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月光病  作者: 深月織
12/14

⇔Lovers



卒業式のあと。


彼と秘密の会瀬を繰り返していた教室で、別れの言葉を探しあぐねていたところ、騒がしくも微笑ましい後輩たちがやって来た。


お祝いの用意をしたからと彼らに腕を引っ張られ、教室を出る間際に振り返る。



―…じゃあ、失礼します。


―ああ。



あっけない別れ。


さっぱりした終わり。



後輩たちが個人的な送別会をしてくれてる間もずっと、彼のことが頭を離れなかった。





最初から、先を考えない恋。


始まりは、強引に奪っていった彼に流されただけだったのに。



――皆の生徒会長様が、男の下でこんな顔するって知ってるの、俺だけか?


私を資料室のソファに組敷いて、囁いた、意地悪な笑み。


嫌だと言いながら、女として扱われることにゾクゾクした。




私は、真面目でしっかりした優等生というイメージから離れたくて、


彼は一時のスリルを味わいたかっただけ。


教師と女生徒の秘密の関係を、楽しんでいただけだから。



卒業したら終わり。



今日で終わりなの。




大きな花束を持って、みんなに見送られて、もう私の居場所ではなくなった生徒会室を出る。



式が終わった校舎はシンとしていて、大半の生徒たちはすでに帰ったあと。


もう、この校舎を出れば、私はここの生徒じゃなくなる。


苦しくて幸せで辛くて楽しかった高校生活も終わり―――




………




本当に?


終わりなの?


終わることが出来るの?




言わなくちゃいけないことが、残ってるんじゃないの?




強引に奪われた。

流された。

秘密の関係を楽しんで――、


なんて、誤魔化したって、間違えようもないことがある。



貴方が好きなの。



まだちゃんと、貴方が好きだと言ってない―――、




「……おい。おいおいコラ、どこに行く」


門を出る手前でクルリと踵を返し、校内へ戻ろうとした私を呼び止める声。




彼の、声。



振り返ると門の外、コートのポケットに手を突っ込んで、困った瞳で私を見てる、先生の姿。


「ようやくここまで来たっつのに、またお前はどこに行くんだ」


……貴方のところよ。


ちょいちょいと手招きで、彼が私を呼ぶ。

わけがわからなくて、ふらふらと呼ばれるまま傍に行く――校門の、外に。


門を一歩踏み出した途端、

フワリと暖かいものに包まれて、私は硬直した。


……学校の外で、私に触れるなんてことなかったのに。


だから、学内だけの関係だって、そう思ってたのに。


「……やっとだな」


耳の側でささやかれる声に今さらときめいて、でもそこが校門の前だということにあらためて気付いて慌てた。


離れようとして、きつく抱きしめ直される。


せんせい、と言いかけた唇を塞がれて―――、


「もう先生じゃない」


お前も生徒じゃないだろう、と卒業証書をつついて、微笑む彼。


ドクドク鼓動がうるさくて、

足元がフワフワして、

その、予感に、目眩がした。



――愛してる――



待ち望んでいたその言葉を囁かれて、足が崩れる。


「っ…ふぇ…っ、せんせ…せんせいっ……」


支えるように抱きしめられる腕にしがみつき、泣きじゃくりながら胸に顔を埋める。


「先生じゃなくて――、」


促されるまま、名前を呼ぶ。


ずっと呼びたかった貴方の名前を。


好きです、限られた関係なんてイヤ、傍にいたいの、いて欲しいの、好きなの――、


堰を切ったように、今まで我慢していた言葉が溢れる。


それにいちいち返事をしながら、彼の抱きしめる力が強くなるから。


痛くて苦しくて、これが夢じゃないって分かったの。



涙でグシャグシャになった顔を両手で包まれて。


触れ合うだけのくちづけ。


まっすぐに、私を見つめる瞳。


貴方からの、ずっと一緒にいるため約束の言葉に、必死に頷きを返して。




私たちの今までに別れを告げる。


新しいこれからが始まる―――。





了.

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