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 目が覚めたらまだ夜だった。

 修二はベッドに座って、開かれたカーテンの向こう側を見ている。

 ほのかな月の光を浴びるそのシルエットは、今にも消えてしまいそうに儚い。

 私はゆっくりと体を起こしそんな彼の背中を見た。

「よく夢を見たんだ」

 修二は私に言っているようでもあり、独り言を言っているようでもあった。

「夢の中のあんたは制服を着てる。誰もいない教室に一人ぼっちで座ってる」

 私は修二の声を聞いていた。遥か昔に母親の胎内で聞いたような、少しくぐもったどこか懐かしいその声を。

「俺はそんなあんたを抱きしめたかった。ただ抱きしめたかっただけなんだ……それなのに俺が近寄ると、あんたはいつも顔を背ける。だから俺はあんたの首に手をかけて……最後には殺してしまうんだ」

 修二の言葉を聞きながら、私は怒りも恐怖も感じなかった。彼は背中を向けたまま続けて言う。

「目が覚めるとなぜかいつも涙が出てる。泣きながら夢の中のあんたに何度も謝るんだけど……次の日にはまた同じ夢を見る」

 彼はゆっくりと振り返って私を見た。私も黙って彼を見る。

「どうしたらいいのか、わからないんだ」

 彼の瞳は月明かりの中、少し潤んで見えた。

「あんな親父に育てられた俺は、こんな歪んだ愛し方しかできない。愛されたことがないから愛することができないんだ」

「私もよ……私もあんたと同じなの」

 自分の声が、静寂な空気の中に溶けてゆく。

「だけどこれから覚えればいい。まだ大丈夫……私はずっと修二のそばを離れないから」

 彼は黙って私を見ていた。

 私の手が彼の手のひらをそっと包む。彼はかすかに震えながら私の体を抱き寄せる。

 静かに流れる時の中で、私たちは抱き合った。

 修二と体を寄せ合って、こんなに穏やかな気持ちになれたのは初めてだ。

「俺のこと怖くないの?」

 私にキスをした唇で、修二が言った。

「怖くないよ。あんたは少し間違っているだけ。人の愛し方をほんの少し間違っているだけ……」

 彼は小さく微笑み、私の体をゆっくりと倒す。

 長いキスを一回だけして、私たちはただ抱き合って眠る。

 かすかにきしむベッドの音も、今夜は子守唄のように優しく聞こえた。

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