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月光病  作者: 深月織
13/14

最後の夏の日



 ひぐらしが夏の終わりを告げる。



「課題、終わったか?」


「あと日記を残すのみだよ」


「しかし今どき夏休みの日記もないよな、俺ら高校生だぞ?」


「内容ダブりそうだよね、私たち。毎日一緒だったもん」


 話しながら、窓から夕暮れ空を眺める。日に日に赤さを増す太陽が落ちるときを。


 まだ。

 行かないで。


「……ごめんな」


 夏休み、まだ終わらないで。


「海も、山も、花火も、ちゃんと連れていってやりたかった」


 行かないで。


「――夢の中じゃなく、現実で」


 首を振る。

 触れられない彼を、せめて見つめていたいのに、溢れる水がそれを邪魔する。


 付き合い始めて、初めての夏だったのに。


 お願い、まだ。




 鼓膜が破れるかと思うほどのブレーキ音。

 タイヤの焦げるような匂い。

 背中を強く押されて、生け垣に倒れ込んだと気付いたのは、誰かの悲鳴を聞いたあとだった。

 アスファルトに広がる、赤い水。

 さっきまで隣で笑っていた君が、いなかった。



 脳裏から離れない、あの光景を。

 振り払うように、首を振る。


 彼が腕を伸ばし、壁にかけたカレンダーにバツをつける。

 八月最後の日。

 彼と夢でしか会えなくなって、四十九日目に。


「明日から、新学期だよ。――夏は、終わり」


 微笑む彼がぼやける。


 お願い、まだ、

 好きなの。


「……好きだよ。最後の夏を、ありがとう――」


 行かないで。



 涙に塞がれた私の瞼に、ひんやりした唇が触れて、離れた。


 ――さようなら。



 目を開けると一筋、差し込んだ夕陽が消えるところだった。

 ベッドに横たわる私のほか、誰もいない部屋が、一瞬の暗闇に包まれて。


 ひぐらしの声が途切れた。



 夏が、終わる。




 fin.


初出:2009/09/11 ブログss


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