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2.柴田健二

 また駄目だった。

 俺は今日の面接で手応えをほとんど感じなかったことから、ヤケ酒をひとりであおっていた。

 これで二十社目。このままでは就職浪人だ。

 呑まなきゃやってられなかった。

 深夜。唐突に電話が鳴った。

「おい、ケン。すごい発見だ!」

 大学で同じゼミの敏彦だ。やたらと興奮している。

「いまからお前の家に行く」

 それだけ言って、唐突に電話を切られた。

 こちらの都合も考えずに勝手な奴だ。

 やがてウチにやってきた敏彦は俺の嫌味も受け流し、持ってきた紙袋を突きつけてきた。

 仕方なしに中身を覗いてみると、レンガがひとつだけ入っていた。

 意味が分からない。

「なんだこれ?」

「新しい枕だよ」

 敏彦はまくしたてるようにこのレンガの枕としての可能性を語り出した。

 同じく枕業界に就職しようとしている学生同士だ。枕議論には熱が入る。

 敏彦の熱意に当てられ、次第に俺もこのレンガに魅力を感じてきた。

「そんなに言うなら、試してみるか」

 ちょうど煮詰まっていたところだ。なにかの切っ掛けになるかもしれない。

 そしてレンガに頭を載せた瞬間、目が覚める心地を味わった。

 新感覚。いままで想像もしなかった、新しい枕の在り方だ。

「これは……すごい発見だな」

「ああ、そうだろう?」

 敏彦は嬉しそうに頷き、勢いに乗ってレンガについて語り出した。

「これを企業に提出したら、間違いなく採用されると思うんだ」

 敏彦は楽しそうに笑っていた。


 朝が来た。結局、敏彦はウチで酔いつぶれて寝てしまった。

 俺はひとり、部屋の中でレンガを見つめている。

 暗い衝動が湧き上がっている。

 このレンガは、停滞しつつある枕業界に一石を投じる可能性を秘めている。

 これを企業に持っていけば、どうなるのか?

 画期的な企画だ。間違いなく誰もが食いつく新案だろう。

 俺の将来を心配している両親の顔が思い浮かぶ。

 枕業界で働きたいという、その一念だけで俺は上京したんだ。

「悪いな、敏彦」

 敏彦は大口を開けて眠っている。

 こいつも枕業界への就職を目指して頑張って勉強している。

 しかしそんなことは関係ない。仲良しこよしで幸せになれるほど、人生は甘くないんだ。

 わざわざライバルに情報を提供するとは馬鹿な奴だ。

 俺はまだ面接を受けていない枕会社の住所を確認し、家を出る。

 紙袋を抱えて、俺は電車に乗った。


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