『あいつ』って、誰ですか?
『──で、どうすんの?あいつの告白オッケーすんの?』
ベッドの上でぼーっと、赤嶺君のことを考えていたら、私の胸辺りから夏弥お兄ちゃんの気だるげな声が聴こえてきた。
「…何で赤嶺君のこと考えてるって分かったの?やっぱり、私の心の声聴こえてる?」
『聴こえねーよ。けど、だいたい察しはつくだろ』
私には『心の中の声』がふたつある。ひとつは、普通に独り言のように心の中で思ったりするもの。もうひとつは、私の中にいるお兄ちゃんに向けて、心の中で話しかけるもの。
お兄ちゃんと話する時はつい声に出しちゃうけど、それを人前でやると、独り言の激しいヤバイやつになるから、人前とか、周りに誰かがいる時には、声に出さずに、心の中で話すようにしてお兄ちゃんに話しかける。
つまり今、ぼーっとしながら「告白どうしよう…」と、心の中で独り言のように思っていたことは、お兄ちゃんには聴こえていない。お兄ちゃんの魂が私の身体の中にあっても、個人の心の声や、お互いの本音は聞こえないし、分からない。
だからお兄ちゃんは、私の本音なんて…きっと、知らない。
『まあ…俺は反対だな、ああいうヤツ。学校のアイドルだか何だか知らねーけど、なんかいけすかねぇんだよな』
「何それ、ただのヒガミじゃん。あはぁ~…さてはお兄ちゃん、モテなかったんでしょ~?」
にやにやしながら、私はお兄ちゃんにイジワルなことを言った。
『ばーか!俺は昔、結構モテてたんだよ』
「へ~…あ、そう…モテてたんだ…」
『そういやアイツ…どうしてんだろ…』
「…あいつ?」
『…いや、何でもない。そんなことより、お前はどうするんだよ?あのヤローと付き合うのか?まあ、お前が誰と付き合おうが俺には関係ないけど、ああいう爽やかでモテるヤツはだいたい、何人の女とヤッたみたいな記録とか、武勇伝が欲しいだけだからな(※夏弥の個人的意見です。)』
「はあ!?赤嶺君はそんな人じゃないもん!なにそのお兄ちゃんの変な偏見!」
『偏見じゃねーよ!だいたいああいう好青年?純粋そうなヤツが、女をやたら泣かせてんだよ!!(※夏弥の個人的意見です!!)』
「ああもう!お兄ちゃんと話してたら赤嶺君に申し訳なくなってきた!もう寝る、おやすみっ!」
『おい、告白のことはどうすんだよ?』
「うるさいなー!お兄ちゃんには関係ないでしょ!私もう寝るから!それと、私が寝てる間に勝手に私の身体を使って、タバコ吸ったりしないでよ?わかった?!」
『うっせーな、わかってるよ!じゃあな!』
チッ!と舌打ちし、お兄ちゃんは静かになった。
「……」
何度寝返りを打ったか、わからない。眠れない。さっきのお兄ちゃんの言葉が気になって、うまく寝付けない。
『そういやアイツ…どうしてんだろ…』
さっきのお兄ちゃんの声が、繰り返し、私の中で再生される。少し寂しげな声…だった。
あいつって、誰なんだろ…?
生前のお兄ちゃんの話は、あまり聴いたことがない。私自身、お兄ちゃんの器を…命を奪ってしまったという負い目があるから、聴いてみたくても聴けない。
…やっと、ふわふわと、眠くなってきた。
「…ねえ、お兄ちゃん……」
『あいつ』って誰……なの?────………
そんな言葉が、身体の奥にとけていった…