2 Water named tears (涙という名の水)
「う…」
瓦礫の山から声がした。そちらに振り向くと、そこには傷だらけで血まみれの老人がいた。
おぼつかない足取りでこちらへ向かってきていた。
「マスター…」
彼女は目を見開き、老人に駆け寄った。この老人が、彼女等人造人間の生みの親だった。
マスターは、有名な科学者で、タイムマシーンという空想の中だった機械を作り出した人物だ。
そんなマスターの最新の作品が人造人間達だった。マスターは温厚なできた人間だった。
初対面の人でも、この人は優しいと感じる雰囲気をもっていた。
笑顔をたやさなかった。そして今も、傷だらけのマスターは、彼女にむかって笑いかけていた。
「すまないね。君とは初対面なのにこんな見苦しい姿で」
そう言って、マスターは苦しそうな顔をみせずにこりと笑んだ。
それは、愛する者に向ける優しい眼差しだった。
「で、でもマスター傷痛くないの?」
彼女は子供のように、心配そうに聞いた。
「ああ、心配ない。お前たちが幸せなら私も幸せだからさ」
当然、というような口調で言う。
マスターは優しく彼女を抱きしめた。
彼女は、初めて触れた人の肌のぬくもりに、なんとも言えない心地よさを感じた。
「お前の名は、エラ・・・私の、最後の娘だよ」
マスターは顔をあげて笑うと、目を閉じて穏やかな顔で、眠るように息を引き取った。
「マス、ター…?」
彼女──エラは、肌が冷たくなっていくのを感じた
おかしい、マスターがおかしい。
「マスター……おきてよ…………私まだ何もしてない」
「ぎゅってしてよ…・・・?マスター!」
エラはマスターを抱きしめた。
「あれ。」
エラの目には、一筋の雫がつたっていた。
「何これ、目から水がでてくる」
エラはパニックに陥った。
これまでの98の個体で涙を流した人造人間はいない。
つまりエラにはこれがなんなのか、どうしてなのか、理解の外だった。