たまにはおっぱいくらい揉むかもしんね
「はぁ~…朝からほんとサイアク…」
家を出て、私は通学路をとぼとぼと歩いていた。もちろん、夏弥お兄ちゃんも私の身体の中に居る。私とお兄ちゃんは、四六時中一緒に居る。
「お兄ちゃん、くれぐれも学校では絶っっ対に出てこないでね。お兄ちゃんが私の身体を使うと、ろくなことにならないから」
周りに人は居ないけど、万が一、誰かに話し声が聴こえないようにと、小さな声で私の胸辺りに話す。まあ別に、声に出して話さなくてもいいんだけど。するとお兄ちゃんは『へーへー』と、てきとーな感じの返事をした。
「も~、本当に分かってる?前みたいになったら嫌だからね」
『分かってるってば!つうか、あれはお前が気絶したから、仕方なくそうしたんだろーが』
「うっ…そうだけど…」
『俺に身体を使われたくなかったら、気絶する前に保健室に行くなりなんなりしろよな』
はぁ~…と、ため息混じりに、お兄ちゃんはそう言った。
「…むう、わかりました…」
口を尖らせながら、私は返事をした。
少し前、体育館で全校集会をした時。体調が悪かった私は、体育館で気絶した。気絶した直後、私の代わりにお兄ちゃんが私の身体を動かして、自力で保健室に行ってくれたみたいなんだけど…
「…でも、あの時はほんと大変だったんだから。『人格が変わったみたいだった』とか『言葉が乱暴で怖かった』とか、みんなに散々言われたんだから」
『しようがないだろ、お前と俺は違うんだし。俺は男だしよ。…まあでも、必要以上にお前の身体を使ったりしねぇから、安心しろよ』
「…うん」
私の中に居る夏弥お兄ちゃん。夏弥お兄ちゃんは私の魂とは別の魂で。
もともと、お兄ちゃんはお兄ちゃんで別の…自身の身体があった。けど、私のせいで、お兄ちゃんは自身の身体に戻れなくなってしまった。というか…戻る身体が無くなってしまったのだ。
私のせい…で。
『あでも、たまにはおっぱいくらい揉むかもしんね』
「はあ!?ほんっと夏弥お兄ちゃんさいってー!」
『いいじゃんか、おっぱい揉むくらい許可してくれてもさ~減る訳じゃないし。てかむしろ、揉んだら大きくなるって言うじゃん?お前の育乳の手伝いしてやるっていってんの~』
「もう!お兄ちゃんの変態っ!馬鹿っ!!」
ここが往来ということをすっかり忘れて、自分の胸辺りに怒鳴ると。
「ち、千穂ちゃんどうしたの?急に大きな声出して…」
後ろから声がして、ばっと振り向くと、そこには私の友達の深山蛍ちゃんが驚いた顔をして立っていた。
「うえ!?ほっ、蛍ちゃん!おっおはよう」
「おはよー…千穂ちゃんってお兄さんいるの?今お兄ちゃんの馬鹿とかなんとか聞こえたけど…」
「ぅあ、いやあの…そう!きっ、近所のお兄ちゃんとちょっとケンカしてて…それで、ちょっとそのことを思い出して怒ってたっていうか…」
「へ~そうなんだ…」
そう言って、蛍ちゃんはぎこちなく微笑んだ。
ううっ…引いたよね。あんな大きい独り言しゃべる、ヤバイやつとか思っちゃったよね…
恥ずかしくてちょっと泣きそうになっていると。
『ドン☆マイ』
と、私の胸辺りから、そんな夏弥お兄ちゃんのふざけた声がした。
『あんたのせいでしようがあああああ!!!』
私は内心で、お兄ちゃんに怒鳴った。