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悪役令嬢

悪役のその後

作者: 黒湖クロコ

 世の中には悪役令嬢に生まれ変わってしまったから、悪役令嬢sageなその最低糞エンドを回避するために頑張るお話がある。いや、あった。

 それは私の前世にあるWEB小説というものであり、私も読んだ口だ。大抵は生まれ変わって本編前に前世の事を思いだし、自分が不幸にならない為に修正する。うん。そして最後は主人公とも仲良くなって大円満。いいじゃないか。私も皆が幸せになる話は好きなのでそのストーリーは大好きだ。

 だがしかし、何で皆、本編前にそれを思出せるんだろう。


 屋上でしくしく泣きながら、私は日記にそんな疑問を書く。ええ。私、本編終了した後に記憶が戻りました的な、かなり後発タイプの転生者です。最悪です。自殺していいですか?

 駄目ですね。分かります。

 自分で自問自答しながら、今日あった悲しい出来事を日記に書き残す。


 そもそも私がどういうタイプの悪役令嬢かといえば、セレブ学校系の漫画の話の悪役令嬢だ。このストーリーの主人公は平凡な一般家庭に生まれた女の子、青空光あおぞらひかり。まあいわゆる、少女漫画のシンデレラストーリーで、主人公はこの学校のイケメンたちと仲良くなり、問題を打破していく。そんな明るい彼女の周りには徐々に人が集まり――な王道的な話だ。

 そして私はそんな彼女を妬む、片桐小夜かたぎりさよ。妬む理由は私の事が好きだった男子が青空さんの事を好きになったのが許せないという傲慢なものから。さらに、青空さんに絶賛片思い中の義理の母親の連れ子である片桐明かたぎりあきらも苛めてましたという最悪な事態だ。もう、どうしてそんなことしちゃったのと過去の私に得々と説教してやりたいが、あの時はあの時で、私も結構いっぱいいっぱいだったのだ。

 今までちやほやされていたのに、明が来てから突然されなくなって、明を嫌った子供時代。そして好きだった(現在過去形)の相手に素直になれなくて、気が付いたらそいつが青空さんを好きになっていて、青空さんを嫌った学生時代。まあ、ホレたハレた、愛の恋だのという学生につきものの感情に振り回され、最終的に馬鹿な行動に出てしまったのだ。そして好きだった相手は、見事に光とくっついた。ですよねー。私と光と性格を比べると、月と鼈。私の方がかなり根が性悪だ。

 おかげで、現在私の味方はゼロ。

 涙がちょちょ切れそうだけれど、これからも私はこの人生を歩まなくてはいけない。


 幸いなのは、どこかに転校したいと親に頼めば、海外に留学できてしまうぐらい金銭的家庭環境には恵まれている事か。また私自身結構ハイスペック脳みそをしていたので、勉強もできる。将来この学校の生徒が通わなさそうな大学への進学だって可能だ。

 ただし何事もタイミングというものも在るし、将来設計を考えて動かなくてはいけないというものもあるので、今はいじめに健気に耐え抜き頑張っている次第だ。

 今までの歴代のいじめられ方法を書いた日記を読み返しながら強く生きようと決意する。

 やってしまったものは仕方がないし、私は主人公に負けたのだ。勝てば官軍が世の常。負けたなら、潔くここを去るしかない。

「どこの学校に転向しようかしら」

 いっそ、セレブ学校を止めて、普通の公立の高校でもいいかもしれない。

 そうすれば、今後この学校の生徒とは顔を合わせずに済むし、別の人脈を作ることもできる。脳みそはハイスペックにできているし、容姿もそこそこ。運動神経も並よりは上なのだから、案外、それはそれでいい人生が歩めるかもしれない。


「姉さん、逃げる気なの?」

 ブツブツと自分の素晴らしいプランをつぶやいていると、声をかけられた。……出来たらしばらくというか、一生顔を合わせたくはない相手だ。しかし親が結婚して姉弟になってしまったので最低でも、私が親のすねをかじらなくてもすむようになるまでは付き合うしか仕方がない。

 全ての家督を渡し、できるだけ早急に消えるからできれば見逃して欲しいところだが、ねちっこく、何年もいじめてしまったので、中々水にもながせはしないだろう。のぞみの種は、性格の良い主人公の友人ポジに収まった弟なのだから、性格が私より多少はいいはず。

 なんとかお互い無干渉でいましょうというラインで決着をつけられないものか。

「ええ。私は負けたのだもの。仕方がないことだわ。これまでの事は、謝るから見逃してもらえないかしら? そうしたら金輪際、貴方にも、貴方の大切なお友達にも決して関わらないと誓うから。それとも、私にさらに惨めな思いをしろとでもいうの?」

 最低限の譲歩をもらうためには、私のことを関わるのも馬鹿馬鹿しい、馬鹿女だと思ってもらうのが一番だ。

 そうすれば、私的にギリギリ及第点で主人公を中心としたこの物語を終える事ができる。


「まさか。姉さんにはずっと輝いていてもらいたいと思っているさ。今だって、姉さんはとても敗者だと思えないぐらい強いじゃないか」

「学校中の生徒にのけものにされて、いじめられて、ここで涙を流しているというのに?」

 どう頑張っても敗者ではないか。

 わざわざ嫌味を言いたいだなんて、少々私がいじめすぎた所為で性格が歪んだのかもしれない。まあ、それも私が背負うべき業だろう。これまでの私が行ったことは非道だし、明が私を嫌うのは仕方のないことだと思う。

 ただ私は、今まで行ってきたことに対して、それが身勝手なものだとしても理由があって行ったのだから後悔はしない。この性格の悪さを含めて、これが私なのだから。

「靴に画鋲が入れられた時やゴミ箱にすてられた時は、監視カメラを独自に設置して犯人を割り出し、今後同じことをしたら刑事告発すると脅したじゃないか」

「あら? それは当然でしょう? 学校の中だって、日本の法治国家だもの。靴をゴミ箱に勝手に捨てるのは窃盗罪だし、画鋲だって傷害罪だわ。証拠があるのに、すぐに警察突き出さず、学校の顔を守っただけ私は節度ある行動をとったと思うのだけど」

 確かに私はいじめをした。

 だったら私を法で裁けばいいだけで、法に基づく事なく第三者に裁かれるのはおかしいではないか。私を刑事告発していいのは、主人公と明だけだ。断じて他の生徒は違う。

「全員に無視をされて移動教室の場所が分からなかった時も、教師にちゃんと掲示板に啓示するか、直接朝礼時に話すように詰め寄っていたよね。ちゃんとやらないと、マスコミにいじめがある事をリークすると言って」

「当たり前でしょう? 私のクラスでいじめが起こっているのは明らかだもの。ある程度の対策を取らないのは、職務怠慢。給料泥棒だわ。いじめは教師が何かをいったところでなんとかなるとも思えないけれど、最低限生徒の学業に不備が出ないようにするのが仕事だと思うけど?」

 教師が何か言って、なんとかなるとは思わない。だけど学業をするために通っているのだから、それを守るための工夫をするのは最低限の職務だと思う。

 

「シカトにはシカトを。何か暴行をされそうになったら、回避する。できなければ、された後にした相手を脅す。これでいじめられていると言ったら、世の中のいじめられている生徒が怒るんじゃないかな?」

「何故? 私は苦痛を感じているのだから、いじめには変わりないでしょうに」

 確かに、呪いの手紙をもらったから、大切に指紋を付けないように保管した上で、筆跡鑑定をして相手の弱みにしたのは少々やりすぎたかもしれないけれど。でも私の両親がお金持ちなのだから、指紋を調べたり、筆跡鑑定するぐらいは予想できたと思う。

 大体、青空さんや明ではなく、第三者が勝手にやっているのだ。私はその人たちに対して今まで何かをした事はないのだし、どうして素直にそんな無関係の相手から大人しく罰を受けなければならないのかという話だ。やったらやり返されるなんて当たり前の話。一方的にやられると思っていたのなら、それは想像力不足だ。

「ねえ。この辺りでそろそろ落としどころ見つけないか?」

「落としどころ? せめて今学期が終わるまではこの学校に残るわよ」

 こんな中途半端に終われない。一番いいのは、来年の春だけど、私の顔も見たくないというのならば、こちらもできる限りの融通はきかせるつもりだ。

「いいや。姉さんはこの学校に残って卒業しなくてはいけない。もしも姉さんの立場改善の為に、光と仲直りが必要ならば、僕が間に入るよ。光は性格がいいからね。姉さんが寂しかったんだってお涙頂戴の話をすれば、絶対許すはずだから」

「私は許される気はないわよ。したことに対しての責任を取らないつもりはないのだから。だから、明。貴方も私を許す必要はないの。ただ出来たら、お互い干渉しない関係にはなれないかしら? 家督は貴方に譲るし、私は現在この学校においていじめられるという罰は受けている。それとも、この顔に傷を1つぐらいつけなければ気が済まないかしら」

 許されたいわけではない。

 全ては起こってしまった事だから。でも私も永遠に謝り続ける関係なんて御免だ。だから、私がここから出ていく。その選択で、この学校も、私もようやく平穏になるはずだ。


「姉さんに消えない傷をつけるのはそそられるけれど、何か勘違いをしているみたいだね。そもそも僕は姉さんを怨んでなんかいないよ? 僕としては、姉さんがあんな不づりあいな男に恋心を抱くなんて絶対嫌だから、光に協力をしただけ。立ち位置は昔からずっと変わっていない」

「は?」

「僕は、最初からずっと姉さんの味方だってことさ」

 ……駄目だ。私の弟ながら何を言っているのかさっぱり分からない。

「明って、もしかしてマゾなのかしら? 苛めた私を恨んでないだなんて」

「僕もそうなのかなと思ったけれど、姉さんの涙を見たら、もっと泣かせたい気分になったから違うのかも」

 泣かせたいは、マゾの考え方ではないわね。どちらかというとサディストかしら?歪んでる事には変わりないけれど。

「ただ泣き顔だけではなくて、かわいい笑顔も、怒ったセクシーな顔も、どれもずっと眺めていたいかな」

「私が貴方につらく当たってきた事に対して、どうしてそういう考え方になるのか、まったくもって理解しがたいわ」

 これはこの後、私が明にほだされたぐらいで、実は嘘でしたと言って追い詰める作戦だろうか。漫画の弟は、姉の事は嫌いでも、結構性格がいいような描写になっていたのに、実際話してみないと歪みというものは分からないものだ。

「出会った時に僕は姉さんに一目惚れしたからね。その後も姉さんの強さに引かれた。意地悪する時も必ず自分の手しか汚さない姉さんに」 

「私がいじめてるのだから自分の手で行うのは当たり前だわ」

 自分がしたことに対してなら自分で責任が持てるから。第三者にしゃしゃりでられるのは嫌いだ。にしても嫌がらせをされて私に引かれたとしたら、本当に歪んでいる。まあ、どうせ嘘でしょうけど。

「明は青空さんの事が好きだと思ったのだけど? もしも私を使って焼きもちをやかせたいなら、別の子に頼むのね。私はあなたに逆らえないけれど、だからこそ説得力というものがないわ」

「ふーん。逆らわないというなら、僕と付き合ってよ、小夜」

「私のプライドをズタズタにしなければ気がすまないの? 本当に青空さんに嫌われるわよ」

 小さい男だなんていたら、流石に逆鱗に触れるかと思い、言葉は慎重に選ぶ。青空さんの名前を出せば、少しは妥協も見いだせるだろう。


 すると、明は私の手を掴んで壁に私を押し付けた。どうやら、私は見えない逆鱗に触れたらしい。

「ねえ。僕は光の話なんてしていないんだけど。もう一度言うけれど、そろそろこの辺りで落としどころを決めて、僕で妥協してよ」

「妥協でいいなんて、変わってるわね。何を企んでいるの?」

「小夜を手に入れる方法。小夜は、ずっと僕の中で一番のお姫様なんだから」

 本当に何をたくらんでいるのかしら。性格の悪さというものは、どうやら遺伝ではなく、生活環境も大きく関係してそうだ。

「とにかく逃げないで。僕は小夜が逃げるのだけは許さない」

「分かったわ。そこまで言うなら、私は、ここで敗北者として生き抜くわ」

 それが私の罪を償う方法だというならば。私は決して逃げずに償おう。それが私なのだから。例え前世の記憶が戻ったとしても、自分の生き方を変える事なんて無理だ。

 そして物語が終わったからと言って、めでたしめでたしでは終われない。まだまだ私の人生は終われないのだから。

「ただ、私に寝首をかかれない事ね」

「小夜にかかれるならいいかな」

 結構長年一緒に過ごしたはずなのだけど、さっぱりこの弟の考えが分からないわ。でもそうくるなら受けて立とうじゃないの。

 私はこれから始まる、第二戦を思い、ため息の変わりに力強く笑った。

 これは前世の私ではなく、今の私の戦いなのだから。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がたくましい所が良いですね、筆跡鑑定とか刑事告発とか。
[一言]  新作よんで、小夜ちゃんのツンぶりにきゃぁ、としてしまい、ついこちらも返し読み、 御令嬢、あらためて良いキャラしていますね! 弟君のゆがみは、まぁさすが、な感じですがw  でも、いじめられて…
[良い点] 面白かったです! 立ち位置が変わっていく続きも読みたいです~v
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