気付くと
「はいっ、 今日はしょうが焼き弁当だよ~」
クルクル巻いた長い髪をリボンで二つに結んだ超美少女が、俺の前に三段になった重箱をどかんと置く。
ニコニコ笑顔の彼女に昼飯の世話をやかれている俺に、周りの奴らの羨望の眼差しが突き刺さる。
日常的になってしまったそれらをやり過ごしながら、俺はイタダキマスと合掌して、一段目白い飯、二段目しょうが焼きと野菜のピクルス、三段目に何故かみっちりと詰められたイチゴを消化していった。
女の子が作る割には大味な詰め方の弁当はそれでもヤハリ美味い。
野郎共の殺人的ウラヤマ光線を浴びながらも彼女を拒みきれない原因が、この弁当の美味さにあるだろう。
「美味しい?」
恥じらいながら尋ねてくる彼女に無言で頷く。
えへ、よかったあ、と頬を染めながら安堵の溜め息をつく彼女は俺の目から見ても可愛くて、
ハイと差し出されるお茶のタイミングも言うことがない。
ただひとつ難を言うなら。
「……そろそろ素性くらい教えてくれてもいいんじゃないの」
俺の呟きに大きな瞳を丸く瞬かせ、重箱を包んでいた彼女が、チチ、と人差し指を目の前で振る。
「だめだよぅ、わたしは一介の・・・・だもんっ。対象に正体を知られちゃダメなの!」
ピョンとフレアスカートの裾を翻し、彼女は可愛く小首を傾げる。
「明日のお弁当はスコッチエッグとシーザーサラダねっ☆
え? どうして食べたいものがわかるんだって?
やだなぁ、当然だよ!
君のことならな~んでも! お見通しなんだから♪」
だってわたしは、
とキラキラした瞳で彼女。
「貴方のストーカーなんだもんっ☆」
……気づけば、俺の生活を侵食していた美少女は、いつものようにエプロンドレスを翻し、男子校の廊下を異世界並みに不可解な空間にしながら帰っていった。