。
そして一通り変えたあと、女の人の手がズボンに伸びてきて……
結論を言うと下着を変えられた。
それも転生前の俺と同じくらいの年齢の女の子に。
精神年齢的には17歳であるが、リアルの赤ちゃんプレイを体験するとは思わなかった。
恥ずかしさで顔が真っ赤になっていたのが分かった。
どうも仕草や服装からしてこの女の子はメイドさんらしい。
きちんと俺の寝ている部屋に入ったあとも礼をするし出て行く時も礼をする。
またメイド服も地球と同じような服であった。
(どうも、この家はメイドを雇うぐらいにはお金はあるらしい。せっかく転生したのだから貧乏よりはよっぽどいいか)
しばらくすると、転生初日に会った女の人が部屋にやってきた。
どうも雰囲気的に俺のお母さんなる人らしい。
ベッドを覗き込み、俺を抱き上げ満足そうに微笑んでいる。
そして、ひとしきり抱き終えて満足したのか部屋をでようとして……
一芝居うつことにした。
このままこの部屋にいても何も分からなさそうなので思いっきり泣いてこの部屋を出ようと試みた。
赤ん坊の体って泣こうと思えばすぐに泣けるんだな……
元の世界の女優からしたら死ぬほど羨ましいんではないだろうか。
思いっきり泣いてみると母さんは俺の方にもう一度やってきて抱き上げてくれた。
そのまま俺は重たい腕を上げてドアの方を指差してみた。
「○△△☓☓□○%&#%&&$?」
やはり言語は分からない。
どっかのファンタジー小説みたいに異世界にきたからといって都合よく言葉が話せるわけではないらしい。
母さんは不思議そうに俺の方を見つめて
そのまま俺を抱いて部屋の外に連れて行ってくれた。
「やったね! 初めての部屋の外!」
そしてそこには驚愕の光景が広がっていた。
メイドさんがいるからある程度はお金持ちの家だと思っていた。
めちゃくちゃ廊下が長いのだ。
部屋の数も数えきれないほどある。
お金持ちではなく、超お金持ちみたいだ。
そのまま廊下を少し歩くと階段が見つかった。
母さんに抱きかかえられたまま、下の階へと降りていく。
しばらくするとリビングの様なところにたどり着いた。
もちろんテレビとかは無いが、その代わりに大きな炉と綺麗なカーペット、そして様々な彫刻が置いてあった。
(うーん、この家相当な金持ちだなぁ……この時代の社会制度とか分からないけど昔の中世ヨーロッパみたいな雰囲気からしたら貴族みたいな家柄なのかな)
母さんにあやされながら部屋を見ていると、本棚があった。
(とりあえず、この世界の文字と言葉を覚えないとな)
本日2回目の芝居を打つことにした。
本の方に腕をあげ泣き喚いてやった。
もういい加減泣くことになれたもんね!
やけくそだ!
お母さんは不思議そうな顔をしつつ、本棚の方に近づいていってくれた。
そして適当な本をとり、本を読み始めてくれた。
まだ、文字も言葉も分からない赤ん坊に優しい顔して本を読んでくれた。
お母さんなる人に言うのも変な言葉だがいい人みたいだ。
その後、俺を寝かせるために戻ろうとした。
(ここで、本を自分の部屋に持っていければ好きなだけ読めて勉強になる)
そう考えた俺はもう一芝居うった。
ここは想像にお任せする。
そんなかんやで俺は自分の寝ているベッドに本を持ち込むことができたのであった。