チアーズ島の獣たち
ここはチアーズ島。
島の真ん中には大きな湖が一つだけ。それ以外には何もない島。
島の獣のたちはその湖を思い思いの色に染め上げて、みんなで楽しんでいました。
ある日神さまが降りてきて、ひと月に一度だけ、ご飯をあげようと言いました。
「湖の色を変えて島の外にいる人たちを楽しませなさい。楽しませれば楽しませるほどご飯をあげよう」
島に住む獣たちは雄叫びを上げました。
彼らがご飯を食べるには島から出るしかなかったからです。
獣たちはこぞって湖の前に集まりました。
普段のんびり家の獣さえも湖によく足を運ぶようになりました。
三ヶ月が経ちました。
ネズミは理解しました。
「ご飯を貰うのは無理だ」
ご飯を貰うには、人々を楽しませる必要があります。ただ湖を染めるだけではダメなのです。
人々は血を好みました。
血の色がもっとも目を惹くのでした。
島の大きな湖を真っ赤に染め上げられるのは、体の大きな獣でした。
彼らは毎日大量の血を注ぎ、人々を楽しませました。毎日毎日。体を流れるたくさんの血を注ぎました。
人々は理解しました。
「体の大きな獣は面白い。島外からでも一目でわかる」
いつしか体の大きな獣が湖の前に立つだけで、人々は喜びました。
体の小さな獣たちは面白くありませんでした。
たとえ毎日湖に血を注いでも、少ない血液は僅かにしか染まりません。
だから体の小さな獣たちは考えました。
「小さい獣同士で集まろう。そうすれば血を増やせるよ」
「数を活かそう。僕は浜辺から湖を褒めて、人の目を集めるよ」
「私は鳥たちに頼んで島外の人々にアピールするわ」
ネズミは輪に入りませんでした。
大きなプライドがあったからです。
獣と会話する力がなかったからです。
それでもネズミはとびきり小さな獣でした。
血は少なく、誰の目にも届きません。
ごく稀に人々の目に届いても、数は少なく反応もありません。
それでもネズミは注ぎました。
血が少なく、毎日注ぐことはできません。
それでもネズミは注ぎました。
注いで、注いで、注いで、注ぎました。
神さまがやってきました。
「ネズミは全然だめだ。ご飯を与えるほどの点数を稼げていない」
神さまは数字の書かれたスコアボードだけを置いて立ち去りました。
「そうだ、これから二ヶ月間。毎週注げば、おまえにもご飯を与えよう。さらに五十名には二十倍のご飯を与えよう」
神さまはニッカリと笑いました。
「ほら、血を捨てて。人々を楽しませなさい」
ネズミはなんだか馬鹿らしく思えてきました。
人々を楽しませるために湖を染めているのか、ご飯を貰うために湖を染めているのか。
そんな気持ちで湖を染めていたわけではなかったのに。
自分の頭の中にある色をただ見てもらいたかっただけなのに。
ネズミはメソメソ女々しく泣きました。
悲しくて泣きました。悔しくて泣きました。
それでも注ぎました。
きっと僕の体が大きかったら、こんな色は見えなかったから。




