10
目が覚めたらまだ夜だった。
修二はベッドに座って、開かれたカーテンの向こう側を見ている。
ほのかな月の光を浴びるそのシルエットは、今にも消えてしまいそうに儚い。
私はゆっくりと体を起こしそんな彼の背中を見た。
「よく夢を見たんだ」
修二は私に言っているようでもあり、独り言を言っているようでもあった。
「夢の中のあんたは制服を着てる。誰もいない教室に一人ぼっちで座ってる」
私は修二の声を聞いていた。遥か昔に母親の胎内で聞いたような、少しくぐもったどこか懐かしいその声を。
「俺はそんなあんたを抱きしめたかった。ただ抱きしめたかっただけなんだ……それなのに俺が近寄ると、あんたはいつも顔を背ける。だから俺はあんたの首に手をかけて……最後には殺してしまうんだ」
修二の言葉を聞きながら、私は怒りも恐怖も感じなかった。彼は背中を向けたまま続けて言う。
「目が覚めるとなぜかいつも涙が出てる。泣きながら夢の中のあんたに何度も謝るんだけど……次の日にはまた同じ夢を見る」
彼はゆっくりと振り返って私を見た。私も黙って彼を見る。
「どうしたらいいのか、わからないんだ」
彼の瞳は月明かりの中、少し潤んで見えた。
「あんな親父に育てられた俺は、こんな歪んだ愛し方しかできない。愛されたことがないから愛することができないんだ」
「私もよ……私もあんたと同じなの」
自分の声が、静寂な空気の中に溶けてゆく。
「だけどこれから覚えればいい。まだ大丈夫……私はずっと修二のそばを離れないから」
彼は黙って私を見ていた。
私の手が彼の手のひらをそっと包む。彼はかすかに震えながら私の体を抱き寄せる。
静かに流れる時の中で、私たちは抱き合った。
修二と体を寄せ合って、こんなに穏やかな気持ちになれたのは初めてだ。
「俺のこと怖くないの?」
私にキスをした唇で、修二が言った。
「怖くないよ。あんたは少し間違っているだけ。人の愛し方をほんの少し間違っているだけ……」
彼は小さく微笑み、私の体をゆっくりと倒す。
長いキスを一回だけして、私たちはただ抱き合って眠る。
かすかにきしむベッドの音も、今夜は子守唄のように優しく聞こえた。