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24話 死中の活


 呂布は、小沛を拠点として動かず、先鋒を担う「陳宮」「張遼」の部隊が兗州へと侵入していた。

 本格的な侵攻に入れないのは恐らく、袁術の動向が未だに不明だからであろう。


 揚州で軍を集結しつつある袁術が果たして、徐州に攻め込むのか、豫州に攻め込むのか。

 普通なら俺らの背後である豫州に攻め込む。しかし袁術という群雄は、そういった常識が通用する相手ではない。


 だからこそ皆が何となく止めておいた方が良いと思っていた皇帝の自称を、先陣切ってやってしまう。

 これを「先見の明」と見るか、それとも「盲目の馬鹿」と見るかは、歴史が明らかにするところだろう。


「陳宮は地元の名士ということもあり、しきりに兗州の有力者に協力を働き掛けております」


「四年前の反乱鎮圧は、程昱都督と曹洪将軍に依るところが大きかった。さて、どう対処すべきか」


 荀攸の報告を聞き、皆が唸る。


 軍議に並ぶのは、俺と劉備が同列に、それぞれの列にそれぞれの配下が連なっていた。

 俺の側には荀攸と董昭、そして于禁と曹仁だ。対する劉備の側には、関羽、張飛、麋竺、孫乾が座っている。


「劉豫州(劉備)殿は、戦力差を如何にみられますか」


「陳宮は兵を方々に放って反乱軍を募っている。故に本隊は一万だが、反乱軍は陳宮の説得次第でいくらにでも膨れるでしょうな」


「董昭、反乱に加担しそうな兵力は分かるか」


「鎮圧に時間がかかればかかるほど、と言ったところでしょう。現時点では一万を超えるかと」


 速戦即決が望ましい。しかし、袁術がどう動くか。いや、もうここはいっそ袁術は無視すべきか。

 頭では色々な道筋が立てられるが、どれも不明瞭で険しそうなものであった。


「ただ四年前と違い、兵糧は比較的に安定はしております。後方にある陳留郡が安定していることが救いです」


「ということはつまり、決戦で全てが決まるという事か。荀攸、どうすれば勝利と言える」


「ひとつは、陳宮を撃退すること。ふたつは、袁術の目を徐州に向けること。どちらか片方が成立すれば、窮地を脱せます」


「董昭、袁術を動かせるか」


「厳しいかと。袁術は、袁術の意思でしか動かぬ男です」


 であればやはり、陳宮を追い出すしかない。

 泰山郡の鉅平に陳宮の率いる侵攻軍が布陣している。


 呂布の率いる并州騎馬兵は、董卓の率いた涼州騎馬兵、公孫瓚の率いる幽州騎馬兵に並ぶ精強さを誇る。

 そしてそれを率いるのが、三国志最強の呼び声の高い「張遼」というのだから恐ろしい。


 こちらにも劉備軍の率いる騎馬兵と、曹仁の率いる虎豹騎がある。

 ただ、数でも練度でも敵には劣るだろうというのが、荀攸が事前に示した推察だった。


「攻める。それよりほかに、道はないだろう。時間が惜しい」


「私も曹鎮北(曹昂)殿に同意致す。数はこちらが上、迅速に動きましょう」


「荀攸、如何に攻めるべきだ」


「敵が布陣する地は河の流れに沿った、開けた土地です。勝負を決めるのはやはり、騎馬兵になります」


 こちらの戦い易い地に招き寄せるということは出来ない。

 敵の舞台に、上がらなければいけない。


 敵がどう攻めてくるかは既に読めている。

 片翼に騎馬戦力を集中させ、こちらの片翼を突破し、横を突く。


 読めてはいるが、対処は難しい。

 準備もなく、こちらが攻める側である以上、騎馬隊を止める術が無いのだ。


「故に側面を突かれるよりも早く、敵の戦列を突破します」


「軍師殿、簡単に言われるが、そのような無理が通る相手じゃないだろう」


「劉将軍、無理を押し通すのが我々の戦です」


 もしかしてだけどさ、史実で曹操があれだけ無茶な戦を繰り返して、生死の境でタップダンスしてたのって、コイツが原因?

 口で言うには簡単だけど、どう考えても無茶苦茶な戦術を、荀攸は真面目な顔で主張する。


 劉備に不安そうな顔を向けられるが、俺だって不安なんだが?

 でも皆の視線がある手前、無理という事も出来ず、胸を張るくらいしかできない。


「これは、曹鎮北殿のお手並み拝見ですな」


「殿、天下に武名を轟かせる良い機会です。呂布を討ち、後顧の憂いを潰してしまいましょう」


 その前に俺が潰れてしまいそうなんですけど。



「大将(陳宮)殿、曹昂軍がゆるゆると進軍中だ。こちらもそろそろ布陣を開始すべきと思うが、どうしようか?」


「戦は全て貴殿に任せる。殿もその様に言っていた。私は豪族らに送る書類や報酬の手配で忙しいのだ」


「もはや曹昂など眼中にないか」


「我が敵は曹操のみ、小僧など知らん。まぁ、劉備には気を付けた方が良いであろうが」


 やたら声が大きく闊達な若武者が張遼で、冠から髪をはみ出させるほど忙しなく書類を裁く文官が陳宮である。

 陳宮はもう、この戦の趨勢など考えてはおらず、兗州を奪った後のことを考えている有様だった。


 最大の障壁が消えた。我が故郷を荒廃の地にした鬼が死んだ。

 曹操の死は陳宮に大きな衝撃を与え、高揚させた。これで故郷に帰れると、確信を抱いた。


 いつもはイラっと来る無作法な張遼の物言いも、今の陳宮には気にならなかった。


「兗州での趨勢を素早く決する。そして袁術の付け入る隙を無くす。良いな?」


「無論、負けるつもりはない。我が騎馬隊は右翼に布陣する。大将は中央で本軍を率い、ゆるゆるとしておいてくれ」


「……地の利は得た。騎兵の優劣で戦は決する。万に一つも負けは無い」


 自分に言い聞かせるよう、陳宮は自軍の優位をいくつも何度も呟く。

 これで、長き戦いも終わる。故郷から青州の盗賊を追い出し、民の安寧を守ることが出来る。


 夢にまで思い描いた理想をこの手で掴む。

 陳宮は、高揚で手が震えていた。


「では、砦から出るぞ! 大将も筆遊びが終わり次第、戦場に来てくだされ!」


 張遼はゲラゲラと笑いながら、陳宮の部屋の扉を蹴り開いた。

 これにはさすがに陳宮も、わずかながら舌打ちを漏らしたのであった。



・陳宮

元々は曹操陣営の幕僚筆頭格であった。たぶん荀彧よりも上。

しかし兗州を顧みずに戦を続け、青州兵を用いる曹操から離反した。

その後は呂布に仕えるが、その呂布も裏切ろうとしたという話も……


・張遼

リアル三国無双。チート。泣く子も黙らす遼来来。

呂布の配下だったが、のちに曹操に仕えるようになった。

合肥の戦いにて、数百人で十万の大軍をボコボコのボコにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 張遼は三国志はもちろん 世界全体でもトップクラスだと思ってる 数百人で10万をフルボッコとか 漫画やなろうでやっても あり得ないと批判受けるのをリアルにやってるからね
[一言] そろそろ主人公の良いとこみてみたい。 まわりの武将任せでは演義の劉備みたい。
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