10 Darkness-colored capriccio (暗黒色の狂想曲)
「夜を照らす、月の光は、」
レンは唱えつつ、自分の腰の得物に手をかける。
スッと音も無く抜かれたそれは、柄も刃も、黒一色だった。
漆黒の刀の名は、鬼黒。
レンは右手に持った鬼黒を、自分の目の前にかまえた。
「太陽に焦がれて闇を統べる」
そう唱えた刹那、レンの暗い紫の瞳から鈍く、怪しい光がこぼれた。
その光は、鬼黒の刀身に淡い、紫の光が灯った。
「惑え、月夜の闇に──・・・」
その言葉に反応するかの様に、鬼黒から黒い煙の様なものが──。
シャラ・・・シャラ。金属音が聞こえる。
シャンッ、そんな音がして──、いや。
音と同じくらいのはやさで、刃が黒煙の立ち込める空を、真っ二つに斬った。
斬ったのは、レンだった。一般的な長さだった鬼黒は、
身の丈程もある長剣に。そしてその柄からは、黒い黒い鎖が付いていた。
鬼黒の刀身は、淡い紫に怪しく光る。
それだけで幻想的な何かを思わせる。
、
ガチャリ、ガチャリ。
先ほどまで何もしていなかったフィオナが、行動を起こした。
彼女のまとうロングコートの中から、一丁、二丁、・・拳銃が現れる。
「黒を好む影の支配者は、」
鋼色が影に映える。
「白を妬み、拒絶する───」
彼女が構えていた、一般的な銃は黒い影で覆われ・・・
その姿を鋼色から、影の様な漆黒になっていた。
フィオナとレンは、背中を預けるように、
背中合わせに立った。
「フィオナ、行くぜ?」
レンは少しだけ口角をあげ、言った。
「ああ、」
フィオナは少しの間、目を閉じた。
カッと開くと、銃をクルルルルと回転させる。
チャキッという音と同時に止まったかと思うと、
素早く連射した。
彼女の銃からは、音は発されない。
たった数秒の間に膨大な量の弾が発射される。
その弾は、レンとフィオナを中心にして、
円をかくように飛んでいく。
「黒雨」
弾が弾けて、中から黒いものが染み出す。
コップの中の水が零れたかの様にその空に黒い染みが出来ていく。
何処までも黒く、一切の光を受け付けないその黒を、闇という。
そして闇は恐ろしいスピードで空気を侵食し、
その場を覆った。
これがフィオナの黒雨の正体である。
「おいおいお前ら!大物の相手すんのは俺だ!取んなよぉ」
先ほどまで暴れていた不死鳥が駄々をこねる。
「お前はさっきまで暴れてたろ阿呆鳥。」
「阿呆鳥にばかり仕事をさせてたまるか」
二人して、モコロを阿呆鳥と挑発する。
「阿呆鳥って言うんじゃねえ!!」
レン達に阿呆鳥と言われるモコロを、
哀れだなぁ、と見つめるエラ。
阿呆らし。と呆れ顔でため息をついているイリヤ。
賑やかだなぁと一人のんきなのはココ。
「おい、エラ。」
レンは周囲をじっと見回しながら言った。
「・・・やってますー」
エラは、黒雨によって範囲が狭まった空を、念入りに感じ取る。
「この外には出してねェ、いる筈だ」
「・・・・・・・・・・・そこっ!」
とっさに風で小さな刃をつくり、シュンッと飛ばす。
ギギギギと人間ではないものの小さな悲鳴が聞こえた。
スッと今迄姿がなかった場所に、小さな精霊が現れた。
人間で言う右肩の位置に風の刃が刺さっているのがわかる。
そこからは、黒い血のような液体がしたたる。
シャララ・・金属音がしたと思うと、ウェンディゴを縛るように、
鎖が巻きついた。
「捕獲・・・!」
レンが刀を投げるようにかまえ、
「くたばれ」
ウェンディゴにむけて、投げるように突き刺した。
グギャアアアア!と奇声をあげて、ウェンディゴは、
黒い灰の様なものになって、消えた。
パリン、とガラスが割れるように、黒雨で出来た闇の壁が消えた。
+
「ふーん?なかなかやるみたいだねぇ、人造人間も」
そう言って、クスクスと笑うのは
ショートカットの燃えるような朱の髪の女。
「私だって人造人間よ?」
赤い髪がドリル状に巻いた髪を揺らし、もう1人の女は答える。
「姉貴、ルジェ。・・あんまデカい声で喋ってっとバレんぞ?」
先ほどの女と同じ、朱色の髪で、クセがある。
背丈や、声からして男だとわかる。
「・・・リン、あなたは心配性すぎよ」
ルジェと呼ばれた、女は「ねぇ、サラ」と付け足す。
「そうね。・・・ま、それがリンのいい所なのかあたしには分からないけど」
サラと呼ばれた、朱の髪の女は答えた。
彼女等は、ひっそりと見ていたのだ。
エラ達が精霊を滅却す所を────。