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チアーズ島の獣たち

作者: 東都エリ
掲載日:2026/01/08

 ここはチアーズ島。

 島の真ん中には大きな湖が一つだけ。それ以外には何もない島。


 島の獣のたちはその湖を思い思いの色に染め上げて、みんなで楽しんでいました。


 ある日神さまが降りてきて、ひと月に一度だけ、ご飯をあげようと言いました。


「湖の色を変えて島の外にいる人たちを楽しませなさい。楽しませれば楽しませるほどご飯をあげよう」


 島に住む獣たちは雄叫びを上げました。


 彼らがご飯を食べるには島から出るしかなかったからです。


 獣たちはこぞって湖の前に集まりました。

 普段のんびり家の獣さえも湖によく足を運ぶようになりました。


 三ヶ月が経ちました。


 ネズミは理解しました。


「ご飯を貰うのは無理だ」


 ご飯を貰うには、人々を楽しませる必要があります。ただ湖を染めるだけではダメなのです。


 人々は血を好みました。

 血の色がもっとも目を惹くのでした。


 島の大きな湖を真っ赤に染め上げられるのは、体の大きな獣でした。


 彼らは毎日大量の血を注ぎ、人々を楽しませました。毎日毎日。体を流れるたくさんの血を注ぎました。


 人々は理解しました。


「体の大きな獣は面白い。島外からでも一目でわかる」


 いつしか体の大きな獣が湖の前に立つだけで、人々は喜びました。


 体の小さな獣たちは面白くありませんでした。


 たとえ毎日湖に血を注いでも、少ない血液は僅かにしか染まりません。


 だから体の小さな獣たちは考えました。


「小さい獣同士で集まろう。そうすれば血を増やせるよ」

「数を活かそう。僕は浜辺から湖を褒めて、人の目を集めるよ」

「私は鳥たちに頼んで島外の人々にアピールするわ」


 ネズミは輪に入りませんでした。

 大きなプライドがあったからです。

 獣と会話する力がなかったからです。


 それでもネズミはとびきり小さな獣でした。


 血は少なく、誰の目にも届きません。


 ごく稀に人々の目に届いても、数は少なく反応もありません。


 それでもネズミは注ぎました。


 血が少なく、毎日注ぐことはできません。


 それでもネズミは注ぎました。


 注いで、注いで、注いで、注ぎました。


 神さまがやってきました。


「ネズミは全然だめだ。ご飯を与えるほどの点数を稼げていない」


 神さまは数字の書かれたスコアボードだけを置いて立ち去りました。


「そうだ、これから二ヶ月間。毎週注げば、おまえにもご飯を与えよう。さらに五十名には二十倍のご飯を与えよう」


 神さまはニッカリと笑いました。


「ほら、血を捨てて。人々を楽しませなさい」


 ネズミはなんだか馬鹿らしく思えてきました。


 人々を楽しませるために湖を染めているのか、ご飯を貰うために湖を染めているのか。


 そんな気持ちで湖を染めていたわけではなかったのに。


 自分の頭の中にある色をただ見てもらいたかっただけなのに。


 ネズミはメソメソ女々しく泣きました。

 悲しくて泣きました。悔しくて泣きました。


 それでも注ぎました。


 きっと僕の体が大きかったら、こんな色は見えなかったから。

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