魔法の手鏡を手に入れたらイケメンとの結婚が決まって人生が変わりました
醜い私は十七歳になっても縁談がひとつも来なかった。
四歳下の妹ですら恋人がいるというのに。
美人はもちろん、太っている女の子や性格が悪い女の子でさえ婚約が決まってたというのに、私だけ浮いた話のひとつもなかった。
両親から腫れ物扱いを受け、町の少女たちから馬鹿にされ見下され、子どもたちや無神経な男どもはからかってきた。
それなりに人口がある、内陸の町でこんなことがあっていいものか。
そんな私は孤立して、家事が終わるといつもひとりぼっちになる。
下手に同年代の少年少女と関わると意地悪される。
人目を避けるために郊外の森で散歩して適当に時間を潰すのが日課だった。
ある日、散歩の途中に雨が降り出して、私は急いで帰ろうとした。
近道である獣道を通り抜けるつもりでいた。
しかし、道中で行き倒れの老婆を見つけてしまった。肩が動くので呼吸しているのはわかった。
正直言って困ったな、と思った。
「お、おお」
「……っ!」
老婆は私の気配を探っている。しかし目線が私を捉えきれない。
もしかしてこの人は目が見えないんじゃないか。
「あんたが女なら渡さなきゃいけないものがある。男には渡せないものなんだ」
老婆は懐から、異質なものを取り出した。
それは手鏡である。
少なくとも生まれ育った町しか知らない私の知識が及ばない、奇妙なデザインの金細工を施した。
悪趣味すれすれの奇抜さはあるが、金細工の花や曲線の質は見事なもので、よく見ると女心を刺激する一品だ。
もしかして王都でこういうものが流行っているのかもしれない。
「女はこれがあれば人生が変わる。ただし、目を奪われないように気をつけな」
「な、なにを言ってるの?」
「ねえ、あんたにゃ、あたしが何歳に見える?」
「……お婆さん」
「ああぁ」
泣き出した老婆に困惑する。関わらなければよかった。
このまま放っておくのは後味が悪い。
でも生きているのだから、私が家に連れ帰って世話しなければならない。
家族になんて言えばいいのだろう。
うちには他人を養う余裕はないし、町長さんに託すしかないが、町での両親の立場が悪くなるかもしれない。
ああ、こんな性格だから嫁のもらい手がないのだろう。
そもそも目をつむって老婆の傍らを通り抜けるはずだった。
でも、手鏡を見つけてしまった。
「それ、やるよ」
「え、でも」
「あたしゃ、もう疲れたよ」
老婆は私に向かって手鏡を差し出し、私は魅入られたように受け取ってしまった。
「ひ……」
老婆の肉体が灰のようにボロボロと崩れていき、風が吹くと塵ひとつ残さず消えてしまった。
「いいのかな?」
疑問を持っても答える者はいない。
それに、私はもう手鏡の虜だった。
*
嫌な夢を見た。
『ヴェオ、ヴェオクーレ、ウィンジェン』
姿は見えないけど、おぞましい声に嫌悪感を抱かずにいられない。
私は夢の中で為す術がなく、早く目が覚めてくれと懇願する。
*
翌朝、いつものように日の出とともに起き出して、竈に火を入れて朝食を作り、着替えた両親が居間兼食堂にやって来たり
「あっ!」
「な、なに?」
家族まで私をからかうようになったのか。悲しくなった。
「おまえ、その顔」
「それがなんだっていうのよ!」
悲鳴混じりの詰問に両親は一瞬怯んだが、父親が妙に優しい声でこう言った。
「早く鏡を見なさい」
「なによ」
カッとなる私に対して、母親が機転を利かせて水を張った洗面器を持ってきた。
水面に映るのは見知らぬ美人だ。
「ん?」
私が声を発すると同時に水面に映っている美人の口が動いた。
眉をひそめたり、目を見開いたりすると彼女は同時に動いてくれる。
「ちょっと、あなた誰よ?」
「ココ、あんまりだ。お姉ちゃんだよ!」
「えーっ!!」
大袈裟な驚き方が失礼な妹だが、私の部屋に戻って手鏡を見てみると、その蒸無神経さも許せた。
シュッと整った輪郭、すっと通った高い鼻筋、大きな青い瞳、艶やかな唇、果実のように瑞々しい頬、名画の額縁のようによく決まっている眉毛、おまけに髪の毛が金髪になっている。
私は生まれ変わったように美しくなった。
それ以来、家族や町の人たちの態度が豹変した。
美人というだけで人々は愛想良く話しかけてくるようになったし、子どもたちには綺麗名お姉ちゃんと慕われるようになった。
そして若い男たちは私の気を引こうと、毎日趣向を凝らしている。
「なあ、二人で花畑を見に行かなかいか?」
「私、好きな花と嫌いな花があるの」
「今はネモフィラが見事だよ。川の畔に大きな花畑があるんだ」
「そうねぇ」
じらすと少年は焦りと不安に駆られて、とにかく約束を取り付けようとムキになる。
私は彼の家柄や両親の職業を考慮する。父親は染色の職人で母親はその手伝いと家事と子育てを両立している。
ふと、いくつかの足音が聞こえてきた。
「抜け駆けはずるいぞ!」
「ああ……」
残念でした。なーんてね。
「いいな。あたしもネモフィラ畑に行きたい」
「いいかしら、メアちゃん?」
妹がねだるのに便乗して女の子たちが許可を求めてくる。
私は以前の私とは違う。それに男の前なら女たちはいじめることはできないし、陰険な手段も使えない。
なぜなら私が相談すれば、男たちは私の言うことだけを信じて、婚約者の言うことを信じなくなるからだ。
「じゃあ、みんなで行きましょ。お友達とお弁当を持ってピクニックするの、私の夢なのよ」
「ぜひ、ぜひ!」
「……」
ピクニック自体はつつがなく終わった。そのあと私に向けられた好意の矢印が増えただけ。
美しくというだけで人生が変わった。いい方に変わるだなんて、これは幸運の手鏡だ。
私は毎晩、ベッドに腰掛けて手鏡に映る『私の顔』に見とれていた。
少し角度を変えるだけで印象が変わる。できればすべての角度で画家に肖像画を描いてもらいたい。もちろん私の美しさを永遠に残すために。
年を取ったら美貌が衰えて、あの老婆のようにしわくちゃになるだろう。
恐ろしい想像に身震いした。
コツン、と何かが壁に当たる音がしてカーテンをめくり、外の様子を窺った。
一見変化はなさそうだけど、藪に男の子が隠れていると気付いた。
でも、窓は開けてやらない。
私派綺麗か体でお嫁に行くんだ。
カーテンを閉めると、燭台の火を消して、ベッドに入った。
*
毎晩嫌な夢を見る。
『ヴェオ、ヴェオクーレ、ウィンジェン』
私はただひたすら早く目が覚めるように祈るしかない。
*
私はモテるのを楽しんでいたわけじゃない。
言い寄ってくる男たちを値踏みして、安定した収入、長く働けそうな健康な体、私と子どもを生涯守り続ける知略、そして年を取っても私をずっと愛し続ける真心があるかどうかを条件に見極めた。
顔だけがいい男、健康でも脳筋の男、愛の囁きがうまくても金を稼げない男、振り向いてもらうのをひたすら待つだけの男、外面がよくても恋人にモラハラしたり暴力を振るったりする男。
既婚者や子持ちの男やもめは最初から対象外。
見極めたはいいものの、町に私のお眼鏡にかなう男がいなかった。
「選り好みするな」
「自惚れてるとあっという間に行き遅れるよ」
「わかってるわ」
「以前に戻りたくなければ、早く」
「わかってるってば!」
変わったのは私だけじゃない。
両親は私を金持ちに嫁がせたい。しかも毎日のように縁談を持ち込まれては断るのに苦労している。
妹は恋人の心変わりを恐れている。
それぞれの理由で、みんなは私の結婚を早く決めたい。
だから水面下で決定権の奪い合いが日常になっていた。
手鏡を手に入れてから半年経った、ある日のことだ。
ふらりとやって来た旅人が、田舎町ではお目にかかれないほどの美男子なのだ。
大人たちは当然のようによそ者を警戒するが、若い女たちは大歓迎で、愛想と化粧が良くなった。
でも、私が登場すればみんな脇役に成り下がってしまう。
「こんにちは。絵描きさですか?」
「一応、王立アカデミーの準会員だ」
「その若さで、すごいですね」
「いや、それほどでもない」
ついに見つけた、私の運命の人!
町でスケッチしているその絵は通行人が思わず目を留めるほど素晴らしくて、町出一番いい宿屋に泊まって、パーティーに顔を出しては議員や裕福な商人に売り込んでいる。
少女も、若い女もみんな彼に夢中になった。おばさんたちが「私もあと三十年若ければねえ」なんて冗談を飛ばしている。
もちろん若い男たちは気に食わないが、私は素知らぬふりをした。
「お姉ちゃん、ロイドさんが来たよ」
「ちょっ、化粧が適当な日に限って」
「だいじょーぶ。お姉ちゃんはお化粧しなくても綺麗なんだから」
妹に背中を押されて居間兼食堂に行くと、本当に絵描きさんがいる。
目が合うとロイドさんは私をじーっと見つめてくるものだから、体温が急上昇し、きっと頬が赤くなっている。
「ロイドさんにおまえの肖像画を描いてもらうことになったんだ」
「そ、そうなの? まあ、ありがたいわね。でもお父さん、急にどうしたの?」
「お見合い用の絵だよ」
「……」
素早く打算を張り巡らすが、父と契約しているならロイドさんからアプローチするのは難しいかもしれない。
「ロイドさん、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
絵のモデルになれば、彼が泊まっている部屋に設えたアトリエにも公然と出入りできるようになる。
町中で声をかけてもおかしくないし、食事に誘ったりとかも自然にできるはずだ。
だから、あとは惚れさせるだけと考えていた。
「なにこれっ!」
下書きができた時点でキャンパスを覗きこんだら、とんでもないものが描かれていた。
「こんなのありえない!」
「俺は見たままを描いただけだ」
「ひどい、ひどいわ!」
「きみを侮辱したわけじゃない」
「嘘よ!」
「俺はありのまましか描けない」
「嘘つくならもっとマシな嘘をつきなさいよ!」
私が泣き出して宿屋を出て行ったことは、あっという間に噂になって町じゅうの誰もが知ることになった。
そして、私は旅の画家に弄ばれた可哀想な少女の肩書きを手に入れた。
荷物を置いたまま逃げようとした彼は、寸前で町の男たちに捕まった。
「なんてことしてくれたんだ!」
「俺はお嬢様の素顔をありのままに描いただけです」
「あんたは娘の顔のどこを見てたんだい!」
「これじゃお嫁に行けないよ」
「すみません、該当の絵は破棄しますし、違約金もお支払いします」
「そうじゃなくて!」
激怒する両親にロイドは言い訳を並べ立て、それが余計に彼らの怒りの炎に油を注いでしまい、責任を取れと詰め寄られるとようやく観念した。
「責任を取れ!」
「………………はい」
婚約が決まった。
結婚式の日まで彼は町長さんの家に軟禁されることになった。
私は勝ったんだ!
*
勝利への過程は果たして美しいと言えるのか。
*
もうすぐ春が来る。私は窓辺に置いた椅子に座って、新居で使うベッドカバーの刺繍を十日間かけて完成させた。
クッションカバー、テーブルクロス、ランチョンマット、普段着に寝間着に下着、ハンカチ、刺繍できるものにはなんでも刺繍した。
「ちょいと凝りすぎじゃないかい?」
母はたまに余計な雑音を吹き込んでくるけど、娘がお嫁に行く寂しさのせいだと、見逃してやることにした。
父はお酒の量が増えて妹に叱られていた。
もうじきこの家を出る私は、家族の様子を片っ端から忘れることにしている。
私が考えているのは、確定された女の幸せだけ。
きっとロイドなら幸せにしてくれる。
顔がよくて、若くて健康で、絵が高値で売れて、王立アカデミーの準会員という申し分ない将来性があるのだ。結婚したらすぐにでも王都に住めるだろう。
私を王都に連れて行くうえに、一生愛して守ってくれる。
ロイドは婚約が決まってからスランプになったけど、結婚したらすべては好転するに決まっている。
だって私の人生にはご褒美があるべきだし、これから毎日が幸せになるんだから。
手鏡に映る私は今一番輝いている。
化粧をして、髪を編んで、花嫁衣装を着たら、神殿の巫女に知らせる。
先触れの子どもたちが張り切って籠から花をばらまく。
父と腕を組んで神殿の中央路をしずしずと歩くごとに、町の人たちが拍手を送る。
*
控室の鏡台の前に置かれた手鏡に変化が起きていた。
部屋の天井を映すべき鏡面に人の顔のようなものが映っている。
入れ替わり立ち替わり様々な女の顔が映っては消えていったが、必ず全員が最後にはしわくちゃの老婆になって悲鳴をあげる。
とうとう最後の顔が現れた。
栗毛のあまり美人とは言えない顔立ちの女だが、金髪の絶世の美女に変貌し、やはり最後は老婆の姿になった。
誰も知らないが、メアが散歩の帰りに出会った老婆の若い頃の姿だった。
*
ついに祭壇の前で待っている花婿の前に立った。
父がベールを外した。
ロイド、なんでそんなに暗い顔してるの?
今日は私の結婚式なのよ。
私の一生に一度の晴れ舞台なのよ。
ぼんやりしてないで早く儀式をやって!
「新婦は新郎に貞節の誓いを立てなさい」
神官が機転を利かせ、儀式の順番を入れ替えた。
「わたくしメア·ブッチャーは夫、ロイド·ハーレーと添い遂げることを誓います」
さあ、早く。
「わたくしロイド·ハーレーは、妻……」
「お、おい」
「あれ!」
その時、前方の参列者たちがざわざわと騒ぎ出した。
父、母、妹、親戚、友人、親しい者たちの動揺がうしろの席にも伝わって、彼らが前の方にやって来て私に注目する。
邪魔しないで!
私は神官に目を向けるが、彼がぎょっとして私の顔から目を逸らした。
「神官様、早く儀式を。ロイド、あなたからも言ってよ」
「間に合ったか」
「え?」
「みんなやっと見えるようになったんだ」
嫌な予感がして客席に向き直ると、みんなが俯いて肩を震わせていた。
嫌というほど見覚えがある。後ろ指さされるこの感じ、無理矢理過去に引き戻されたようだ。
「私は美しくなったのよ!」
「ぷっ」
「あははははははは!」
狂ったような嘲笑が神殿に鳴り響いた。私は何がなんだかわからなくて、ロイドに縋りついた。
「なにが起こってるの?」
「神官様、式を一旦中止します」
ロイドが人混みを掻き分けて、私は花嫁衣装の裾を引きずって、可能な限り急いで控え室に戻った。
扉を開け放った途端、禍々しい黒い靄が漂ってきて、慌てて腕を振ってそれをかき消した。
「なぜ誓わなかったの?」
「俺は最初から言っていた」
「質問に答えて!」
「俺はありのまましか描けないと」
「私がブスだって言うのね!」
激昂してロイドに平手打ちしたが、彼はよけなかった。それが益々腹立たしい。
「いつも言い訳ばかりして、そんなに私が嫌いなら最初から結婚しなければいいじゃない!」
涙が溢れると足が萎えて立てなくなった。そんな私にロイドは手を貸しもしない。
「ブスが嫌なら嫌と言えばよかったのに!」
「顔の問題じゃない、あの絵をよく思い出してくれ」
「うるさい、うるさいうるさい!」
「目玉がない人間なんて、他にどうやって描けというんだ!」
初めてロイドが怒鳴った。モラハラよ、暴力よ、両親に訴えて、町のみんなにも知らせて、裁判所にも訴えてやる。
「よく聞け、きみには目玉がないんだ!」
「そんな馬鹿な」
せせら笑って化粧台の鏡を見た。
*
「女はこれがあれば人生が変わる。ただし、目を奪われないように気をつけな」
*
私は今、どんな顔をしている?
「手鏡!」
「どうしたんだ?」
「手鏡はどこ?」
手探りで探そうとする私にロイドが手鏡を持ってきてくれた。
鏡面には美しい顔が、本当の顔が、映っていなかった。
「嘘よ、嘘よ、こんなの嘘よ!」
手鏡に映っている私の顔に目玉がない!
眼球があるべき位置には真っ黒な空洞がぽっかりと空いている。
髪の色がもとに戻っている。
化粧台の鏡は見ようとしても真っ暗なままで、再び手鏡を顔の前に持ってくると目玉のない女の顔が映っている。
「それが、俺が描いたきみの顔だ」
「ひいぃ!」
悲鳴が響いたのに反応して、本能が嫌がるやり方で光った。
思わず手鏡から手を放してしまい、鏡面が割れる音がした。
「なんだ、これは?」
ロイドの大声は嫌悪感が混ざっていて、そんなに嫌いなのかと悲しくなった。
『ヴェオ、ヴェオクーレ、ウィンジェン』
悪夢の中で何度も聞いた、なんて嫌な声。声の主はどこにいるの?
「ひっ!」
何かが花嫁衣装の裾を掴んだ。誰なの?
「このっ!」
『ギャッ!』
ドッ、という激しい物音のあと悲鳴のようだが不快な声が聞こえた。
ビリビリッと布を裂く音がした。
「逃げるぞ、腕に掴まれ」
ロイドが私と腕を組んで走り出した。男の足の速さに半ば振り回される形で控え室の外に出たみたい。
「わあああああああ!」
「きゃああああああ!」
「わーーーーーーん!」
人々の悲鳴が、子どもの泣き声が私を傷つけた。みんな私の顔を見て驚いたか怖がったかして叫んだのだ。
私にはみんなの顔が見えないのに。
「なによ。こんなのまるで私がバケモノみたいじゃない」
「違う、うしろから来てるんだ」
「なにが?」
「走れ!」
腕を掴まれているので従うしかない。とにかく、私たちが走るとみんなも動き出したようだ。叫び声が聞こえてくるから。
「あはははははは」
「うふふ」
「お父さん、お母さん、正気に戻って!」
家族の声が聞こえてきたけど、ロイドは止まってくれない。
『ヴェオ、ヴェオクーレ、ウィンジェン』
背後からあの声が聞こえたあと、複数の絶叫が神殿に木霊した。
「なにが起こってるの?」
「知らない方がいい」
「私の結婚式はどうなるの?」
急にロイドが立ち止まって私は躓きそうになった。
「きみは目玉があっても何も見てないんだ!!」
それが最後に聞いたロイドの言葉だった。
見えているのに、自分の狭い世界に閉じこもって現実を見ようとしない。
周りの人たちが私を馬鹿にしたのは、私が卑屈だったからだ。
私は恋人や友人ができないのを容姿のせいにしたけど、問題はそこじゃなかった。
私の指が、手が、灰のようにボロボロと崩れていく。
そのうち自分の体が失われることがわかった。
最後に残された聴覚が、やつの言葉を拾い上げた。
『ヴェオ、ヴェオクーレ、ウィンジェン』
少しずつ、それは意味を肉付けしていく。
『えお、えおくれ、にんじぇん』
あの老婆は目を奪われないよう気をつけろと忠告した。
『目を、目をくれ、人間』
完全に理解した次の瞬間、私は聴覚どころか命も失った。
終わり
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