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麻布十番の訳アリ女占い師  作者: 玄武岩
狙われた先輩
2/9

今夜の出張鑑定

 俺はあれから明美と交代でエレーナの助手を務めたり、伯父さんの喫茶店を手伝ったりと本当に忙しく働いた。

 

 そして今ようやく店を閉める時間がやってきた。

 

 この瞬間が一日で一番ほっとする時だ。

 

 さあ最後の客も帰ったし、戸締りと後片付けをしてとっとと部屋に帰るかな。

 

「恵理ちゃん。残りはこっちでやっとくからもう上がって。」

 

 俺がカウンターの掃除を終えた恵理ちゃんにそう声をかけると、

 

「はーい。ではお先に失礼します。」

 

 と彼女の元気な返事が帰って来た。

 

 

 彼女は牧原(まきはら)恵理(えり)ちゃん。

 

 最初はリリィの占いが始まった頃に客としてこの店にやってきた。

 

 そこでなぜかリリィが気まぐれを起こして無料で出張鑑定まで行って、恵理ちゃんの父親がカルト宗教絡みの女詐欺師達に食い物にされてる事を見抜いて一家を救った事がある。

 

 今にして思えばそれが最初の出張鑑定だった。

 

 でも毎回こうだとたまらないので、後で明美がしっかりと出張鑑定の料金体系を作ってたけど・・・

 

 話は普通ここで終わるのだが、律儀な恵理ちゃんは後日梟までやってきて、『今回は本当にありがとうございました。かかったお金はすぐに払えないけど、必ず払いますからここで働かせて下さい。』と言ってきた。

 

 リリィも俺達もはそんなつもりは無かったし、まだ高校生の恵理ちゃんに無理はさせたくなかったからお互い押し問答になってたけど、それを聞いていた伯父さんがこんな提案をしてきた。

 

 『リリィの占いが繁盛してくると同時に喫茶店も繁盛してきてるから、喫茶店を手伝ってもらうのはどうか』と。

 

 『当然タダで労働させるなんてできないからバイト料は普通に払うけど、その金額の一部を天引きしてリリィに支払っていく』という事でどうかと。

 

 但し、『学業最優先にする事と、店がどんなに忙しくても20:00迄に上がる事』を条件に加えた所が伯父さんらしい。

 

 それがお互いの良い落とし所になったらしくて、恵理ちゃんはとても喜んでいたし俺達も納得した。

 

 

 そんな恵理ちゃんは、今ではここには無くてはならない戦力になっている。

 

 伯父さんによると元々可愛いから客受けも良いし、その上客あしらいも上手との事。

 

 占いの順番が来た客の呼び出しや入口への案内もやってくれているし、本当によく気が付く。

 

 

 ただ伯父さんが実質的に彼女の給料を天引きする事は無かったし、リリィも決して受け取ろうとはしなかった。

 

 給与明細上は引いているものの、伯父さんが別の手当てを作ってその分上乗せしていた。


 同じ金額だと流石にバレるので、色をつけた金額をだ。

 

 なぜ色をつけたかというと、一重に彼女の働きが素晴らしいから。

 

 これは伯父さんがリリィと相談して決めたとの事。


 いつか恵理ちゃんがここを離れる日が来ると思う。

 

 でもそんな日は来てほしくない。

 

 もし彼女がいなくなったら、あれから更に忙しくなった店は回らなくなるし、そんな事態は想像したくもない。


 新しい人を雇うにしても、こんなに良い子は早々見つからないだろう。

 

 

 そんな事を思いながら入り口の施錠に向かった俺の背中に声をかけた者がいた。

 

「おい宏、今から出張鑑定に行くぞ。」


 と言ってきたのはフードとマスクと手袋を取った占い師リリィことエレーナである。

 

「今日の客で頼んできたのがいたのか?」


「いいや。相手はお前の先輩じゃ。」


「え?由香里先輩の事か?」


「そうじゃ。わかったらさっさと支度しろ。」


 なんかえらく展開が早いな。

 

 俺はまだ先輩に連絡を取ってないから明美から連絡させたんだな。

 

 頭も体もお休みモードに入っていた俺は無理矢理お仕事モードに切り替えた。

 

 相手はお世話になってる先輩だし頑張るしかないな。

 

 

 俺が地下駐車場に降りて一通り車の点検を済ませてエンジンをかけると、エレーナと明美が連れ立ってやってきた。

 

 そしてエレーナは後ろの席に、明美は助手席に乗り込んできたのだが、様子がいつもと違っていた。

 

 エレーナはさっき俺に声をかけてきた時のマスクやフードや手袋を外した占い師の姿のままだが、明美は助手の格好をしていない。

 

 よそ行きではあるんだが、普段の格好に近い。

 

 俺が運転手をやる時はいつもエレーナに合わせているのに、今日はどうしたんだ?

 

「ごめん。今日はあんたが助手やって。それとあんたの着替えは後ろに積んでるから現地で着替えて。何なら運転代わろうか?」

 

 と俺の疑問に答える様に明美は言ってきた。

 

 後ろを確認すると、確かにその着替えは俺の真後ろの席に占い道具が入ったカバンと一緒に置いてあるようだ。

 

「別に良い。気分転換になるしな。」


 

 とりあえず先輩の所に向かおう。


 明美がまだゴソゴソと荷物をいじってるけど走っても問題無いだろう。

 

 そう思った俺は車を出した。

 

 そして地上に出た途端に「停めて。」と明美に制された。

 

「どうした?忘れ物か?」

 

「違うの、白金台じゃなくてこっちの住所をナビに入れるからちょっと待って。」

 

 何と行き先も俺の想像とは違っていた。

 

 確か由香里先輩は白金台のマンションに一人暮らしだったはずだ。

 

 それなのに違う所を指定ってどこかの店か?

 

 俺のそんな疑問を余所に明美はスマホの通話記録を聞きながらナビに住所を入力していた。

 

「終わり。ここに向かってね。」

 

「行き先は個室のあるレストランか何かか?」


 実際今までそういう場所へ出張した事は何度もある。

 

「違うわ。先輩の実家よ。」

 

 ナビに示された行き先は東京都渋谷区松濤か、白金台も相当なもんだがこちらも結構な高級住宅街だ。

 

 お金ってある人の所にはとことんあるもんだな。

 

 

 実際出張鑑定は安くない。

 

 出向く先によっては鑑定は深夜帯に及ぶし、訳あってエレーナを電車やバスに乗せるわけには行かないから車を出す事となる。

 

 車のガソリン代もかかるし、場所によっては高速代やパーキングの料金だってかかる。

 

 だから3人分の割増のギャラと車の運用費を出して頂ける相手に限って応じているのだ。

 

 そう考えると、梟での鑑定に比べて何倍もの料金がかかるから、結果として相手はそんな出費を(いと)わない人ばかりになってしまう。

 

 それでも依頼は少なくない。

 

 

 俺はナビの指示通り車を運転していた。

 

 それにしてもさっきからやはり気になるのが明美の様子。

 

「所で明美。何で急に俺が助手になったんだ?」


 普段の出張鑑定の殆どがその日のお客さんの中から延長のような形で依頼されるから、そのお客さんの占いの現場にいた者が助手をやる事になっている。

 

 今回の場合は相手が先輩だから明美が助手をやると最初に言いだしたのだ。


「そこは先輩とさっき話してね。今から向かうのは先輩のご実家だから私が助手の格好でフード付きのローブなんて着てたら怪しいでしょうが。

 先輩の実家に行くのは随分久しぶりだし、先輩のご両親は私の事なんて覚えてないと思うけど、もし覚えられてたら事情を説明するのも面倒だしね。」


 そういう事か。

 

 いつも運転手は車か付近の喫茶店辺りで待機だから、その時間を利用して大学の課題の一つでも片付けようと思ったのだが、今日はそうも行かない様だ。 

 

 そんな事を考えながら運転していると、やがて車は指定の住所付近についたのだが、明美の指示で俺は門から少し手前の位置に車を停めた。

 

 改めて見ると、そこはかなりの豪邸で門構えからして凄かった。

 

「私がインターフォンでやり取りしてる間に二人とも準備して。」


 明美はそう言うと車を降りて門の横のインターフォンに向かった。

 

 それと同時に「ほれ。」とエレーナが助手席に俺のローブとマスクと手袋が入ったバッグを投げて寄越した。

 

「ありがとう。」


 と俺が一言礼を言ってから着替え(と言っても上から着るだけだが)を済ませた頃には、門からスーツを着た20代中頃に見える男性が出てきて明美に挨拶した後、運転席の横に立って一礼してきた。

 

 俺がウインドウを開けると、「ようこそいらっしゃいました。会長がお待ちです。車はこちらで移動しますので車のキーをお渡し下さい。」と言ってきたのでキーを渡すと、俺と入れ替わりに運転席に座って車を移動し始めた。

 

「見事に教育された動きじゃな。」


 とそう言ったエレーナの方を振り返ると、頭から指先まで完全な占い師リリィの姿になっていた。

 

 今の姿は顔全体どころか指先まで全て隠れていて、外からは体型から性別が女だと推測できる以外正体を見極められない状態になっている。

 

 因みに今の俺の格好もリリーとはローブの色が違うだけでほぼ同じ格好。なんか怪しい秘密結社の構成員みたいに見える。

 

 だから夜でなければこんな格好で外に出られない。もし人に見られたら不審者として通報されるだろう。

 

 俺とリリィは手招きする明美と合流して足早に門をくぐった。

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