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「これ、ほどいてよ」
目が覚めたら夜だった。薄暗い蛍光灯の下で、修二が缶ビールを飲んでいる。
彼はすぐにひもをほどいて、私を少しだけ自由にしてくれた。
「食う?」
修二がコンビニの袋いっぱいに入った、パンやおにぎりを差し出す。
私は首を振って
「それが飲みたい」
と、彼の手の中のビールを差した。修二はそのビールを私にくれて、私は喉を鳴らしてビールを飲む。
「なんか似合わないな」
修二が言った。
「あんたがビールを飲むなんて」
「おかしい?私がビールを飲んだら」
「うん、おかしい。あんたは放課後の音楽室で、クラリネット吹いてるイメージがあるから」
修二の言葉はとても不思議だ。私にこんなことをしている人間の言葉ではないような気がする。
私はいつしか、夕日の当たる音楽室にいるような、穏やかな気持ちになっていた。
「私のことを覚えているの?」
「もちろん」
修二がうなずく。
「よく休み時間に本を読んでた。友達はいたけど一人でいることのほうが多かった。サッカー部のキャプテンだったヤツに告白されたのにあっさり断って、そいつの仲間から嫌がらせをされていた。でもそんなガキみたいな連中のことなんか眼中になくて、いつもどこか遠くを見てた」
「よく知っているのね?もしかして昔から私のストーカーだった?」
私が冗談を言ったら修二はほんの少し笑って、そして新しいビールを開けた。
「ねえ、あんた」
そんな彼を見ながらベッドを降りる。
「あの夜、私を車に誘い込んだのはなぜ?」
彼は何も言わずにビールを飲む。
「あの夜、私たちが出会ったのは偶然だったの?それとも……」
「待ち伏せしてたんだ」
彼の言葉に私は少し身を引いた。私の言った冗談は、冗談ではなかったのかもしれない。
「あんたが会社帰りに通る道で、俺はあんたのことを待っていた。誘って車に乗せて、この部屋に連れてこようと思っていた」
私は何も言えなかった。修二のことが怖かった。
それは犯されるとか監禁されるとかそんなことではなくて、この人が私を愛しているということに気づいてしまったからだ。
彼が私をじっと見つめる。私もそんな彼を見る。
いつも顔を背けていたからわからなかったけど、彼の瞳はどこか哀しげで、そしてとても綺麗だった。私の好きだった人の瞳に少し似ていた。
黙り込んでいる私を修二が抱きすくめ、そっと床に押し倒す。私は目をそらさず、彼のことを見つめ続ける。
彼は切ない表情をして私の唇にキスをした。