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6話 ~襲撃!ピクニック~

間が空きましたが連載再開です。




「いや~~いい天気だわ! まさに、ピクニック日和!」


 腕を伸ばして、ジーンズにTシャツ姿の三つ編みメガネ、天宮茜は「んあー」と奇妙な声を漏らした。

 並んで立つ男、飯嶋虎次はその様子を伺い、眩しい太陽を仰ぎ、息を吐いた。

 もう直ぐ来るであろう2人を待ちながら、虎次はふと思う。


(……どうしてこうなった)




☆☆☆




 きっかけは昼休みの事である。


「ピクニックに行こう!」

「は?」


 物陰ランチの新しいメンバー天宮は唐突に言った。

 本当に唐突過ぎて、誰一人話についていけない。

 天宮は野菜ジュースをずぞぞと一気に啜りきり、ぎゅっと紙パックを握り潰した。


「親友なんだから休日も遊ぶべきだと思う!」

「……何でピクニックなの?」

「月音のおべんと食べたいから!」

「え……私がお弁当作ってくの?」

「頼むよ親友~!」


 手を合わせて天宮が頭を下げる。伊成はしばらく唐揚げを口に運んだ箸を口にくわえたまま、天宮をじっと凝視していた。どうやら当惑しているらしい。

 伊成が虎次と野吹にやたらと辛辣な物言いをするのは、彼らの弱みを握っているから(野吹の場合は最初から舐めきられていたが)だ。流石に迷惑とはいえ突然できた親友に対して、邪険な態度は見せられない。

 虎次も天宮と関わり続けるのは、彼女を友達とする以上に危険なことだという認識だった。

 だから虎次も助け船を出そうと動くが……


 それよりも先に伊成は動いてしまった。


「……うん」

「やたー! 月音のおべんと食べられる! じゃあ、早速今度の日曜日に、どう!?」

「う、うん……」


 まさかの承認。虎次も驚き、焼きそばパンの紅ショウガをぽろりと落とした。

 そして、それだけでは驚かし足りないとでも言わんばかりに、天宮は虎次にウインクした。


「愛妻弁当、作ってきてくれるってよトラちゃん♪」

「トラちゃ……!?」


 ここで初めて飛び出した仇名に、いつの間にか自分が行く事になっている事以上に衝撃を受ける。それに触れようとしたところで、もう一人の馬鹿が割って入った。


「俺も俺も俺も俺も! 俺も伊成ちゃんのお弁当!」


 野吹はすっかり立ち直っていた。ひっそりと、「天宮の胸の感触が忘れられない」と虎次に語る程度には。

 面倒臭くなってきた、と虎次は溜め息をつく。

 

「それじゃあ、四人で行こうぜピクニック! うひょおおおおお!」

「おい馬鹿静かにしろ……!」

「あ、ごめーん。やっぱこれってアイドルの辛いところ?」


 未だに伊成をアイドルか何かだと思っているのか、一体何処まで本気なのか。

 少なくともろくでもない馬鹿なのだろうと、虎次は頭を抱えた。

 断る間もなく、こうして四人はピクニックに行く事になったのである。


「プランはこの茜様が練ってあげよう! 幸い今日の午後始めの授業は数学だからね!」

「幸いも糞もあるか。またサボりか」

「残念。今日は机でノートと睨めっこするフリしてます」

「授業受けろ」


 虎次はもう溜め息しか出ない。


「んまんまっ、後でメールでプランを通知しますんでっ! 心して待て!」


 不幸なことに虎次も天宮に既にメールアドレスを教えてしまっている。

 折角の休日を潰されるのは堪ったものではなかったが、ばっくれたら何をされるか分からない。

 ただの馬鹿なのか知らないが、天宮にはそんな危うさがあった。

 こうして、四人のピクニックは企画された。




☆☆☆




 待ち合わせ場所は駅前。時間は9時。

 時間10分前に待ち合わせ場所に着いた虎次は、既に待っていた天宮と出くわした。

 そして今、時刻は9時10分。

 野吹と伊成は未だ現れない。


「野吹は知ってたけど、伊成も時間にルーズなんだな」


 時間は結構気にするタイプの虎次は溜め息をつく。

 

「まぁ、二人には待ち合わせ時間は10時って伝えたからね」

「そっか。だったら、まだこなくて……ん?」


 天宮がさらりと吐いた言葉。あまりにも自然に吐かれた為、そのまま会話を続けかけた虎次が止まる。


「待て。お前今なんて言った?」

「何それノリツッコミ? ギャグとか通じないタイプかと思ってたけど、やればできるじゃん」


 天宮は虎次の顔も見ずに、にやりと笑った。

 一瞬、虎次はぞっとする。

 天宮と初対面してから、虎次は学校内でもずっと天宮を観察してきた。変な意味ではない。伊成との関係を知られた相手が、危険でないかを確かめる為だ。

 授業中、休み時間中、どんな時でも見せた彼女の顔は、『暴走気味なお馬鹿』といったもの。彼女を取り巻く仲間達も、そういう認識で彼女と付き合っているように見えた。


 しかし、今見せた天宮の顔は明らかに『暴走気味なお馬鹿』のものとは違った。


「待ち合わせ場所と時間のメール、一括送信じゃなかったけど気付かなかった?」


 天宮の顔が虎次を向いた。

 眼鏡を外すと、余計にその目が目立つ。

 思っていたよりも鋭い目付きだ。


「あ、これ伊達ね。ほら、私って目付き悪いからさ。イメチェン的な?」

「……何で俺だけ早く呼んだんだ?」


 虎次が問う。

 天宮はにまりと笑った。


「虎次君に言っておきたい事があったんだ」

「何だよ」


 思い当たる節がない。

 虎次が天宮と初めて知り合ったのはついこの間の事だ。

 それ以前の天宮の事などまるで知らない。

 そんな彼女が、虎次に何を言いたいのか。


「まず一つ誤解を解いとくとさ、誰も月音がアイドルだなんて思ってないからね?」

「……だろうな」


 やっぱり冗談か、と虎次はさほど驚かない。


「そりゃ髪掴まれて、ぶたれそうになってる子をアイドルとは思わないって」

「ちょっと待て。今なんて言った?」

「あれ、知らない? とっくに月音もチクってると思ったけど」


 虎次の驚きに対して、天宮は逆に驚かされたようだった。

 

「髪くしゃくしゃになっててさ。私が割って入ったの。でも意外。てっきり、裏でいじめからあの子守ってると思ってたけど、そんな事も知らないんだ」


 ぴたりと伊成との関係を言い当てる天宮。

 何処までこいつは知っているのか、虎次はごくりと息を呑んだ。


「あー、安心して。事情察してとぼけてあげてんだから。これからも私は月音をアイドルと勘違いしてて……いや、これは要らないか。虎次君と月音をくっつけようとしてるお節介な馬鹿演じるからそのつもりで」

「……お前何がしたいんだ?」


 天宮がほぼ、伊成と虎次の関係を把握しているのは確実だ。

 しかし、こうして近づき、伊成を助ける理由が分からない。

 それは面白がって掻き回されるよりも、数段不気味なものだった。

 天宮はふらりと歩いて、改札口傍の椅子に腰掛ける。そして、ちょいちょいと指を動かし虎次を誘った。

 素直に虎次は後に続き、天宮の横に腰掛ける。そのタイミングで天宮は口を開く。


「まずはこれを虎次君に話したのは、余計な警戒して欲しくないから。月音も野吹君と違って、私の事怪しんでるの知ってるからね」


 余計に警戒を招いているじゃないか、と虎次は思う。


「余計に警戒させてるだろ、って思ったでしょ? まぁ、聞きなさいって。その警戒を解く為に話してるんだから」


 察しがいいというのか、勘がいいというのか、まるで見透かしているかのように天宮は言う。

 それが余計に警戒を招いている事までは気付いていないようだったが。


「まぁ、長話も嫌いだし。サクッと説明しちゃうとね、私は月音と友達になりたいから近付いたってわけ」

「ダウト」


 即座に虎次が割って入る。

 今後は普段のお馬鹿キャラの笑顔でにっと笑って「そう言うなって」と天宮が続ける。


「私ってさ、嫌いなんだ。その場にいないやつの悪口言ったりするのって」


 唐突な話題の変化に虎次も戸惑う。

 伊成と友達になる事と、悪口が嫌いの何処が繋がるのか。

 しかし、すぐに理解する。天宮の話は簡潔だった。


「いじめられっ子ならそういう事、しなさそうじゃない?」


 ぞっとする笑顔だった。


「そもそもする相手もいないか~、って思ってたんだけど、それは誤算。虎次君と野吹君が裏にいて驚いたよ。はてさてどういう経緯で月音を守ってやろうと思ったのかな?」


 打算。

 一瞬、嫌悪感を抱きかけた天宮の笑顔が、自分のものと同じである事に虎次は気付く。

 そして、決して伊成を守ると決めた経緯を知られてはならないと改めて認識する。

 

「分かってるよ。自分の為でしょ? 君ってさ、思惑もなくいじめられっ子を助けるような正義の味方には見えないからね」


 やはりぴたりと言い当てる。

 こいつは危険だ。

 しかし、ひとつだけ、彼女が見誤っていた事もあった。


「でも、本当に驚いたよ。こんな仲間がいるのに、未だにいじめられてる月音には。しかも乱暴された事とかは、君達に話してないんでしょ? よっぽどビビリか、お人好しって訳だ」


 あれの何処がビビリなものか。あれの何処がお人好しなものか。

 流石の天宮も、まさか虎次が脅されて付き合わされてるとは思わなかったようだ。

 そこでようやく虎次は安心する。

 こいつは何でも見透かす訳じゃない、と。


「何かおかしい事言った?」

「え?」

「笑ってる」


 しまった、と虎次は口を引き締めた。

 少し不自然だっただろうか。

 しかし天宮はあまり気に留めずに、話を続けた。


「ま、それはそれで嬉しい訳よ。あの子なら絶対私の陰口とか言わなそうじゃない? 私も気楽につきあえる友達が欲しいのよね」


 本当にそれだけか?

 ここまでの言動からは、裏があるようにしか思えない。

 天宮茜。

 気を抜けない相手ではあるが、それを知れた事は収穫と言える。

 ある意味で『安心』した虎次は、そういうことか、と妙に納得した。


「互いにうまくやってこうね。打算的に」

「そうだな」


 天宮が怪しく微笑み、負けじと虎次も不敵に笑んだ。

 伊成と虎次、野吹に加わる新しい嘘吐き、天宮茜は眼鏡をかけ直し、いつもの馬鹿面笑顔を浮かべた。


「さて! 月音はどんなおべんと作ってくるかな? 私が注文してた唐揚げは入っているでしょーかっ!」


 天宮がぴょんとベンチから立ち上がる。


「入っているに百円賭けよう」

「じゃあ、入ってないに百円だ」


 虎次もゆっくり立ち上がる。

 駅前の大時計を見上げれば、針は9時20分を指していた。


「…………あと40分待つのか?」

「…………それはごめん。話があるにしても早く呼びすぎた」


 抜けているのか、計算なのか。

 結局、虎次と天宮は、持たない間を繋ぐのに苦しみながら、伊成と野吹を待った。




早速本性を現した天宮茜さん。虎次と同じく腹黒系です。


彼女の本当の目的は? 彼女が加わる事でどう物語が動いていくのか?


この四人をメインにお話は進みます。

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