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章幕 消え去った記憶の中


「ふふふふ……」

 時は夕と夜の狭間。

 天空は見渡すかぎり、夕の茜と夜のダークブルーとが混ざり合いぶちまけられている。

 そこは不気味な空気に包み込まれていた。

「ふふふっ……ふふふふ…………」

 遠く聞こえるは、不気味な微笑。

 風に乗っては夜色をした羽が、軽やかに宙を舞っていた。

 はらりはらりと、地に近づいていって。

 ……と。

 突如、爆音がいたる所で巻き起こったのだ。

 鼓膜を突き破り、直接脳髄に響いてくるほどの爆音が。

 街全体を煽った。

 不気味な空は、大量の黒煙に覆い尽くされた。

 人々は押し合い引き合い、転びそうになりながらも。

 一目散に郊外へと逃げようとする。

 どこかで子供の泣き声がした。

 刹那、街の中央に高々と聳え立っていた時計台が、姿を消したのだ。

 地が割れるようで、しかし脆くも儚い音をたてながら。

 粉塵を巻き上げて消えていった。

 下にいた幾人もの人が、哀れにも潰される。

 悲鳴がさらに響き渡った。

「あははははははは――――!!」

 もんもんと立ち込める粉塵。

 辺りは薄茶に染め上げられ、他には何も見えなかった。

 崩れ去った時計台の粉塵が徐々に晴れていく。

 薄ぼんやりと見える、時計台だったモノ。

 その脇にある建物の屋上には、高々と笑い声をあげる影があった。

 陰には、巨大な双翼が付いている。

 ――天使。

 脳裏によぎるは、美しい単語モノ

 しかしそれとは相反する存在。

 異なる風貌。

 ――堕天使。

 街はさらに破壊されていく。

 破壊音は天を裂き、爆風は空を押し上げた。

 逃げ惑う人々は枯葉のように容易く飛ばされていく。

 堕天使はその光景を、爛々と好奇心に満たされた双眸で見ていた。

 だがその顔に浮かんでいるのは、氷のごとく冷酷な微笑。

 堕天使は鼻で一つ、笑った。

「この期に及んでなお逃げ惑うとは、何と愚かな奴等だ。……このアレクトスが来たからには、助からないと知っておいてなあ」

 一歩足を踏み出すと、アレクトスは建物から飛び降りた。

 漆黒の羽が舞い散る中、ストンと軽い音をたてて着地する。

 湧き上がる数多の悲鳴。

 空気が震えた。

 逃げ惑う街の人々。

 あまりの恐怖に腰を抜かした者とアレクトスとの視線が、皮肉にも合ってしまった。

 アレクトスはその者に向かって、口の端をゆっくりと、上げた。

「今までの小細工にはけりをつけてやる。――さあ見るがいい。この街にとっての、最後の晩餐をな」

 彼は両の手を大仰に広げ。

 その歌声は、どこまでも響き渡っていった。




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