12
アパートの前に車が1台止まっている。私はそこで立ち止まる。
「修二に会ってから帰ります」
部長は驚いたような顔で私を見た。
「何言っているんだ。あいつが帰ってきたら何をされるかわからないぞ。さあ、早く車に乗って」
「でも私が急にいなくなったら修二が……」
その時、部長の肩越しに修二が見えた。彼はコンビニの袋をぶらさげたまま呆然と突っ立っている。
「早く乗るんだ!」
部長が私を車に押し込めようとしたのと、修二が彼を殴り飛ばしたのが同時だった。
部長はよろめいて地面に倒れる。
私が顔を上げたら、修二は私の髪をつかんで車の窓ガラスに叩きつけた。
「逃げないって言っただろ!?」
「逃げるんじゃないわ」
「俺のそばを離れないって言ったじゃないか!」
「離れないわよ。でもこのままじゃいけないの。私はきちんと両親と話して、会社を辞めてあなたのところに戻ってくる」
「戻ってくるわけない」
修二が言った。私は彼に髪をつかまれたままその瞳を見つめる。
彼は親に捨てられた子供のような哀しい目をしていた。
「どうしてこのままじゃいけないんだよ?このままあの部屋で暮らそうよ。間違っているところは直すから。金がなくなったら俺がちゃんと働くから」
彼が泣きそうな声で言う。
私も昨日の夜抱きしめた彼のぬくもりを思い出し、涙が出そうになったが、部長の懇願するような目を見たらやはりこう言ってしまった。
「駄目よ。このままでは私たちは変わることはできない。一度ちゃんと現実を見てからもう一度やり直しましょう」
私の言葉を彼は理解できないようだった。
次の瞬間、私は思いっきり頭を窓ガラスに叩きつけられた。