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 私の引越しが終わった後、忘れていた荷物を取りに実家に帰ったら、ガレージに高級車が止まっていた。

 驚いて父に聞いたら「車を買い換えたんだ」とさらりと言われた。

 母が立つキッチンも綺麗にリフォームされた後だった。

 母は「保険を解約したからお金がおりたのよ」などと言っていたが、それはどうも嘘臭かった。

 荷物が少し大きかったので、兄が車で送ってくれた。その車の中で、私は兄から信じられないような話を聞く。


「父さんたちは、お前を軟禁していた男の親から金をもらったんだよ」

「嘘でしょ……そんなこと一言も……」

「嘘じゃないさ。お前が意識を失っている間に、口止め料としてあの上司から金を受け取った。向こうは息子の不祥事を会社に知られたくなくて必死だったから、うちの親も調子に乗ってかなりの額を要求していた。お前は親たちにいいように利用されていただけなんだよ」

 目の前が真っ暗になるというのはこういうことだろうか。

 私のことを本当に心配して想ってくれている人などいなかったのだ。

 現実の世界はすべてが嘘で固められていて、そして人々の心の中は世間体や金や欲望が汚らしく渦巻いているだけなのだ。

「止めて」

 私が言う。兄が道の端に車を止めて、私はそこから飛び降りる。

「どこへ行くんだよ!」

 車の外は薄暗く、冷たい雨が降っていた。兄の私を呼ぶ声がどんどん遠ざかる。


 修二に会いたい……そう思ってただひたすら雨の中を走った。

 彼と最後に別れた噴水前に行ってみる。

 噴水の水と降りしきる雨がライトに照らされ、七色に光っている。

 私が車に連れ込まれた会社帰りの道にも行ってみた。

 傘を差したサラリーマンが足早に通り過ぎるだけだ。

 気がつくと私は、二人で過ごしたあのアパートの前に立っていた。

 雨に濡れる窓を見上げて修二の素直な言葉を思い出す。

 だけどどこにも彼の姿は見えない。見えるはずがない。彼はこの街を出ると言ったのだから。

「どこにいるのよ!」

 私はいつの間にか声をあげていた。

「いるんでしょ!その辺に!私の後をつけてどこかでこっそり見ているんでしょ!」

 雨の中で泣き叫ぶ私のことを、通りすがりの人が怪訝な目で眺めている。

「出てきてよ、修二……もう一度私の前に現れて……」

 私はその場にうずくまり泣き崩れた。

 彼が、もう一度私の前に現れてくれたなら、私は今度こそ傘を差しかけてあげるのに……

 雨は無言で降りしきり、私の髪を濡らしてゆく。


 そして次の朝、雨で増水した川の中で、一人の男の遺体が発見された。

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