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三話

「祈りを貴方に、手紙を君に」の二章になります。



なんでここに?


それが家に帰ってきた俺がリビングで千春と一緒にいる香織を見て、最初に思ったことだった。


まさかコンビニに出かけている間に人が来てるなんて思いもせず、しかもそれがついさっきまで会いに行こうかと考えていた相手だったため、なおさら驚いた。


だけど、それ以上に驚いたのは、


「お前……俺のこと分かるの?」


「け、佳祐だよ……ね?」


香織が俺のことを認識できていることだった。


お互い、何から話せばいいのかわからずに困惑する。


何か一言。喉元まで言葉は出かかっているのに、その一言が出てこない。


何か、何でもいいから何か。


お互いその場に固まった状態で、ようやく出た言葉は俺のものだった。


「き、綺麗になったな」


言ってから、しまったと後悔する。確かに会話のきっかけになる一言が欲しかったが、これは予想外だ。つい思ってたことを口にしてしまった。


俺の言葉を聞いた香織は思考停止していた。そしてようやく言われたことの意味を理解したのか、納得したような表情を浮かべた。


「やっぱり兄妹なんだなぁ」


香織は苦笑しながら呟いた。


その言葉の意味がわからず、俺は香織に尋ねた。


「なんのこと?」


「……なんでもないよ」


答えをはぐらかし、香織はその場に立ち上がる。そしてゆっくり俺に近づいてきた。俺の目の前まで来た香織はそのままじっと俺の顔を見つめてきた。


「な、なんだよ?」


俺の顔を覗き見る香織の顔があまりにも近かったため、問いかける際に声が少し裏返ってしまった。からかわれるかなと思ったが、香織はそんなことは眼中にないというかのごとく俺を見てさらには体を触ってきた。


「おい、お前なにしてんだ?」


返事をしない香織。あまりにもベタベタと触ってきたので、さすがに少し鬱陶しくなり、体に触れる手を退けようかと考えていると、俺が退ける前に香織は触れている手を離した。


「うん。佳祐だ」


「いや、だからさっきから俺だっていってるだろ」


「それは最初からわかってたってば。そうじゃなくて……ちゃんと生きてる佳祐だってこと」


そこまで聞いて俺はようやく香織が何を言いたかったのか理解した。


そうだった。俺死んでたんだ。そりゃあ説明も何もしないでいきなり現われられたら本物かどうか確かめたくなるわな。


「こういった時になんて言ったらいいかわからんが……とりあえず、ただいま」


「もう、なによそれ。意味が……わからないよ」


それまで平然としていた香織が突然俺の服の胸元を掴んだ。見ると、目元に今にも零れそうな大粒の涙を溜めている。声は若干かすれ声になっていて、心なしか肩が震えている。


まて、まてまてまて。マズいって! このままだとこいつ泣く!! というよりこの状況は昨日の千春と一緒だ。


俺は今にも泣き出しそうな香織を見つつ、奥にいる千春にSOSを送る。しかしSOSを受け取った千春は気まずそうにしながら俺から視線を外した。


「あ~うん。ごめん、お兄ちゃん。さすがに私ここで空気読めないことはしたくない」


千春へ送ったSOSはよくわからない返事によって却下された。


そして、遂に目の前にいる香織の我慢も限界を迎えた。


「うぅぅ。け、けいすけ~」


ポロポロと瞳から涙をこぼす香織。顔を俺の胸元に埋めて泣きじゃくる。それこそ子供のように。


「バカバカ。なんで……死んじゃったのよ。ずっと……待ってたんだよ? ……バカぁ」


俺の胸を何度も叩きながら、今まで心の奥底に溜まっていたものを吐き出すかのように香織は俺への文句を言いながら泣いていた。


……あぁ。俺って、こいつにこんな悲しい思いをさせるようなことをしちゃったんだな。


それはきっと香織だけじゃなくて、千春や母さん、父さん。それに俺と親しくしてたやつらをこんな気持ちにさせちまったのか。


そう思った瞬間、無意識に香織を抱きしめていた。


「ごめん、ごめんな香織」


「けいすけぇ。けいすけぇ~」


抱きしめられた香織はさっきよりも更に強く俺にしがみついた。


「そんなに強く掴まなくっても大丈夫だって。ちゃんといるだろ?」


「……うん。うん。あったかい」


「まったく。あんま泣くなって。美人が台無しだぞ」


「むりだよ。それに、けいすけの前なら私美人じゃなくてもいいよ」


うわぁ。ヤバイって。今のこいつ自分がなに言ってるかわかってないだろ。


香織へのいとおしさから、理性が飛びそうになる。今にもキスしそうだ。それを必死に抑えて、香織を落ち着かせる。


「もうそろそろ大丈夫か?」


呼吸も落ち着き、俺の服に染みていく涙も止まった。もう落ち着いただろうと考えて、香織を少し引き剥がす。


「……うん」


真っ赤に充血した目を擦りながら香織は少しだけ俺から離れた。それでも、片手はまだ俺の胸元を掴んでいる。


「ちゃんと俺がいるって確認できた?」


「……うん」


「じゃあ、ひとまず話し合いするために座るか」


香織を連れて千春のいるこたつに行こうとするが香織はその場から動かない。


「香織?」


「佳祐、ごめん。私もう我慢できない。キス……して」


…………えっ!?


「キス?」


「そうだよ、キス。……してくれる?」


そう言って香織は潤んだ瞳で俺を見つめ、俺がキスをするのを待っている。


俺は奥にいる千春をちらりと見た。千春はこの光景に照れているのか顔を赤くして、こっちをチラチラ見ては視線をそらしている。


千春のやつがいると、面倒だな。


千春のことだ、ここで俺がキスをしなければヘタレと罵り、したらしたで叫び喚く。どっちにしても面倒なことになる。


しょうがない、こうなったら……。


「香織、俺の部屋行くぞ」


香織の返事も待たず、少々強引に手を引いて部屋に向かう。千春のやつが追いかけてきたが、追いつかれる前に二人で部屋に入り、鍵を閉めた。


「とりあえず、ベッドに座れよ」


香織は黙って頷きベッドに腰掛ける。そしてそのまま目を閉じて俺を待つ体制になった。


心臓がやたらドキドキする。べつにファーストキスでもないのに、なんでこんな。


一歩、また一歩。香織に近づき、やがてお互いの吐息がかかるほど顔が近づいた。


それほど近づいたところで俺は香織の目元に残る涙の後を見つけた。


「まったく。泣きすぎだよ、お前」


そう言って、俺はまず涙の跡を消すように香織の目元にキスをした。


「……ん」


くすぐったそうにする香織。そんな香織を見て更に鼓動が早まった。


涙の跡を消し終えると、次に首にキスをする。少し強く香織の首を吸って口を離す。俺がキスをした部分はほんのり赤くなった。


「キスマーク、付けられちゃったね」


香織は嬉しそうに、無邪気な笑みを浮かべる。


……限界だった。


今度こそ香織にキスをした。口と口のキス。香織の柔らかい唇が触れる。香織の熱を直に感じる。


どのくらいそうしていたのだろう? 短くも感じるし、長くも感じたキスをどちらともなく終えて俺たちは離れた。


互いの間に沈黙が漂ったが決して悪いものではなく、むしろ心地よかった。


いつまでも続くと思った沈黙は香織の一言によって終りを告げた。


「ねえ、佳祐」


「なんだよ」


「私と、付き合って」


「いいのか? 俺……生きてるのかよくわからないんだぜ」


「佳祐は、生きてるよ。大丈夫私が保証する」


自信満々な香織の返事に俺は苦笑した。


「なんだか頼りない保証だな」


「そんなことないって。私の保証はすごいから!」


「そうですか」


「そうだよ。だから、わたしにす……」


香織に最後まで言わせずに俺は二度目のキスで口を塞いだ。


「お前言い過ぎ。こういうのは男が言うもんだろ」


「そうなの?」


「そうなんだよ」


「じゃあ、私に言ってよ。その言葉」


「……好きだよ、香織。ずっと前から好きだった」


「うん。私もだよ」


お互いに気持ちを確かめ合い、俺たちは三度目のキスをした。

 「祈りを貴方に、手紙を君に」の二章の三話目になります。

 この話はあれです、天使の話を書いた時と同じくらい書いていて身悶えました。もう、なんなのこのカップルは? って思うくらいベッタベタですよ。

 冷静になって見てみても、冷静じゃなくても甘ったるすぎてお腹いっぱいになります。

 でもまあ、建野海の作品ではこういったシーンがあまり無いのでたまに書く分にはいいのかな〜なんて密かに思っています。(あくまで、たまにですが)

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