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二話

 「祈りを貴方に、手紙を君に」の二章になります。


私を起こすと、お兄ちゃんは部屋を出ていった。


コンビニに行くって言ってたけど、何を買いに行くんだろう? 雑誌か何かかな?


少しだけ気になったが、すぐにどうでもよくなった。あんまり考えてもしょうがない。お兄ちゃんが帰ってくれば分かることだ。


私は椅子にかけてある上着を羽織り、朝食のできているリビングに向かった。


リビングに入ると温め直した豚汁の香ばしい匂いが漂っていた。キッチンテーブルには昨日の夕飯の残りとお兄ちゃんが作った目玉焼きがあった。


ひとまず料理を運ぶのを後にして私はこたつの電源を入れてテレビを点けた。テレビから流れる朝のニュースではクリスマスの特集で各地の観光スポットの紹介をキャスターがしている。私はそれを見ながら、こたつの上のテーブル部分に料理を運ぶ。料理を運び終わったら、食器棚から茶碗を二つ取り出してご飯と豚汁をそれぞれの茶碗によそう。そして最後に冷蔵庫から飲み物を取り出そうとしたところで、私はなぜお兄ちゃんがコンビニに行ったのか理解した。


あ……飲み物ないや。だからお兄ちゃん買いに行ったのか。


お兄ちゃんが帰ってくるまでご飯を食べるのを待とうと思ったが、せっかくまだ食事が温かいのに冷めてしまってはもったいないと考え、先に食べることにした。飲み物の変わりは豚汁がある。


ご飯と豚汁を運び、温まり始めたこたつに足を入れる。こたつから発せられる熱が冷えた足にじんわりと染み渡る。


テレビのチャンネルを何度か変えて何か面白い番組がやっていないか探すが、どこもいい番組がなかったので、ニュースを見ることにした。


玄関のチャイムが鳴ったのは食事を終えて食器を洗ってた時だ。


こんな朝から誰だろう?


セールスマンだろうかと考えながら濡れた手を拭いて玄関に向かう。


「は~い」


ほんの少し扉を開けて、扉の先にいる人物を確認する。


「久しぶりね、千春ちゃん」


扉の先には笑顔で私に挨拶をする香織さんがいた。


「香織さん。どうしたんですか?」


突然の来客に私は驚いた。


「ちょうど今日バイトが休みで暇になったから佳祐のお墓参りに来たの。今はその帰り。それで千春ちゃんがいるようだったら久しぶりに会いたいなと思って……」


「そうだったんですか。前もって連絡してくれればよかったのに」


「確かにそうね。アポなしで来るのは失礼だったわね」


「あ、いえ。別にそういう意味じゃ」


「……ふふ。いいのよ、どうせ来るなら電話やメールで連絡しとくんだったわ。でも、それをしなかったおかげでいいもの見れちゃった」


いいもの? なんのこと?


私がそう思ってると香織さんが私を指差して言った。


「千春ちゃんってば普段家にいるときはそんな格好してるのね。ジャージ似合ってて可愛いわよ」


香織さんに指摘されて私はようやく気がついた。……私、まだ寝間着のまんまだ!!


「あ、あのすいません。中に入って待っててください!」


私は香織さんを家に上げるとすぐに私服に着替えるために自室走った。


部屋に入り寝間着を脱ぎ捨て私服に着替え、香織さんの待つ一階に戻る。香織さんは玄関で待っていた。


「お、お待たせしました」


「お疲れさま。別に着替えなくてもよかったのに」


「だ、だって恥ずかしいじゃないですか。寝間着なんですよ、あれ」


「そうなの? でも普段はあれを着て家にいるんじゃないの?」


「そうですけど……」


「私は気にしないけどな~」


「私が気にするんです! もしかして香織さん私のことからかってます?」


「あっ、わかっちゃった? 実はちょっとだけ」


「ひどいですよ~」


「だって千春ちゃんてからかうと面白いんだもん」


「香織さん、私のことそんな風に思ってたんですね」


私の反応に香織さんは苦笑し、


「まあ、佳祐の妹さんだしね」


と、少し寂しそうに呟いた。


「あ、こんなところで立ち話もなんですから」


そう言って私は香織さんをリビングに案内する。


「お邪魔します」


香織さんは靴を揃えて脱ぐと私の後に付いてリビングに入った。


「えっとこたつと椅子がありますが」


「千春ちゃんに合わせるわ」


「じゃ、じゃあこたつでいいですか?」


「ええ。かまわないわ」


香織さんは着ていたコートを脱ぎ、綺麗に畳んで持っていたカバンの上に置いた。たったそれだけの仕草なのにどことなく気品が漂うのを感じる。


「どうかした?」


余程じっと見つめていたのか私の視線に気づいた香織さんはちょっと照れながら私に尋ねた。


「えっと、改めて香織さんって綺麗なんだなぁって思って」


「あら? そんな風に思ってくれてたの? お世辞でもうれしいわ」


「お世辞なんかじゃないですよ。その、なんていうか、香織さんって、できる大人のイメージみたいなのが私の中にあるんですよ。だからどうやったらそんなに綺麗になれるのかなあって」


上手く言葉が見つからず、しどろもどろになりながら話す私の話を香織さんは笑いもせず聞いてくれた。


「……綺麗ね。自分ではそう思わないけどな。でも綺麗になりたいなら、あることをするといいわよ」


「あることって?」


「うん。ぶっちゃけ恋」


……恋?


「あ、今なに漫画みたいなこと言ってるんだって思ったでしょ」


「お、思ってませんよ」


実はちょっぴり思ったり。


「そう? でも案外外れてるわけでもないわよ、これ」


「そうなんですか?」


「ええ。だって好きな人ができれば、その人に振り向いてもらえるようにって色々と努力するじゃない。化粧を変えてみたり、ダイエットして体型をよくしたり、他にも色々ね。それが結果的に綺麗になることに繋がる。綺麗になるってようするに何かの目的を達成する途中で生まれる副産物みたいなものなのよ」


香織さんの考えを聞いて私はすごいと思った。私は今言われたことなんて考えたことなかったし、彼氏だってできたらいいな~程度にしか思ってなかったからだ。


「やっぱり香織さんはすごいです。私そんなこと考えたことなんてないですもん」


「でも、これは私の考えだから、これが正しいってわけじゃないからね」


「それでも参考になりました」


私も何か綺麗になるための目標を見つけようかな~。そんなことを思っていたところで私はあることに気がついた。


「あれ? ということは香織さん今恋してるんですか?」


今話してくれたことを香織さんに当てはめるとそういう考えに至った。


「う~ん。してるといえば、してるのかな?」


その答えを聞いて、私はものすごい興味が湧いた。香織さんが恋してる人って一体誰だろう? やっぱり格好よくて頭もいいんだろうか?


「え~どんな人なんですか? 教えてください」


香織さんは腕を組んでしばらく悩んだ後、


「う~ん。まあ、いいよね」


と言って、その相手を教えてくれた。


「……え、えええぇぇ!!」


香織さんの恋の相手は私の予想より遥か上を行く人物だった。


「そ、そんなに驚くこと?」


「そりゃ驚きますよ。だって全然釣り合わないじゃないですか。これこそまさに月とスッポンですよ!」


「酷い言われようだなぁ」


私の反応が予想外だったのか香織さんはどう答えればいいか困っていた。


だけど、私からしたらそれだけその相手が予想外だったのだ。香織さんみたいな人がよりによってなんで……。


「ただいま~。千春飲み物買ってきたぞ~」


と、そこで飲み物を買いにコンビニに行っていたお兄ちゃんが帰ってきた。そう、今の話しの“当事者”が。


「なあ、車庫に車止めてあったけど誰か来てんのか?」


コンビニの袋に入った飲み物を持ちながらリビングに入ってきたお兄ちゃんは、私と一緒にこたつに入っている来客に気がついてその場に固まった。


香織さんも突然入ってきたお兄ちゃんを見て固まっている。


……そうだ、私以外にはお兄ちゃんは見たことがない人間に見えるんだった。


そのことを思い出した私は固まったままお兄ちゃんを凝視する香織さんに説明をしようとする。


「あの、香織さん。この人は……」


私の従兄弟です。そう私が答える前に香織さんは私が全く予想してなかった言葉を口にした。


「け……佳祐?」

「祈りを貴方に、手紙を君に」の二章の二話目になります。

 この話では、佳祐が出かけてる間に重要なサブキャラである香織が千春の元に訪れています。入れ違いになり、ほんの少し早く帰っていたら会う事は無かった二人。偶然に偶然が重なり、二人は再会する事になりました。

 ベタだなと思っていますが、こんな展開もありかなって思っています。

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