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34話 一方その頃


 夜更けの山中にて、土に汚れた男は、大きな蛙の皮を剝いで竹串に刺し、一つ一つ火に当て始めた。

 固い土を掘り起こして集めた小さな芋と、蛙の足が四本。これが今日の晩飯になる。


「ちくしょう、どこもかしこも呂布の兵だらけだ。ここまで回り道をしなきゃならんとは」


「そう言わないでくれ、劉兄。回り道なら慣れてるさ」


「張飛、もしかしなくともそれは皮肉か?」


 予想以上に陳宮の手回しが早く、兵を率いて兗州を抜けるのに相当な時間を食ってしまった。

 本来であれば直接徐州へと入る予定が、一度青州を経由して、徐州へ向かうことになったのだ。


 一足先に、関羽と孫乾らは徐州へ向かわせ、受け入れ先の確保へと動いている。

 徐州北部を統べる有力者「臧覇」と「昌キ」であれば恐らく、協力してくれるだろう。


「しかし、あの小僧も無茶なこと言いやがる。単独で徐州を落とせなど」


「まだ二十半ばだっけか? それであんな冷淡な目が出来るんだなぁ」


「曹操の死がよほど応えたのだろう。それにしても、あの曹操がこんなところで死ぬとはな」


 心の中で確信に近い思いがあった。天下を制するのは、この男になると。

 それと同時に、激しい怒りも覚えた。天に選ばれたのはこの劉備なのだ、と。


 終生の宿敵になると思っていた。だが、その宿敵はあっけなく死んだ。

 そして曹操を継ぐ者として、あの曹昂が立った。恐ろしく冷えた目をした若者だった。


「劉兄は曹昂をどう見てるんだ?」


「可哀想なヤツだと思う」


「どういうことだ?」


「俺にはお前や関羽、簡雍も居る。しかし、アレにはそういった心を許せる人間が居ない。いや、自ら拒む生き方をしている」


 赤味がかっていた足肉も、火に炙られて白濁へと色が変わっている。

 一つまみの塩をかけ、一口で骨ごと頬張る。鳥の首肉に似ていて、味はすごく良かった。


「人の上に立つ人間は孤独なんだ。誰も同じ目線になってくれないからな。だが、あの小僧のように自ら孤独を選んでいたら、ただただ寂しいだけよ」


「それじゃあ、その可哀想な小僧を、早く助けに行かなくちゃな」


「張飛、お前は馬鹿か? 助ける必要なんてない」


「へ?」


「曹昂は他人だ、仲間じゃない。仲間じゃないやつを助けるために、危険を冒す必要なんてない。俺らはゆっくりと徐州で足場を固めりゃいいんだよ」



 城を攻めるやり方というのは、大きく分けて三つしかない。

 力で壊すか、説得で門を開けるか、包囲して待つか、この三つだ。


 鳴かないホトトギスを鳴かすにはどうすればいいか、というのに似ているな。

 それで、基本的に最も愚策とされるのが「力攻め」である。

 

 大砲もミサイルもない時代に、城壁をどうにかしようとするのは凄く難しい。

 梯子や塔を用いて乗り越えるか、穴を掘って城内と繋げるか、城門をぶち破るか。


 攻め手は人海戦術以外にやれることが少なく、守る側は圧倒的に有利な状況で兵力を温存できる。

 そんな状況で無理に城を攻めるのは、人命と物資を大きく損なう「愚策」でしかないのだ。


 呂布も当然、そんなことは知っていた。

 故に俺らは今、完全に城が包囲されたまま膠着状態に陥っていた。


「お呼びでしょうか」


「城内に、間者はどれほどいる」


 俺の居室にぬらりと現れたのは一人の小汚い老婆だ。

 曹操が死んだとき、俺に遺言を伝えてくれたあの婆さんとはまた違う人っぽいな。


「詳しい数までは。されど、多くの者が紛れ込んでおります」


「没我だけで対応可能か」


「やれるだけやってみます。殿は万一のために、常に許チョ将軍を側に置いておいてくださいませ。決して、一人にならぬよう」


「分かった」


 勿論、包囲するだけしてそのまま放置プレイというわけではない。

 城は攻めない。しかし、城主の心を壊す。これが城攻めで最も効果的なのだ。


 外部から完全に遮断され、援軍が来るかも分からず、入ってくる情報は呂布軍の流した虚報ばかり。

 加えて絶えず誰かに命を狙われているという感覚に襲われ続ける。これが辛くないわけがない。


 俺がこの圧力に耐えきれずに門を開くと言えば、呂布は兵を損じることなく城を手に入れられる。

 もしくは、敗北を悟って困窮を極めた兵士による暴動か。メンタル管理の重要性をこんな状況で知ることになろうとは。


「なるほど、そこで私の出番と」


「壊れてしまってからでは遅いと思って」


 なんとなく、不其を呼んでみた。餅は餅屋かなと思って。

 不其はあの太平道の信者であり、巫女であり、易者だ。つまり人心のプロともいえる。


 現代日本では占いとか宗教と聞くと胡散臭さしかないわけだが、それらのそもそもの行動原理は「幸せ」だ。

 死に怯える老人に対し、科学や現実の話をしても、恐怖を更に大きなものにしてしまうだろう。


 だったら神秘的で安心する、あるかないか分からない「天国」の話をした方が良い。

 心の強さなんて人それぞれだ。だからこそ、弱き者を救うために、宗教はある。


「驚きました。曹昂様は、そういう不安から無関係だと思っていたので」


「戦場は考えることが多くて不安になる暇もないが、籠城だとそうもいかなくてな」


「なるほど、となると私が易を立てるというより、生活の習慣を変えた方がよろしいかもしれませんね」


「習慣?」


「健康は、常日頃の生活で保たれるものです。心も、身体も。一旦、籠城戦は置いておいて、適度な運動と食事と睡眠を心がけましょう!」


 え、なんか俺、馬鹿にされてる?

 それともリハビリ中のお爺ちゃんかなんかだと思われてる?



・城攻め

城の攻め方にもいろいろと方法はある。穴掘ったり、梯子使ったり、門ぶち破ったり。

しかしその中でも最も愚策とされる戦術が、蟻のように人間が人力でわらわらと城壁に群がるヤツ。

被害がただただ多くなるだけだからマジでやめろって兵法書にもよく書かれてる。


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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