9 A traveler. (旅行者。)
空気の震えが風を通して自分に伝わってくる。
エラは風による感知で、ウェンディゴを探した。
ウェンディゴ。
旅人の精霊で、姿と気配を消すことを得意とする。
その為、背後を取られたら一撃でやられてしまうことも少なくはない。
エラは、そのためにウェンディゴを探していた。
「・・・・・・・空気の震えが弱い・・・・・・・・・・ッッッ!!!」
エラは目を見開きココの方へと振り向いた。
そして、ココを指差し、素早く唱える。
「斬空!」
フッと小さめの、人型の精霊が突如姿を見せた。
とんがり帽子を深くかぶり、服のような黒い布を身にまとっていた。
ギラ。精霊──ウェンディゴの懐から刃物が取り出される。
そして、ココの背中に振り下ろされる・・・・。
そこまでの動作は、瞬きひとつのはやさで繰り出す。
強い。
・・
明らかに、今先ほどまでモコロが相手をしていた雑魚より
圧倒的な強さを誇っていた。
そして、
討伐レベルが30以上の精霊が現れるのは稀なのだ。
それも、レベル40にもなるようなものは、本当に稀で──・・・
「っや、」
ココが気付き、小さく悲鳴をあげた。
その時もう、ココの背中と刃物の距離は数ミリ程度だった。
キィィン。突如聞こえる金属音。
ウェンディゴの刃と、ココの背中すれすれの場所で、
ウェンディゴの刃が止まった。
目に見えない、風の防御壁。
その風は荒い風。触れれば刃物に触れたかの様に、斬れる。
空に一枚の、見えない盾を作り出す。
これがエラの斬空である。
「!!!」
ウェンディゴは一瞬、本当にほんの、一瞬だけ驚いた様に身体を強張らせた・
が───。
また空と同化するように、霧のように消えてしまう。
「いちいち消えて、面倒臭ェな。・・・・・・フィオナ。」
レンがちら、とフィオナに目をやった。
「・・・・・わかった。」
察したのか、フィオナは銃を取り出し、かまえる。
二人はニヤ、と怪しげな笑みを浮かべた。
+
ここで、人造人間達の特殊能力について、詳しく知る必要がある。
まず、人造人間達は、人間が血をつくるのと同じく、
何気なく力を生み出している。
あくまで人間の肉体であるため、生み出した全てを蓄積することは不可能だ。
このため、生み出した力の全てを蓄積できるモコロは優位な訳だ。
力の蓄積が、限界に近くなれば戦い、力を放出する。
これが人造人間の特殊能力のシステムだ。
・・・・実を言うと、限界を超えても、少しなら蓄積することができる。
否、蓄積され続ける。
人が自分で、血をつくるのを止められないように、
また人造人間達は能力をつくるのを止められないのだ。
そして蓄積されるのも、またプログラミングされたものであり、
止めることは不可能なのだ。
そして、たまり続けた力はしだいに増幅し、膨張していく。
最期には、人の形を保てなくなり・・・・・死に至る。
まあ、基本的平等に精霊討伐に狩りだされるため、
力が暴走するなんてことは、過去にも一度たりとも無いのだが・・・
この力は、
人造人間の力であると同時に、命を縛る鎖でもある。
それだけは理解しなければならない。




