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閉ざされたカーテン。時計のない部屋。わずかに差し込む、頼りない朝の日差し。
目を開けて、けだるい体をゆっくりと起こす。
すると、沸騰したやかんをぼんやり見ていた修二がこちらを向いた。
「お腹すいた……」
私がつぶやく。
修二は何も言わないまま、手元にあった菓子パンを私に投げた。
修二とは、中学の時に一度だけ同じクラスになったことがある。だけど特別親しかったわけではない。
私はどちらかというと目立たない、吹奏楽部でクラリネットを吹いているような少女だったし、彼は髪を赤く染めた、派手な男の子たちといることが多かった気がする。
中学卒業後の修二は噂でしか知らない。
私は高校・短大・就職と進んだが、彼は高校を中退し、ぶらぶらしていると聞いたことがある。
だけどこの街で修二を見かけることは一度もなく、私の記憶の中で、もう彼の存在は消えていたはずだった。
それなのにあの夜、私は会社帰りに修二と出会い、そして車に乗せられて、今彼のアパートに二人きりでいる。