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第四章 (4)

 お待たせしました。やっと第四章が終わります。


 艦内の態勢も整って来ました。まだ少し見えてないところもありますが、主だった人物はほぼ出揃ったかと…。


自 2011年5月26日

至 2011年5月27日


一部追加 2012年3月26日

 敵を振り切ったので、また少し息をつく時間ができた。技術部を除く各部署は反省会を兼ねたミーティングに入っている。技術部だけは艦載機の修理やあちこちの破損箇所の補修、先の戦闘データの分析と駆けずり回っており、まだ当分休めそうになかった。


 格納庫では戦闘機隊が今まさにミーティング中だ。場を取り仕切っているのはリチャードである。多分、現在ここにいるメンバーの中で一番実戦経験のある彼だからこそ、さっきの激しいドッグファイトの最中でも、他メンバーの動きをモニタリングしており、各自にアドバイスができるのだ。

「バーディ隊長、流石にエリナが腕を保証するだけあって、いい動きをしていたぜ。実戦が初めてとはとても思えないぐらいだ。ただ、お前は一応曲がりなりにも隊長だ。自分が突っ込むだけじゃなく、チームの人間をもっとうまく使いこなせる様にならないとな」

「はい、わかりました」

 素直にうなずく。立場上はバーディは隊長としてリチャードの上官にあたるわけだが、軍人としても、実戦経験上も、リチャードの方が上だということはわかっている。他の隊員にしてもバーディが隊長ということに異論はないが、――実際、操船の技術はかなりのものなのだ――リチャードの戦術面でのサポートが不可欠だとも思っているので、こういうアドバイスも素直に受け入れる。口調はぞんざいだが、それはバーディが望んだもので、最初はちゃんと上官用にていねいに言っていたのだ。

「それからお前ら」

 ダイナースのメンバーの方を振り向く。

「スピードは申し分ないが、あれじゃ照準が合わねえぞ。スピードは照準が合わせられる様になるまで少し落とせ! エネルギーの無駄使いだ」

 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、なんて悠長なことを言っている余裕はない。一発必中の覚悟でないと困る。

 全員にというわけではないが、こうして気になるところをいくつか指摘したあと、隅にあったホワイトボードを持ち出し、チーム戦略についてレクチャーを始めた。古くさい様に見えるが、ホワイトボードや黒板などはエネルギーを必要としないという利点があるのだ。当然のことながら、紙のメモなども今でも非常に良く使われている。長期間にわたる宇宙空間の移動中は、どこでもエネルギーを補給できるわけではないのだから…。


 機関部ではエドナーがデュオと出力値のチェックを行っていた。例の30%増の状況は未だに改善されておらず、現在は30%増に合わせたシステムの方を採用している。まあ原因は掴めないものの、出力値は安定しているのでこんな芸当ができるわけだが、原因がわからないという事は、いつ出力値が正常値に戻ってしまうかわからないという事でもあり、始末に負えない。

 まあ何にしてもこの船の全エネルギーは機関の出力いかんに関わっているわけで、戦闘の有無に拘わらず、常に動いているので、点検やチェックなどのタイミングも中々難しかったりするのだ。データのチェックは今後も継続することと当直の確認を済ませ、メンバーは解散した。エドナーはエリナに通信を入れ、チェック済みのデータを転送する。データの分析はエリナ達技術部の仕事だ。元々はエドナーやデュオのやっていた仕事だが、二人は今は運用の方に移っていて、そんな作業をしている余裕はないのである。


 砲術部門はミーティングルームに集まっている。先程の戦闘を見る限り、命中率は悪くない。皆それなりの射撃の腕はある様だ。敵艦載機を狙う時にやや照準が外れがちだったが、ロッドやモリなどはそもそも戦闘機を標的〈ターゲット〉にしたことなどない。相手の動きについていけなくても仕方がないだろうし、元からの砲術士にしても、これは向こうのパイロットを誉めるべきであろう。

 それに動体視力には個人差がある。全員に同じレベルを要求するのはそもそも無理だ。この艦の砲の操作性に慣れてくればもう少しうまく行くようになるだろう。何よりこの船の各機能には学習システムが組み込まれている。長く使えば使う程、操作性は増す筈なのだ。

 あと問題があるとしたら出力のエネルギー値の問題であろう。副砲はともかく、主砲のエネルギービームの最大出力値は機関動力からどれだけのエネルギーを振り分けられるかにかかっている。この点に関しては機関部門と操船部門とで綿密な打ち合わせをしておかねばなるまい。どういう状況でどこにどう割り振るかは予め決めておける様なものではないだろうが、――何といっても戦闘のすべてのパターンを想定するなんて所詮無理な話である――ある程度のパターンを決めておかないと臨機応変な対応すらできなくなってしまう。


 通信室では通信部門がミーティング中だ。まあ戦闘中はあまり彼らの活躍する場面はないわけだが、各チーム内のやりとりはともかく、チームどうしや外部への救援の連絡等、情報の流れは確認しておく必要があるし、いつどこからどういう情報が入ってくるかわからないから、当直についても明確にしておかねばならない。

 レーダー部門も作業的には通信部門と大して変わらない。相手が目視できる状態であれば――つまりは戦闘中だな――当然のことながらレーダーは必要ない。むしろ今のようにどこから敵が来るのかわからない時の方がやるべきことはある。というわけで当直を決め、こちらも早々に解散した。


 技術部は相変わらず作業に追われてミーティングどころではない。艦載機の修理と整備はデビーが出張って、それこそバーディまでこき使って(――お前なー、兄貴をこき使う奴がどこにある。俺は慣れない戦闘で疲れてんだよっ――の抗議の声をものともせず)終わらせていたが、データ分析の方はまだ完了していない。各部門からもデータは上がって来ていたが、修理と整備を優先したためそっちはほとんど手つかずなのだ。

 まだ未完のシステムの状況も確認しなければならないし、既に稼働している学習システムについてもチェックは必要である。こっちはマックを筆頭とした研究所メンバーがメインコンピュータールームでかかり切りで作業中である。

 とにかく仕事量に対して動ける人員が圧倒的に少ないのだ。例えばデータ分析に関して言えば、サブブリッジにいるデビー、カムリ、ロフスの三人しかいない。時折エリナが顔を出してはものすごいスピードでデータを整理して行くので、何とか三人でやりくりできている様なものだ。

 メインコンピュータールームにはマック以下六人のメンバーがいるが、学習システムのチェックを二人が担当しているので、システムの開発の方は四人しかいない。稼働しているシステムのチェックと新しいシステムのテスト、バグつぶしなど、時間も手間もかかる作業だらけなのだ。こちらもエリナがひょこっと顔を出しては、バグを指摘したり、プログラムを手直ししたりしてくれて、その度に作業効率は上がるのだが、それでも手が足りないことは否定できない。

 そしてそれらとは別にエリナ自身、何やら研究テーマを抱えているらしかった。というわけで、例によって例のごとくエリナはメイン、サブのブリッジを渡り歩き、研究室にいたかと思うと、今度はメインコンピュータールームで見かけるという、まさに神出鬼没の状態を続けていた。

 忙しいのは事実だろうが、あそこまでパタパタしている理由の一つに父の死を忘れたいという思いがあるのだろうと姉弟たちは思っている。

「ちょい待ち、エリナ」

 目の前をパタパタと通り過ぎようとしたエリナにカールが声を掛けた。

「何? 今、忙しいんだけど…」

「お前、ちょっと根を詰めすぎだ。少しは休めっ!」

「でも本当にやることがいっぱいで…」

「お前が休まんと下のもんは休めんだろうがっ! 回りのことも考えろ」

「う…」

 言葉に詰まる。確かにその通りだ。上司たる者、部下のことも考えてやらねば…。

「判ったわ。メインブリッジから指示を出すわ」

 とことこと速度を落として歩き始めたエリナの後をカールもついていく。ちゃんと指示を出すか、その目で確認するつもりなのだろう。指示を出したあと二人は連れ立って食堂へ向かう。


「アル、コーヒー二人分お願い」

 カウンターへ寄って声を掛ける。『カマルの牙』でバーテンをやっていたアル・パーツは、現在食堂で主任を引き受けている。自身が作るのはもっぱら飲み物系だが、調理の方の統括もしている。

「もしかして、忘れようとか思っているのか?」

 席に着くなり、カールにそう問われてエリナは首を振る。

「まさか、そんなこと考えていないわ」

「まあ…、だろうな」

 忘れられる訳はないし、忘れる気もない。その思いをカールも良く承知している。

「まだシステム自体完成はしていない訳だしさ」

「忙しいのはわかるが、この先またいつ攻撃されるかわからん。休める時に休むのも必要な事だぞ」

「次の攻撃の前にシステムを完成させたいじゃない。休める時じゃないのよ」

「そう言って、結局、いつも休めなくなっちまうんじゃねえのか?」

「そんなこと…」

「ないって言えるか?」

 言える訳がない。研究に没頭してしまうと周りが見えなくなってしまう自身の性質〈たち〉は、一応自覚はしている。自覚はしているが、制御〈コントロール〉はできない。つまりはそこが問題なのだ。カールもそれが判っているから、エリナを引き止めて、休みをとらせようとしているのだろう。

「お前さ、この船にいる間は軍人として振舞えよ」

「どういうこと?」

「お前が総司令部からこの船に指示を出していた場面、見てたぜ。軍人としてならあれだけ的確な指示が出せるんだ。研究者としてではなく、軍人としてなら自分を律せるだろ?」

 確かにそれはそうかも知れない。実戦の場で我を忘れて没頭したことは一度もない。

「頭を切り替えろってことね」

「そういうことだ」

「そうね、やってみるわ」

 カールのこの助言はまさに的を得ていた。実際エリナはこの後、この物語が終わるまで、暴走することは無くなったのだ。


 第五章の冒頭であと少し登場人物は増えますが、それでファルコンの主要人物が出揃います。


 第五章では登場人物たちの様子を織り交ぜながら、安全地帯を目指すファルコンを描きます。


 たくさん過ぎて少し手間取るかも知れませんが、この後まずは登場人物紹介を投稿します。第五章はそれからになります。


入力 2012年7月12日

校正 2012年9月16日


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