三章 偶然は君色
生命維持装置が、今の岳の命をつないでいた。
医者は言うのだ。
この子が今生きているのが、不思議なくらいだと。
普通なら即死をしていてもおかしくないほどの状態だったと。
もう、この子が目覚めることはないかもしれない、と……。
岳の身を包むのは、白い包帯とガーゼばかりだった。
素肌が露となっている部分のほうが、断然少ない。
頭の先から足の先まで。
ほとんどが包帯に覆われていて。
重苦しい生命維持装置が、そんな岳につながっていた。
岳は身動き一つ、とることもない。
頭部強打。
打撲。
切り傷。
骨折。
そして、内臓破裂。
意識不明で、回復の見込みなし。
岳に下された診察結果は、残酷なものだった。
無機質な音が、岳を包み込んでいた。
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妙に身体がだるかった。
重苦しいというよりも痛いというよりも、むしろ億劫というか。
徒広い闇が視界を包み込んでいて、意識はあるけど感覚は鈍くて。
風邪をひいた時と、どこか似ていた。
微かににおいう消毒液の香りだとか。
冴えていないのに大きく聞こえる周囲の音だとか。
動かしたくても動かない身体だとか。
そういうのがどことなく似ていた。
瞼も重いし、何もやりたくはなかった。
……もう一度寝よう。
まだ寝ていてもいいはずだ。
そうだよ。
もう一度、寝よう。
大きく心地良い音に包まれながら。
意識が深い闇の中に持っていかれるのを、岳は感じていた。




