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一話


カーテンの隙間から射し込む朝日の眩しさで俺は目を覚ました。布団を被っているのに、どうにも寒いなと思っていると、部屋のドアが開いており、そこから冷たい空気が流れ込んでいた。


昨日の夜にしっかり閉めていたと思っていたから、どうして開いてるのかと思ったが、よく考えたら夜中に一回トイレに行っていた。おそらく、その時にしっかり閉めなかったんだろう。


「……それにしても、懐かしい夢見たな」


珍しく、起きても夢の内容を覚えていた。うろ覚え程度だが、誰の夢だったかは分かる。


香織のやつ、今どうしてんだろうな?


ここは俺が死んでから三年後の世界だ。となると、今の香織は大学四年。就職活動に失敗してなければ、今ごろ落ち着いて毎日過ごしてるだろう。


彼氏とか、できてんのかな?


自分で言うのもなんだが、俺と香織は中々いい関係だった。少なくとも友達よりは上だったはず。どちらかが告白していたらきっと恋人同士になっていた……と思う。


あくまでこれは俺が感じてたことで、香織にはそんな気はなかったのかも知れない。そうだとしたら、自惚れもいいとこだ。


それでも、今の香織に彼氏ができていたら、やっぱり嫉妬する。別に彼氏だったわけじゃないが、彼女と親しかった男としては悔しい。


……会いに行こうかな?


よっぽど自宅は変わってないだろうから、行こうと思えば行くことはできる。お金も昨日帰ってから調べて見つけた。


どうする?


行けよと背中を押す声と行っても意味がないだろうと言う声が頭に響く。


色々と考え、しばらく悩んだ末に結局行かないことにした。理由はいくつかあり、一つはまず会いに行っても俺のことを認識できないだろうと思ったからだ。それに今の香織には香織の生活がある。そんなあいつの所に、死んだはずなのに生きている得体の知れない存在の俺が行ったところでしょうがないだろう。


よし、行かないって決めたし、とりあえず、飯食おう。


朝食をとるために俺は階段を降りてリビングに向かう。


洗面所で顔を洗った後、キッチンに入った俺は、鍋に入っている豚汁を温め直す。冷蔵庫からキャベツの千切りとコロッケを取り出す。これらはみんな昨日の夕食の残りだ。


それらとは別に冷蔵庫から卵を二個取り出し、空いているガスコンロの上にフライパンを乗せて油をひく。換気扇を回し、コンロに火を点ける。油が少しずつ表面に広がる。卵をキッチンテーブルの角に軽くぶつけてひびをいれる。油が十分広がり、フライパンが温まったところで殻を割り、卵を二個フライパンの上に落とす。


ジュッという音と共に卵白が固まりはじめる。俺はフライパンに蓋をし、目玉焼きが出来上がるのを待つ。


待ってる間に再び冷蔵庫を開けて、中から牛乳を取り出す。食器洗い機の中にある洗い終わっているコップを手に取り、牛乳を注ぐ。


……あれ? 一杯分しかないな。


予想していたより牛乳は残っていなかった。冷蔵庫の中にある飲みものはこれだけしかないため、このままだと朝食の時の飲み物がない。


リビングの壁にかけてある時計を見ると、時刻は九時半。スーパーはもう少ししないと開かない。


しょうがない。コンビニに買いに行くか。


コップに入ってる牛乳を飲み干して、出来上がった目玉焼きを皿に乗せ、豚汁とフライパンを温めていたコンロの火を切る。


それにしても、千春のやつまだ寝てるのか? 冬休みだからって寝すぎだろ。


様子を伺うためにリビングを出て二階の千春の部屋に向かう。


二階にある三つの部屋。一番右が荷物置き場。左側が俺の部屋。そして、真ん中の部屋が千春の部屋だ。


千春の部屋の前に立ち、ノックをする。


コンコン、コンコン。


ドアを叩く音が周りに響く。返事はない。仕方なくドアを少し開けて、中の様子を伺う。


「お~い、ちはる~。朝だぞ~」


部屋の中はカーテンが閉めきられており真っ暗だ。音を立てないようにして中に入る。


ベッドの横に行くと、寝間着のジャージを着て、穏やかな顔をして眠っている千春がいた。


「……ぅ……おに……ちゃ」


むにゃむにゃと何か寝言を言っているが、何を言ってるか分からない。そんな千春を見てるとイタズラ心がふつふつと湧いてくるが、それを抑えて千春を起こす。


「おい、起きろ。もう朝だぞ」


肩をやさしく叩いて起こそうとするが千春は起きない。


「こら、飯できてるんだから早く起きろ」


今度は肩を揺する。かなり強めに。


「……ぅ、ぅん?」


今度は効果があったのか、うっすらと目蓋を開いて千春が起きた。


「あれ? ……おにいちゃん?」


「そうだよ。もう朝だ。飯できてるから早く降りてこい」


「あ~うん」


まだ寝惚けてるのか、千春はボーッとしながらベッドから抜け出そうとする。しかし、ベッドの外の冷たい空気を感じた瞬間、またベッドの中に戻ってしまった。


「さむい。あともうちょっと寝かせて」


千春は冬特有のベッドのぬくもりという誘惑に誘われてしまった。


「だめだって。そうやってるとお前また寝るだろ。俺今からちょっと出かけるからその間にお前飯食っとけ」


「お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」


起きがけのトロンとした上目遣いの瞳で千春は俺を見つめる。こうして見るとちっちゃな子供みたいだ。


「ちょっとコンビニに行ってくるから留守番してろ」


「うん。わかった」


千春はそう返事をすると、今度はきちんとベッドから出た。


「じゃ、行ってくる」


眠そうに目蓋を擦る千春の頭をポンポンと軽く叩いて俺は部屋を後にした。

 「祈りを貴方に、手紙を君に」の二章の一話目になります。

 この話から、二章が始まり、新しい一日が始まるとともに新たな出来事も訪れます。

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