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 次の朝、部屋のドアを激しく叩く音で私は目覚めた。

 とっさに修二のぬくもりを探したけれど、隣に彼の姿はない。

 私はゆっくりと起き上がり鍵のかかったドアに近寄る。そういえば今までこの部屋に、誰かが訪ねてくることは一度もなかった。

「誰?」

 つぶやいてみる。するとしばらくの沈黙の後、ドアの向こうから答えが返った。

「私だ」

 私はすぐに鍵を開けてドアを開いた。そこには私の好きだったあの人の姿があった。

「昨日の電話は……申し訳なかった。まさか君が出るとは思っていなかったし……もちろんあれは本心なんかじゃないんだよ」

 私の耳に、いつも私のことを好きだと言ってくれた、頼りがいのあるあの人の声が聞こえる。

 だけど今日のそれは嘘で固められたただの言い訳にしか聞こえなくて、私は情けなくて悲しくなった。

「修二が君を人質に金をよこせなどふざけたことを言うから、ああ言えばヤツが君から手を引くと思って……」

「もういいです」

 私が言ったら部長はホッとしたような顔をしてこう言った。

「さあ、帰ろう」

 彼の大きな手が私の前に差しのべられる。

「今朝、会社に君のご両親がみえた。君のことを本当に心配していた。息子の不祥事は私の責任だ。私も一緒に謝りに行くから」

 私は何も言わないでその手を見ていた。

 彼の腕では見慣れた腕時計が、正確に時を刻んでいる。

 彼はそんな私の手をつかんで外へ出た。太陽が眩しく輝き、私は急激に「現実」の世界に連れ戻された。

 両親は私のことを探している。一度会ってきちんと話をしなければいけない。

「このことは、どうか会社には内密に」

 部長の声が耳元で聞こえる。

 私が何も答えなかったら、彼は念を押すように、私の手を痛いほど強く握りしめた。

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