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3.湯川春子

 今日は裕一の誕生日だ。付き合い始めてから初めての彼の誕生日。

 電車に揺られながら、自然と頬が緩んでしまう。

 プレゼントは彼の大好きな枕だ。業界最大手のメーカーが出した新製品。ちゃんと紙袋にもそのメーカーのロゴが入っている。

 電車の中は混雑している。なにしろラッシュアワーだ。仕方ない、我慢しよう。

 それでも、さっきから私の肩に頭を載せて眠っている隣人については我慢できない。よほど眠いのか、起きる気配もなく私の肩で眠っている。

 そうこうしているうちに、駅に着いた。忘れないように紙袋をしっかりと持つ。

 私は隣人の頭を静かに振りほどき、ドアに流れていく人の群れに混じって電車を降りた。

 

「裕一、はい、プレゼント!」

 紙袋から出てきたのは最新型の枕ではなく、なぜかレンガだった。

 私の満面の笑みはものの一秒で崩れてしまった。

 意味がわからない。枕はどこにいったのだろう。

 そして気付いた。紙袋のロゴが聞いたこともない会社のロゴにすりかわっていた。

 どこかで紙袋を間違えたんだ……。

 裕一の表情がみるみる凍っていった。

「は? 何コレ?」

「え……」

「なに? ふざけてんの?」

「ちが……、違うの! 私、裕一のためにちゃんと新しい枕を買ってきたの!」

「枕……? これが?」

 裕一はにこりともせずに私を睨みつけている。

 嘘だ。

 なんで枕じゃなくてレンガが出てくるのよ!

「わかったよ」

 裕一が、静かに立ち上がった。

「お前の気持ち、よくわかった」

「待って!」

「じゃあな、春子」

 裕一は立ち止まることなく、足早にカフェを出て行ってしまった。

「なんで……?」

 あまりにも唐突な出来事で、感情が追いつかない。

 力なく椅子にもたれかかって、呆然とレンガを見る。

 ふと、紙袋から数枚の紙が覗いているのに気付いた。

 どうしたらいいのかわからないまま、私はその紙に目を落とした。

『画期的な新企画。レンガという名の新たな枕!』

 ふざけてるのか。

 紙には、レンガを枕として売り出すための様々な文句が見栄え良く記されていた。

 なにが枕よ。ただのレンガじゃない。

 不意に涙が溢れ出す。

 あまりにも理不尽な破局。

 なんでこんなレンガなんかに、私の恋を邪魔されなくちゃならないのよ!

 裕一のことが好きだった。

 こんなに本気で誰かを好きになれたことなんてなかった。

 裕一に喜んでもらおうと、色々な枕から吟味して、友達に相談して、ようやく選んだ枕だったのに。

 涙が止まらない。嗚咽がもれてしまう。

 私は唐突に終わった恋を想い、ひたすら泣き続けた。


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