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曹操が死んだ日、俺は『曹昂』になった。─『宛城の戦い』で死んだのは曹昂じゃなくて曹操だったけど、これから俺はどう生き残れば良いですか?─  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第三章 曹昂の嫁取り

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55話 大事な初戦


 騎兵が主力の軍で車蒙陣を打ち破るには、この兵車をどうにかしないことには始まらない。

 突貫を行おうとしても鹿角車がそれを防ぎ、騎射を行っても偏箱車に防がれ、逆に弩兵に射貫かれる。


 これが攻城戦であれば、岩を落としたり、火矢をどしどしと射かけることで兵車を破壊できる。

 しかし、ここは平野だ。もはや歩兵を前面に出して兵車を破壊するしか術はない。


 呂布軍は騎兵を下げ、軽装歩兵を再び前面に展開。

 だが、そうなると数で勝るこちらが強い。兵車を停止させ、こちらも歩兵を繰り出す。


「前進と後退。この二つを徹底して各部隊に覚えさせる。父上がやっていたことが活きているな」


「殿、ここで一気に攻勢を仕掛けては」


「焦るな、荀攸。呂布は一人で戦況をひっくり返せる。ここは将軍達の、現場の判断に任せる」


「御意」


 兵数有利を保てば勝てる。下手に動かず、どっしりと構えていればいい。

 現場の混乱は、上層部からの下手な命令から生まれることは歴史が証明している。


 俺がやるべきことはもうない。ただただ、皆を信じるのみ。

 拳を強く握り、奥歯を噛みしめる。呂布よ、さぁ、どこから来る。


「劉延将軍より伝令! 曹車騎は左翼へご移動ください!」


「何が起きた」


「敵左翼から少数の騎兵部隊が離脱したのが見えたため、用心を重ね、ご移動を願います!」


「分かった。将軍に従おう」


 兵車と相対しても勝てないのなら、大きく迂回し、脇腹を突こうという意図だろう。

 この対応力と機動力。これは騎兵にしか成せない一手だな。


 だが、それも想定内ではあった。

 迅速に虎豹騎が動き出し、後方に備えていた予備の鹿角車が右翼へと向かう。


 決して直接斬りあうようなことはしない。

 遠巻きから騎射を繰り返し、こちらの脇腹を突こうとする敵兵の足並みを乱す。


 その間に鹿角車が新たな壁を構築。再び、強弩の射撃が并州騎馬兵を襲った。

 実に落ち着いた用兵術だ。劉延将軍と、その補佐役の二人の手腕が如何なく発揮されている。


 そしてついに先鋒が前線を押し込み、呂布軍は壊走を始めた。

 追撃を始める青州兵を懸命に押し留め、斥候を出して敵の動きを観察させるだけに留める。


 撤退からの反抗作戦は、騎馬部隊の得意戦術であった。

 だから絶対に、油断はしない。どうせ呂布に逃げ場は無いのだ。


 こうして「留県の戦い」は、曹昂軍の大勝で幕を閉じる。

 いよいよ、徐州攻略戦は最終局面へと移行しようとしていた。



 呂布の敗戦を受け、劉備と対峙していた高順も退却を開始。

 そのまま彼らは彭城を捨て、下ヒ城にて軍の立て直しを図ることとなった。


 だが、手際が良すぎる気もする。

 もしかすると初めから呂布は平野ではなく、下ヒ城を決戦の地と定めていたのでは。


 呂布軍といえば騎馬兵であり、それが最も活きるのが野戦である。

 その得意分野を捨て、敢えて最深部に誘い込んでの反抗作戦を考えている。


 それを考えた時、背筋が凍えた。これは防衛側の必勝戦術だ。

 敵を深くまで誘い込み、攻勢を堪え、疲弊したところを一気に叩き潰す。


「やはり呂布を討たない限り、勝利に浮かれることは出来ない」


「殿、お呼びでしょうか」


「忙しいところ済まない、荀攸。ひとつ聞いておきたいことがあった」


「何でしょうか」


「俺は彭城に入ったその日に、厳命を降した。略奪を禁じると。経過はどうだ」


「不満の声が上がってますね、特に青州兵からは。ですがまぁ、青州兵にしては珍しく、文句を言うだけで命は守っています」


 せっかく先の戦いで第一の軍功を挙げたんだ。下手に罪を犯して没収されたくないのだろう。

 これも不其がよく言って聞かせてくれているのかもしれない。本当にありがたい話だ。


「問題は、兗州豪族の者達です。此度の徴兵は彼らに頼っている部分もあるので、勝手に判断を降すところも多いのです」


「というと、俺の指示を聞かずに、勝手に略奪をやっているところもあると」


「調査すれば見つかるでしょう。ですが彼らを処罰すると、より不満の声が強くなり、城攻め前に軍が揺らぎかねません」


 各地の有力者が抱えている農民らを徴兵するのは、こちらとしては非常に楽な面がある。

 細部の徴兵の事務を、全て彼らに任せられるからな。だが勿論、今回みたいな弊害もある。


 略奪は、正直、やって当然なのだ。そうでないと兵士が命懸けで戦う理由がなくなってしまう。

 国から渡せる褒賞にも限りがあり、それは決して、兵士達にとって十分なものではない。


 だからこそ奪うのだ。そうでもしないと、家族を養っていけないから。

 しかし今回だけは話が違う。これは侵略ではなく、併合が目的の攻勢であった。


「彭城近辺は、父上が大虐殺を行った地。同じことをしてはいけない。これからこの徐州の民は、仲間になる者達。略奪は絶対に許してはならん」


「如何、なさいますか」


「略奪を行った者を捕らえる。一人の兵士に至るまで、全て俺が軍法に則って裁く。兵も部隊長も校尉も将軍も、どこの出身であろうが、等しくだ」


 公平な裁判と、公平な税制度。これがある限り、民が政府に不満を抱くことは無い。

 まずはその第一歩を、彭城で示す。これには大きな意味があると、俺は思っている。


「わざわざ殿がやられなくとも、軍吏にお任せください。これから劉備将軍も合流され、軍議の予定も御座います」


「于禁将軍の部隊が強いのは、絶対に軍規の違反を許さないからだ。前面の敵より、背後にいる于禁が怖いから果敢に戦う。皆が勝利で浮かれている今だからこそ、厳しくするんだ」


「……分かりました。城攻めに関する戦略は、私と劉延将軍が主導して進めておきます」


「助かるよ」



・略奪行為

これをやるために、兵士は命がけで戦ってるまである。自分が生きるためにね。

敵地への攻勢とか侵略目的なら積極的にやっても戦略上は問題ない。兵糧の費用が浮くので。

しかし併呑が目的なら、後の統治までを考えると、あんまりやらない方が良い。


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― 新着の感想 ―
[一言] 于禁の厳格さは三国随一と読んで良いくらい真面目です。 知名度のある人だと他に匹敵する人知らないです。
[良い点] まあ、兵士にしてみれば「備考︰現地略奪アリ」だと思って雇われてるのに、現場でいきなり「あー、ウチは略奪ナシなんでー」って言われたらとんだブラック企業やんけ!ってなりますよね
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