第一話
朝は、だいたい同じ音で始まる。
金属が触れ合う、短くて澄んだ音。
「おはよう、みお」
その声を合図に私は目を開ける。
「みく⋯おはよう」
返事をする前に、未来は部屋に入ってきた。
未来はカーテンを少しだけ開けて、外をじっと見た。
くもりガラスなのに、何が見えるんだろう、っていつも思う。
「みお、眩しかった?」
未来はカーテンを閉じて、私の方を見た。
「ううん、大丈夫」
そう答えると、未来は安心したように笑う。
朝食はいつも、白い皿にきれいに盛られている。バタートーストに、ベーコンエッグ。コーンスープ。私の嫌いなトマトの入っていないサラダ。
温度もちょうどよくて、味も私好み。
いつも同じメニューなのはちょっとアレだけど、きっとみくのお気に入りなんだと思う。
「みお、ちゃんと食べてね」
「分かってるよ、みく」
私が未来の名前を呼ぶと、未来はいつも嬉しそうに目を細める。
安心してるのかな。たぶん、そうだと思うな。それなら、もっと呼んでみようかな。
「みお、あーん」
未来がスープを乗せたスプーンを差し出してきた。私はそれに答えるように、口をそっと開ける。
食事の間、未来は向かいの席に座って私に食べさせてくる。
食べ終わると、また部屋に戻ってベッドに座らされる。
部屋の中には鍵のかかったクローゼットと絵本の入った本棚とこのベッドだけ。スマートフォンやテレビとかはない。確か、みくが危ないからって捨てちゃった気がする。
「みおは今日もきれいだね」
未来が私の髪を指で解いてきた。指先で絡まりを解く動きが、やけに丁寧だ。
「みおは今日はなにを着たい?」
「スカートが」
「ワンピースだね。まっててね、みお」
「⋯⋯」
スカートが履きたかったけど、みくは嫌だったのかな。まあ、ワンピースでもいいや。みくが選んでくれたものだし。
未来はクローゼットから、白いワンピースを取り出してきた。
柔らかそうな布で、シワ一つない。
「みお、これでいい?」
「うん。可愛いね」
「みおが着るから、かわいいんだよ」
未来はワンピースをハンガーから外して、当然のように私の前にしゃがみ込む。
「⋯自分で着られるよ?」
「うん。知ってるよ、みお」
そう言われて、私はなにも言えなくなった。
未来はゆっくりと私を着替えさせ始めた。
「みおは、ここにいるとおちつくでしょ」
袖口が腕に通される。
「だから、みおは外にでなくていいんだよ」
ボタンが丁寧に留められる。
「⋯⋯⋯分かった」
私はコクンと頷いた。




