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曹操が死んだ日、俺は『曹昂』になった。─『宛城の戦い』で死んだのは曹昂じゃなくて曹操だったけど、これから俺はどう生き残れば良いですか?─  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
第三章 曹昂の嫁取り

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54話 留県の戦い


 呂布が軍を動かした。その数は一万。決戦の時である。

 荀攸が指し示した決戦の地は、徐州彭城国留県の河川沿いだ。


 この決戦に勝てれば、徐州の要である彭城に王手を掛けられる。

 そして彭城を抜けばあとは、徐州の中核である下ヒ城を残すのみ。


 その為にもまずは、この初戦だ。この初戦に勝たないことには始まらない。

 倍する兵力がこちらにあるとはいえ、相手はあの呂布。絶対に油断はしちゃいけない。


「呂布は劉備の抑えに誰を残した」


「高順です。副将に曹性。両者共に呂布軍きっての勇将です」


「侯成の話では、高順は特に呂布に冷遇されていた。呂布はその男を、この場面で信じたのか」


「陳宮に嫌われていたが故に冷遇していたのでしょう。しかし今、その陳宮は居りません」


「災いが、転じたか」


 史実においても、高順は呂布軍きっての名将として記されていた。

 戦えば必ず敵陣を陥落させたことから、高順の部隊は「陥陣営」の異名がつけられたとか。


 しかし呂布はそんな高順を冷遇し続け、重く用いなかった。おまけに陳宮との相性も最悪。

 だが、今は違う。呂布はここに来て、その高順に命運を託せるようになってしまった。


「戦場は留県。左手側の河川に沿って布陣し、敵の騎兵の動きを制限します」


「分かった。全て手筈通りに動くぞ。杜襲にもそう伝えてくれ」


「御意」



 この広い天下のうち、精鋭の騎兵部隊を産出するのは「幽州・涼州・并州」の三つだ。

 呂布が束ねる騎兵部隊は、そのうちの并州出身者から構成されたものとなっている。

 また、荀攸が言うには出身によってそれぞれ、異なる戦法を得意としているという。


 公孫瓚に代表される幽州騎馬兵は、正面からの突貫で敵を一瞬のうちに蹴散らす。

 董卓、今は張繍に代表される涼州騎馬兵は、数多の遊撃部隊によって敵の肉を削いでいく。


 そして呂布に代表される并州騎馬兵は、少数精鋭で敵の弱点に斬りこむことを得意とする。

 呂布という天才が見極めた一瞬の隙。そこを貫くことで、戦況をひっくり返すのだ。


「呂布さえ討てれば、機能は完全に停止する。とはいえ、それが最も難しいんだけどな」


「殿、布陣が完了しました」


「劉延将軍、後は委細お任せします。今、呂布軍に最も恐れられているのは将軍なのですから、堂々と戦って下さい」


「身に余る大役ですが、必ずや、勝利をお届けします」


 馬に跨ると、視線が高くなり少しだけ遠くまで見えるようになる。

 数百メートル先には、砂煙をもうもうと上げながら、騎兵の駆け回る呂布軍がある。


 騎兵と戦う場合は、平野を選んではいけない。これは兵法の鉄則だ。

 しかしその鉄則に反し、大勝利を挙げた戦役のことを、俺は「知っていた」。


「先鋒、前へ!!」


 劉延の合図と同時に銅鑼や太鼓が鳴り響き、雪崩を打ったように歩兵が駆けだした。

 前哨戦である。互いに軽装歩兵や騎兵を繰り出し、小競り合いを繰り返す。


 陣形なども何もない。各々が石や矢を放ち、白兵戦で敵を斬り倒す。

 この間に両軍とも陣形を整え、前進を行うのだ。


 つまり前哨戦で敵を押し込んでいる方が、より陣形をゆっくり、敵に合わせて展開できる。

 呂布相手に隙を見せないようにするためには、この前哨戦から気を抜いてはならない。


「許チョ、前線はどうなってる」


「数も、勢いもこちらが優勢。青州兵はやはり、攻勢側に回ってこそですね」


 軽装歩兵同士による小競り合い。その点において、青州兵は無類の強さを誇る。

 無駄な命令を聞くことなく、好きに自分達の裁量で戦えるし、両軍が衝突する前には退いても良い。


 それでいて敵が崩壊を始めたら、我先にと追撃を開始して美味しい所だけを持っていく。

 まさしく青州兵の気性に最も適しているともいえるだろう。


「呂布軍、たまらず騎兵を前面に展開。大きく広がっていきます」


「いよいよ始まるな」


 このまま手をこまねいていても、数で劣る呂布軍が不利な状況に追い込まれるだけだ。

 だったら先に動くしかない。そのために、初っ端から最強の手札を切ってきた。


 并州騎兵部隊が、ついに平野へ躍り出る。

 劉延将軍はそれを見て、軽装歩兵に退却の合図を送った。


 解き放たれた騎馬兵は、退却を行うこちらの歩兵を背後から弓矢で射止めていく。

 いくら青州兵の逃げ足が速いとはいえ、相手は馬だ。全員が無事というわけにもいかない。



「──車蒙陣を展開しろ! 鹿角車、偏箱車を前へ!!」



 三国志を統一した「西晋」王朝は、西方の騎馬民族によって大打撃を被ったことがある。

 その戦役を「禿髪樹機能とくはつじゅきのうの乱」といい、騎兵の恐ろしさを痛感する一大事であった。


 禿髪樹機能が率いる鮮卑の騎兵は特に強く、西晋王朝は何年もの間、鎮圧に難儀していた。

 そんな中、一人の名将が現れる。その名は「馬隆」。彼の用いた戦術が、この「車蒙陣」である。


 箱の前面に矛や槍を装填した鹿角車、敵の矢を防ぐように壁や屋根を備えた偏箱車。

 これらを展開して強弩を用いることで、敵の騎兵を平野で、しかも少数の兵で大破したのだ。


 騎兵の恐ろしさは、自在に駆け回りながら一方的に弓矢を放ってくるところにあった。

 しかしこれらの兵器を用いれば、騎兵による突進や射撃を防ぎつつ、兵車の中から一方的に敵を射貫ける。


「平野で騎兵に勝つための、ほぼ唯一の戦術だと言っても良い。しかもまだ誰も知らない、奇策だ」


 再び、銅鑼や太鼓がけたたましく鳴り響く。全軍での突撃命令である。

 このまま一気に勝負を決めに行く。前軍に遅れないよう、俺も馬を駆けさせた。



禿髪樹機能とくはつじゅきのうの乱

鮮卑族の禿髪部の長、樹機能が起こしたとされる西方での大反乱。

蜀漢を滅ぼし、天下統一目前だった西晋が孫呉征伐に動けなかったのはこれが原因、らしい。

反乱発生後、いきなり州刺史が二人も戦死するという未曽有の事態になった。


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 馬隆は強力な磁石で禿髪鮮卑の鉄騎兵を足止めして倒した、なんて話もありますが流石にこれは眉唾もいいとこですよなぁ。ネオジム磁石じゃあるまいし。 この話にあるように装甲車で機動力を封じる。これこ…
[一言] 部族名が禿髪とか嫌すぎるw
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